
「先生に対して、自分の意見を言っていいんですね」「薬を減らしたいと言ったら怒られると思っていました」。診察室で患者からそう告げられるたび、医師としての胸が締め付けられる思いがするという。
そう語るのは、東京都港区・神谷町にある「神谷町カリスメンタルクリニック」の松澤美愛院長だ。メンタルヘルスの重要性が叫ばれる昨今、心療内科や精神科の需要は高まり続けている。しかし、一度通い始めると出口が見えず、長期間にわたって通院と服薬を繰り返すケースも少なくない。そんな業界の常識に対し、「患者様の自走力を育て、クリニックを卒業してもらうこと」を明確なゴールに掲げる松澤院長にお話を伺った。
「症状を抑えて終わり」ではなく、調子を保つ力を
松澤
「精神科の治療において、薬は確かに有効な手段です。しかし、それが全てではありません。薬で症状を抑え込んでいる間に、患者さん自身が、どうすれば調子を崩さずに生きられるかという術を身につけなければ、薬をやめた後にまた元に戻ってしまう可能性がある。それでは根本的な改善にはつながりにくいのです」
松澤院長が目指すのは、対症療法的なアプローチに留まらず、患者自身が自分の心と体のコントロール方法を学び、再発を防ぐ力を養うことだ。いわば、魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える医療。2024年3月の開院以来、同院には「薬だけに頼りたくない」「根本から生活を見直したい」と願うビジネスパーソンたちが多く訪れる。彼らは一様に、社会という荒波の中で心身のバランスを崩し、それでもなお、自分の力で立ち上がりたいと願っている人々だ。そんな彼らに寄り添い、時に背中を押し、時に並走する松澤院長の診療スタイルは、従来の精神科医療の枠組みを大きく超えた、人間的な回復へのアプローチといえるだろう。

「先生に意見を言っていいんですね」。医療が生んだ、依存という弊害
なぜ、これほどまでに自走力にこだわるのか。その背景には、松澤院長がこれまでの医師人生で見聞きしてきた、現代医療が抱える構造的な課題がある。
「他のクリニックから転院されてきた患者さんとお話ししていると、多くの方が萎縮されています。『前の病院では、薬を変えてほしいと言ったら怒鳴られた』『何も言わずに黙って出されたものを飲めばいいと言われた』と。医師と患者の間に圧倒的な上下関係があり、患者さんが自分の体のことなのに、何も決められない状態に置かれているのです」
何年も、時には何十年も同じ薬を漫然と処方され続け、思考停止に陥ってしまっているケースも珍しくないという。
「それはある意味、経営的には正解なのかもしれません。患者さんが回復して卒業してしまえば、クリニックの収益は減りますから。そうした矛盾した経営常識が、暗黙の了解として存在している側面は否定できません」
しかし、松澤院長はその常識に真っ向から抗う。
「私はやっぱり、回復に向かって伴走する医者でありたいのです。患者さんが自分の足で歩けるようになること以上に、医師として嬉しいことはありませんから」
同院では、患者が医師に意見を言うことを歓迎する。「この薬は合わない気がする」「薬を使わずにやってみたい」。そんな患者の主体的な言葉こそが、回復への第一歩だと捉えているからだ。医師が主導権を握り、患者をコントロールするパターナリズムからの脱却。対等なパートナーとして、共に治療方針を決めていくプロセスそのものが、患者の奪われた自信を回復させるリハビリテーションになっている。

「眠れないなら、まずは運動を」。小さな成功体験を自走への燃料に
では、具体的にどのようにして患者の自走力を育てていくのか。同院の特徴的なアプローチの一つに、徹底した生活習慣への介入がある。例えば、不眠を訴える患者に対して、すぐに睡眠薬を処方して解決することはしない。
「もちろん薬を使えばその日は眠れるかもしれません。でも、それでは薬のおかげで眠れたという事実は残っても、自分で眠れたということにはなりません。薬がないと眠れないという不安が、新たな依存を生んでしまうのです」
松澤院長が提案するのは、実にシンプルで、かつ本質的な解決策だ。「今日は体が疲れていないから眠れないのかもしれません。まずは昼間に少し運動をして、体を物理的に疲れさせてみましょう」そうアドバイスをして、患者を送り出す。次の診察で「先生、言われた通り歩いてみたら、昨日はぐっすり眠れました」と報告を受けた時、そこには大きな変化が生まれている。「それは薬の力ではなく、あなた自身の行動が生み出した睡眠です」そう伝えると、患者の表情がパッと明るくなるという。
「自分でできたという小さな成功体験(自己効力感)を積み重ねていくこと。これこそが、メンタルヘルスにおける自走力を育むための重要なステップです」
運動だけでなく、食事、睡眠のリズムなど、生活の基本を整えることは、地味で遠回りに見えるかもしれない。しかし、自分の体を自分でコントロールできたという実感は、揺らぎやすい心にとって何よりの支えとなる。医師はあくまで伴走者であり、ハンドルを握るのは患者自身。
「アドバイスはしますが、実践して変化を起こすのは患者さんです。私はそのプロセスを見守り、その調子で大丈夫ですよ、と背中を押すだけ。患者さんが自分で解決策を見つけ、自走していく姿を見届けるのが、この仕事の一番の醍醐味ですね」
薬に頼らずとも、自分の行動で心身の調子を整えられるという自信。それこそが、再発を防ぎ、人生を健やかに歩み続けるための大きな力となる。
何かあったらまた戻ってくればいい。卒業後も続く、心のセーフティネット
「埼玉でも10年間、同じスタイルで診療をしてきました。時間をかけて話を聞き、生活改善を促し、薬を減らして卒業してもらう。一見、回転率が悪く、患者さんも減っていくように見えます。しかし、結果的に遠方からも多くの患者さんが集まるようになったのです」
さらに重要なのは、卒業が縁の切れ目ではないということだ。
「一度良くなって卒業された方も、人生には様々な波がありますから、また調子を崩すこともあります。そんな時、『あそこには私を受け入れてくれる場所があるのだ』という支えがあるから、早めに相談に戻ってきてくれるのです」
回復して卒業したら二度と来ないでください、というスタンスではない。自分で歩けるうちは自分で歩き、また少し疲れたら羽を休めに帰ってくる。「何かあったらまた戻ってくればいい」というセーフティネットが存在していること自体が、患者の社会生活におけるお守りとなる。
「一度信頼関係ができていれば、再び初診となるような時にもスムーズに治療に入れますし、調子を取り戻すのも早いです。『心の家庭医』として、患者さんの人生の節目で頼りにされる存在でありたい。それが、私たちが目指すクリニックのあるべき姿です」
医師に依存させるのではなく、自立を促す。しかし、孤立させるのではなく、いつでも手を差し伸べられる距離で見守り続ける。神谷町カリスメンタルクリニックが提示するのは、現代人が最も必要としている適度な距離感と信頼感に基づく、新しい医療の形なのだ。
自走力を取り戻し、クリニックを後にする患者たちの足取りは、来た時よりも力強い。その背中を見送る松澤院長の眼差しは、どこまでも温かく、そして誇らしげだ。
今日の不調を乗り越え、明日の自分を信じられるようになる場所。都心のオアシスで育まれる心の自走力は、これからの社会を生き抜くための希望の光となるだろう。医師と患者が対等に向き合い、共に歩む医療の未来。神谷町カリスメンタルクリニックの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
神谷町カリスメンタルクリニックが実践する自走力を育む医療と未来へつながるメンタルケア。その本質に迫る松澤院長の想いと、具体的な診療アプローチの全貌は、医療系メディア『ウィズマインド』の特集記事をご覧ください。
特集記事:『「良くなってはいけない」の経営常識に抗う。都心のオアシス、神谷町カリスメンタルクリニックの挑戦』
※ウィズマインドは、あなたの悩みに寄り添った美容クリニック・医療機関を発見するために、医師・スタッフの「想い」をお届けするメディアです。
【クリニック情報】
神谷町カリスメンタルクリニック
院長:松澤美愛(まつざわみあ)
所在地:〒105-6002東京都港区虎ノ門4-3-1城山トラストタワー2F
URL:https://charis-mental.com/
診療科目:心療内科・精神科
「心の家庭医」を掲げ、2024年3月に開院。薬物療法に偏重せず、丁寧な対話と生活習慣の改善を通じて、患者自身の自走力を引き出す診療を実践。リラクゼーション施術も取り入れながら、メンタルヘルスを総合的にサポートしている。




