
冬の北欧は、空が早く沈む。薄明の時間が長い国で、王室という「揺れないはずの象徴」が、いま不穏な影を落としている。
米司法省が公開した「エプスタイン文書」が、ノルウェーの次期王妃メッテ=マリット皇太子妃と故ジェフリー・エプスタイン元被告のメールの存在を浮かび上がらせた。文面の一部は黒塗りで、そこに残ったのが《彼女は17歳だよ。きっと楽しいと思う》という一節だ。
さらに、妃の長男マリウス被告が性犯罪を含む事件で裁判中という現実も重なり、王制への信頼は試されている。
エプスタイン文書が“王室”を名指しした日
未成年者への性的搾取で世界を震撼させたエプスタイン事件は、米国内の闇にとどまらなかった。
米司法省が公開した「エプスタイン文書」を機に、ノルウェー王室と元被告の接点が改めて注目を集めている。とりわけ焦点になったのは、ノルウェーの次期王妃となるメッテ=マリット皇太子妃(ホーコン皇太子の妻)と、元被告が交わしたとされるメール群だ。
大量の資料の中で、妃の名前が繰り返し登場するという指摘もある。重要なのは、その多くが、エプスタインが2008年に有罪判決を受けた後のやりとりとされる点だ。疑念は「過去の一度きり」では終わらない。
黒塗りの奥に残った「17歳」という数字
最も視線を集めたのが、2013年1月にフロリダの邸宅滞在中に交わされたとされる一連のメールだ。
文書では、妃が「電話がつながらない、早く会いに来れないか」と催促するような連絡をしたとされ、元被告も禁煙を促す助言めいた文面を返していたという。やりとりは、友人同士の軽い近況とも見える。しかし、空気が変わるのはその直後だ。
「17歳のゴッド・ドーター(god daughter)」をめぐる話題で、元被告側の返信の一部が黒塗りになっている。黒塗りの手前と後ろだけが読める。だからこそ、行間が勝手に膨らむ。
妃は「恥ずかしすぎる」「私は恥ずかしがり屋」と拒否感を示したとされる一方、元被告は「お願いだ。私のゴッド・ドーターのためなんだ」「彼女は今夜来る」と押し切るような文面を続けたという。そして残った一節が、《彼女は17歳だよ。きっと楽しいと思う》だった。
このやりとりが何を意味するのか。性的搾取を示す直接的な証拠は現時点で確認されていないとされる。だが、未成年が絡むやりとりが黒塗りで伏せられている事実そのものが、王室への疑念を濃くする。
「島には行っていない」説明と、残る“単独滞在”の事実
王室側は、悪名高い「エプスタイン島」へは訪れていないと説明している。一方で、フロリダ州パームビーチの邸宅に妃が単独で滞在したことは認めたとされる。
ここで世論の温度差が生まれる。島に行ったかどうかではなく、「なぜ、いつ、どれほど深く関係したのか」という問いが残るからだ。
さらにメールには「瞑想」という言葉も登場する。言葉通りの瞑想なのか、隠語なのか。断定はできない。しかし、疑惑の人物と、密室性の高い場面を想起させる言葉が並ぶだけで、王室に求められる透明性は一気に厳しくなる。
謝罪の言葉と、「いまは話すな」という沈黙
皇太子妃は声明を発表し、エプスタインとの関係について謝罪した。「私がなりたい人間像を表すものではない」と述べ、国王夫妻をこの状況に置いたことも詫びたという。
一方でホーコン皇太子は「家族を守るのが最優先」と語り、妃に対して「いまは話してはいけない」と伝えているともされる。
この姿勢は“家族を守る”として理解され得る。しかし北欧社会では、王室が説明責任を果たす姿勢そのものが信頼の基盤だ。沈黙は、保身にも見える。だから、危機管理は一段難しくなる。
長男マリウス被告の裁判が、王室の足元を揺らす
王室をめぐる逆風は、文書問題だけではない。妃の長男マリウス・ボルグ・ホイビー被告(王位継承権はない)が、性的暴行などを含む複数の事件で起訴され、裁判が進行中だと報じられている。
母の疑惑と息子の裁判。火種が同時に燃える状況は、王室への「信頼の貯金」を急速に削る。世論調査で王制支持率が低下しているとの指摘もあり、王室は象徴であるがゆえに、逃げ場がない。



