
海と生き物の未来を守るため、水族館がその「装い」を根底から変えようとしている。都市型水族館として知られるサンシャイン水族館が、2026年2月9日より導入する新たなスタッフユニフォームは、単なる衣替えの域を超えた、海洋プラスチック問題への痛烈なメッセージを秘めていた。
海洋ごみの「主犯格」を身に纏うという選択
サンシャイン水族館が発表した新ユニフォームは、国内の水族館として初めて、使用済みの漁網をリサイクルした生地を全面に採用した画期的な一着だ。
環境省の調査によれば、日本の海岸に漂着するごみのうち、漁網を含む漁具は約4割という圧倒的な割合を占める。これらは「ゴーストギア」と呼ばれ、意図せず海洋生物に絡まり、命を奪う凶器と化しているのが現状だ。
今回の取り組みで特筆すべきは、これまでリサイクルが困難とされてきた「ポリエステル製まき網」を素材に選んだ点にある。2月9日からは、館内の案内スタッフがこの「再生の物語」を象徴するユニフォームを着用し、来場者を迎えることになる。
困難を極めた「ポリエステル網」の再生スキーム
なぜ、漁網のリサイクルはこれまで進んでこなかったのか。そこには、日本の漁業特有の事情と技術的な壁があった。
世界的に主流なナイロン製の網とは異なり、日本の「まき網漁業」では、沈降速度や形状保持に優れたポリエステル製の網が多用されている。しかし、ポリエステルはナイロンに比べてリサイクル難易度が高く、採算性も低いため、その多くは埋め立て処分されるのが常態化していた。
この停滞を打破したのが、繊維総合カンパニーのカイタックグループが進めるプロジェクト「Re:ism(リズム)」だ。長崎県で回収された使用済み漁網を、分子レベルまで分解する「ケミカルリサイクル」にかけ、新品同様の品質を持つ糸へと再生。この技術確立により、従来は「捨てるしかなかった」ポリエステル網が、スタイリッシュなアパレル素材へと生まれ変わる道が開かれたのである。
「生きた教材」としてユニフォームを定義する哲学
「衣服は袖を通すことで、初めて命が宿るものです」
製作に携わった担当者の言葉には、単なる環境配慮以上の哲学が宿る。サンシャイン水族館が目指したのは、スタッフが誇りを持って着用でき、かつ来場者にとっての「生きた教材」となるデザインだ。
新ユニフォームは、性別の枠を超えたジェンダーレスなシルエットを採用。さらに、出勤後の着替えをスムーズにするため、飾りボタンの裏にファスナーを隠すなど、現場の機能性も徹底的に追求されている。
一方で、役目を終えた旧ユニフォーム約550枚も同グループのシステムでリサイクルへと回される。導入から廃棄、そして再生産までを一つの円で結ぶ「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の実現。これこそが、同館がユニフォームを通じて社会に提示する、持続可能な未来の形といえるだろう。
企業が学ぶべき「ストーリーを纏う」ブランディング
サンシャイン水族館の事例から学べるのは、自社の社会的意義(パーパス)を、いかに視覚的・体感的なストーリーへと落とし込むかという視点だ。
多くの企業がSDGsを掲げる中、その取り組みが「言葉」に留まっている例は少なくない。同館は、海を愛するスタッフが、かつて海を汚していた原因物質を「誇り」として身に纏うという、強力なコントラストを生み出した。
これは顧客に対する啓発であると同時に、スタッフ自身の帰属意識を高めるインナーブランディングとしても機能する。自社の事業領域と社会課題が交差する地点を見出し、それを「形」にする。その執念こそが、これからのビジネスパーソンに求められるサステナビリティの解法ではないだろうか。



