
26日、経済産業省と一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が発表した海賊版被害の実態は、日本のコンテンツ産業が直面する危機の深さを改めて浮き彫りにした。
これまでの「いたちごっこ」の対策だけでは、もはや限界がきているのかもしれない。 経済産業省がCODAに委託して実施した調査によると、2025年の日本発コンテンツの海賊版被害額は、驚くべきことに総額10兆4000億円に達したことが明らかになった。
これは、日本の国家予算の約1割に匹敵する規模であり、クールジャパン戦略の根幹を揺るがしかねない深刻な事態である。本稿では、公開された衝撃的な数字の詳細と、その背景にある構造的な問題、そして政府が打ち出す新たな対抗策について解説する。
2025年被害額は10.4兆円、デジタル分野だけで3倍増の異常事態
経済産業省の発表によると、今回の調査結果で特筆すべきは、デジタルコンテンツ分野における被害の爆発的な拡大だ。
2022年の調査時には約2.0兆円だったデジタルコンテンツ(映像、出版、音楽、ゲーム)の被害額は、2025年には約5.7兆円へと約3倍に膨れ上がった。内訳を見ると、出版が2.6兆円、映像が2.3兆円と突出しており、マンガやアニメが主要なターゲットにされている現状が見て取れる。
さらに今回、衝撃を与えたのが、初調査となった「オンライン上の偽キャラクターグッズ」による被害だ。この被害額だけで4.7兆円に上ることが判明した。ECサイトの普及により、海賊版ビジネスがデジタルデータだけでなく、フィジカルな「モノ」へと及んでいる実態が可視化された形だ。
円安・物価高と「推し活」の負の側面──なぜ被害は拡大したのか
なぜ、これほどまでに被害が拡大したのか。CODAおよび経済産業省の分析によると、そこには複合的な要因が絡み合っている。
一人当たりの海賊版消費本数自体は減少傾向にあるものの、世界的なインフレや為替変動(円安)が被害額を押し上げた。また、インターネット接続人口の増加に加え、皮肉なことに「日本発コンテンツの世界的な浸透」そのものが、海賊版需要の母数を拡大させているという。
世界中で「推し活」がブームとなる一方で、正規の流通ルートが整備されていない地域や、高額で手が出ない層が海賊版に流れる構造がある。これは、日本企業がグローバル市場の需要に対し、正規の供給網を十分に構築しきれていない「機会損失」の裏返しとも言えるだろう。
「守り」から「攻め」へ──正規流通網構築への転換点
この事態を受け、経済産業省は従来の手法からの転換を図ろうとしている。
これまでは、現地の取締当局との連携やサイトのブロッキングといった「守り」の対策が主であった。今回の発表でも、新たな海外拠点の設置や、生成AIによる権利侵害対策、訴訟体制の強化といった「守り」の強化は継続して掲げられている。
しかし、注目すべきは、今回の方針に「正規版への誘導」という「攻め」の視点が色濃く反映されている点だ。
経済産業省が2025年12月に公開した「コンテンツ産業成長投資支援事業」の概要資料によると、海賊版対策と並行して「流通プラットフォーム拡大支援」が重点施策として盛り込まれている 。これは、映像・アニメ・出版などの分野において、国際的な配信・流通プラットフォーム事業者が海外向けコンテンツを拡充し、海外ファンを取り込むための取り組みを支援するものだ 。
同省の資料によれば、日本発コンテンツの海外売上高を2033年までに20兆円に拡大するという目標に向け、海賊版の被害を抑えつつ、その需要を正規のプラットフォームへ「オセロのように」ひっくり返していく戦略を描いている 。
具体的には、翻訳・編集などのローカライズ支援や、プロモーション支援を通じて、海外の潜在的なファンを日本の正規プラットフォームや連携する国際プラットフォームへと誘導する 。海賊版にお金を払っていた、あるいは無料で見ていた層を、正規の「顧客」へと転換できるかが、今後の10兆円市場を取り戻す鍵となるだろう。
10兆円の本来の行方
10兆円という数字は、日本のクリエイターや制作現場から本来得られるはずだった対価が、不当に搾取されていることを意味する。
しかし、悲観するばかりでは状況は変わらない。今回の調査結果は、裏を返せば、日本コンテンツにはこれだけの「未収益の需要」が世界中に眠っているという証明でもある。
「作品の中身に口を出さない」が「真っすぐ届ける」ことを支援するという、政府が掲げる「エンタメ政策5原則」 。この原則に基づき、海賊版サイトよりも使いやすく、魅力的な正規の流通網をいかに早く世界中に張り巡らせることができるか。官民一体となった「攻め」の知財戦略が、かつてないスピードで求められている。



