
人手不足を理由に事業継続を断念する企業が相次いでいる。売り上げがあっても人材を確保できず、黒字のまま倒産に至る例も珍しくなくなった。影響は建設業や物流業などの現場にとどまらず、人材紹介会社や派遣会社といった「人を扱う側」の業界にも及びつつある。人手不足倒産の拡大は、企業経営の限界と同時に、働く側の選択の重みを浮き彫りにしている。
人手不足が経営リスクとして表面化
人手不足を背景とした企業倒産が、深刻な局面に入っている。景気回復が語られる一方で、現場では「人がいないこと」が経営リスクとして可視化され、事業継続を断念する企業が増えている。
人手不足が引き金となる倒産、増加傾向続く
帝国データバンクの調査では、2025年の人手不足倒産は427件となり、年間として初めて400件を超えた。従業員の退職や採用難、人件費高騰を背景に、過去最多を更新する動きが続いている。建設業や物流業など労働集約型の業種で増加が目立ち、小規模企業ほど人員の欠員が致命傷になりやすい構図も浮かぶ。
「黒字でも倒産」 人材確保が経営の前提条件に
近年目立つのは、いわゆる「黒字倒産」に近いケースだ。受注はあるものの、現場を担う人材が確保できず、納期遅延や業務縮小を余儀なくされる。結果として信用を失い、資金繰りが行き詰まる。
人材確保は、もはや成長戦略ではなく「事業を続けるための前提条件」になりつつある。賃上げ余力の乏しい企業ほど、人材市場の競争から脱落しやすい現実が浮き彫りになっている。
相対的に安定が見込まれる業界は
こうした状況を背景に、転職市場では「どの業界が比較的安定しているのか」という視点が強まっている。一般に、需要の底堅さや付加価値の高さ、生活基盤としての必需性が、相対的な耐性につながりやすいとされる。もっとも、これは傾向であり、個々の企業の経営体力や戦略によって状況は大きく異なる。
| 分野 | 説明文 | 業種例 |
|---|---|---|
| 医療・介護分野 | 少子高齢化を背景に需要が底堅く、景気変動の影響を受けにくいとされる。 | 病院、診療所、介護施設、訪問介護事業所 |
| IT・デジタル関連分野 | 人材不足は深刻だが、付加価値が高く、事業継続性が比較的高い傾向にある。 | ソフトウェア開発、システム運用、クラウドサービス、DX支援 |
| インフラ・公共関連分野 | 電力、通信、交通など生活基盤として一定の需要が見込まれる。 | 電力会社、通信事業者、鉄道・バス事業者、水道関連事業 |
人材紹介・派遣・求人会社の動き
人手不足倒産の拡大は、人材紹介会社や派遣会社、求人サービスを運営する企業にも影響を及ぼしている。求人需要そのものは強いが、供給側の人材確保が追いつかず、業界内部では淘汰と再編が進む。
東京商工リサーチは、職業紹介業・労働者派遣業を含む「人材関連サービス業」の倒産が2024年度(4月〜翌2月)に92件となり、過去10年で最多水準に達したと報告した。市場が活況でも、紹介・派遣会社自身が人材を確保できないという矛盾が、倒産増につながっている。
さらに帝国データバンクは、労働者派遣業の倒産が2025年1〜8月で59件と過去最多ペースで推移し、このままなら通年で90件前後に達して過去最多を更新する可能性が高いと分析している。派遣人材の確保難や賃金上昇に伴うコスト増が、経営を圧迫している。
こうした中で、生き残りを図る企業は、単なる仲介にとどまらず、採用戦略の支援、研修・教育、専門職・特定領域への特化など、付加価値型サービスへ軸足を移しつつある。マッチング効率の改善や業務のデジタル化も、競争条件になり始めた。
問われるのは企業だけでなく、働く側の選択
人手不足倒産の増加は、企業経営の問題にとどまらない。働く側にとっても、「どの業界・どの企業でキャリアを築くか」という判断が、これまで以上に重要になっている。
人が足りない職場ほど、個人への負荷は重くなりやすい。一方で、人材投資を怠らず、持続可能な雇用環境を整えている企業も存在する。倒産動向は、そうした企業間の差が拡大している現実を映している。
人手不足という構造問題は短期で解消しにくい。企業にとっても、働く人にとっても、「どこで働き、どう備えるか」を現実の数字から考える局面に入っている。



