
1月24日、プルデンシャル生命が開いた謝罪会見は、エリート集団のメッキが剥がれ落ちる公開処刑の様相を呈していた。31億円詐欺事件で露呈したのは、被害の規模以上に悪質な「説明責任の放棄」だった。
「第三者委員会はやりません」まさかの“自画自賛”調査
1月24日金曜日、午後3時。「金融のプロフェッショナル」を自負してきたプルデンシャル生命保険が、その看板を自ら泥で塗るような会見を開いた。社員ら100人以上が関与し、約31億円を詐取・流用した前代未聞の不祥事。まず会場が呆れ返ったのが、これだけの事態にも関わらず「第三者委員会」の設置を拒否したことだ。
会社側の主張は「顧客に手紙やメールを送って調査したから、自分たちの調査で十分だ」というもの。 まさに、ネットミームの現場猫さながらの論理だ。あからさまな危険や不備があるのに、形だけの指差し確認で「ヨシ!」と強弁して事故を起こすあの猫のように、「自分たちで調べたからヨシ(問題なし)!」という理屈を大真面目に展開したのだ。
自分たちが作り上げた腐った土壌を、自分たちの手で調査して「もう大丈夫」と言い張る。この説明責任の放棄こそが、今回の事件の根深さを物語っている。
「え、そこでも金貰ってたの?」会場がズッコケた瞬間
次に報道陣の度肝を抜いたのが、不正の「種類」だ。 直接金を騙し取っただけでなく、会社が認めていない投資商品を顧客に紹介し、結果的に顧客に損害を与えた事例が69人もいたという。
これに対し、記者が「ただの紹介か? それとも仲介した事業者からキックバック(紹介料)のようなものを貰っていたのか?」と切り込んだ。「ライフプランナー」という高尚な肩書きの裏で、小銭稼ぎのブローカー行為をしていたのか。 同社コンプライアンス統括の長瀬氏は、悪びれもせずこう答えた。
「実際、そういったケース(金銭授受)はあったということでお話しさせていただきます」
会場の記者たちの心の中で「あるんかい!」というツッコミがシンクロした瞬間だ。顧客の人生を設計するはずが、裏では怪しい業者に顧客を“売って”小遣いを稼ぐ。そんな実態をあっさり認める姿に、倫理観の崩壊が見て取れた。
驚愕の言い訳「稼いでるベテランには、何も言えませんでした」
さらに読者の皆様に知っていただきたい、この会見最大の「驚愕ポイント」がある。それは、なぜここまで不正が野放しにされたのかという原因分析だ。
会社側の説明によれば、若手社員には週報を出させたりと細かく管理していたという。しかし、「業績の高い社員や、管理職より年上のベテラン」に対しては、管理が希薄だったと認めたのだ。
「営業社員の自主性と独立性を重視し……大いに称賛されておりました」
つまり、「稼いでる奴は正義」「数字さえ上げていれば、何をしていても文句は言わない」というアンタッチャブルな特権階級が存在していたことを、会社自らが告白したのである。ガバナンス(企業統治)など存在せず、あったのは「売上至上主義」という名の無法地帯だけだった。
元会長の退職金いくら?「言えません」の徹底した“説明逃れ”
自分たちの管理不行き届きは認めるが、自分たちの「懐事情」は死守する。その説明逃れの姿勢も鮮明だった。
昨年10月、親会社プルデンシャルHDの濱田元房会長兼CEOが突如退任している。会見では、事実上の引責と見られる濱田氏の辞任理由について質問が飛んだが、会社側は「お答えを控える」の一点張り。さらに、今回辞任する間原社長や濱田氏、ブラッドフォード・オー・ハーン(プルデンシャルHD)社長CEOの退職金について、朝日新聞の記者が単刀直入に聞いた。
「いくら持って辞めるんですか?」
週刊文春の報道では、その額は1億円をゆうに超えるとも言われている。しかし、間原社長の回答は鉄壁だった。
「開示していない情報に関しては、回答を差し控えさせていただきたい」
被害者への補償は「委員会で精査してから」と慎重なくせに、トップのお手盛り退職金については「言いたくないから言わない」。このダブルスタンダードには、開いた口が塞がらない。
「真面目な人間を悪党に変えたのは、お前たちの会社だ」
会見終盤、月刊FACTAの記者が放った一言が、この事件の本質を抉り出した。会社側は資料で、不祥事の原因の一つとして「採用」を挙げ、あたかも「倫理観の低い人間を採用してしまった」かのような責任転嫁をしていた。これに対し、宮島記者はベテランならではの重みで諭すように言った。
「106人という多くの犯罪者(を出した)。これは間違いで、やっぱり真面目に働こうという人がこの会社に入って、悪の方に行っちゃったんじゃないか。それは経営者の責任だと思う」
「金融機関の社員としての資質がなかった」のではない。過度な成果主義と、「稼げば官軍」という腐った土壌が、最初は真面目だった社員の手を汚させたのではないか。「一体どんな研修をしていたのか」という問いは、エリート集団の驕りを粉砕するトドメの一撃だった。
顧客の嘆き「現場の社員はかわいそうだ」
今回の騒動は、真面目に働いている現場のライフプランナー(LP)たちにも深刻な二次被害を与えている。 実際にプルデンシャル生命で法人契約を結んでいる、ある中小企業の社長・加藤氏のもとには、問題が開示された1月16日の週末、担当のLPから悲痛なメッセージが届いたという。
「金曜日発表がありました弊社のニュースでご迷惑、ご心配をおかけしてすみません。 一部の社員の不正で損害を被るお客様がいたことは事実ですが、加藤さんはじめ、私のお客様方の保険契約においては一切の影響はございませんのでその一点においてはご安心いただければ幸いです。何か不安な点や疑問点等ありましたらご連絡ください」
会社が不手際を起こすたび、休日にまで火消しに回らざるを得ない現場の兵隊たち。このメッセージを受け取った加藤氏は、複雑な心境をこう語った。
「現場でまじめに働いていたLPは可哀そうだね。会社としても、自分たち自ら膿を出そうとして、覚悟を決めて今回の開示に至ったんだろうけど……。そのあとの説明責任の下手糞さがすべてを台無しにしている。膿を出す姿勢に見えなくて、かえって隠蔽体質を疑われてしまっている。
せっかく自浄作用で会社を健全化しようと自ら動いてきたのに、その姿勢が霞むほど、下手糞な会見をしてしまい、ブランドを棄損しているところがあるよね」
第三者委員会の設置も拒否し、「自分たちで調べたからヨシ!」と言い張るプルデンシャル生命。「稼ぐ奴は管理しない」という放任主義が招いた31億円のツケを払わされるのは、結局、真面目な社員と顧客なのだ。
理屈より腕力。「プルゴリ」の野性が裏目に
記者会見全般を見るに、プルデンシャル生命の第三者委員会の設置も拒否し、「自分たちで調べたからヨシ!」と胸を張るその姿。そこには、緻密な論理やガバナンスといった近代的な理性は微塵も感じられない。あるのは、「自分たちが大丈夫だと言えば大丈夫なのだ」という、あまりに粗雑で野性味あふれる論理だけだ。
業界やネット上では、彼らの圧倒的な営業力と筋肉質な社風を指して、しばしば「プルゴリ(プルデンシャル・ゴリラ)」と呼ぶ。 今回の会見で見せた、説明責任もコンプライアンスも腕力と大声でねじ伏せようとするその姿は、まさに「プルゴリ」の面目躍如といったところか。
しかし、檻から逃げ出した猛獣を飼育員(経営陣)が誰もコントロールできていない現状を見るに、もはや笑い話では済まされない。
その激しいドラミングの音が大きければ大きいほど、顧客の心が静かに離れていくことに、彼らはいつ気づくのだろうか。



