
ビジネスにおいて農産物の「規格」という既成概念をいかに打破し、地域経済の原動力へと転換するか。沖縄県読谷村の規格外にんじんを巡り、競合関係にある小売4社と地元の高校生が手を取り合う、異例の共創プロジェクトが始動した。
競合他社が異例の連携|読谷村の食品ロスをレトルトカレーでブランド化した背景
MOTTAINAI BATON株式会社は、沖縄県内の主要小売4社であるイオン琉球、金秀商事、生活協同組合コープおきなわ、リウボウストア、および沖縄県立読谷高等学校と連携し、読谷村産の規格外にんじんを活用した「泡盛香るベジカレー」を共同開発した。2026年1月22日より、各社の店頭でレトルト商品および惣菜として順次展開される。本件の肝要な点は、単なる端材の有効活用に留まらず、人材育成プログラム「ちいき叶い塾」を基盤とした実装型の地域課題解決モデルであることだ。競合他社であるはずの小売4社が、地域課題の解決という共通目的のもとに商品開発の初期段階から参画した。学校教育と流通現場、および製造現場が一体となり、地域資源を価値へと変える循環構造を構築している。
実装型の産学連携|なぜ「競合」が手を組みマーケティングを加速させたのか
本プロジェクトが従来の食品ロス削減策と一線を画すのは、その垂直・水平統合の深さにある。まず特筆すべきは小売企業の水平連携だ。通常、商品開発は各社の独自性を競うものだが、今回は沖縄を代表する4社が歩調を合わせた。これにより、県内広域の生活動線上に共通のメッセージを配置することが可能となり、一過性のイベントに終わらない消費の厚みを生み出している。また、教育現場の深いコミットメントがプロジェクトに独自の彩りを添える。読谷高校の生徒たちは、単なるボランティアではなくマーケティングの当事者として参画した。広告物の制作やコピーライティング、さらには地域イベントでの実演販売を通じて、なぜこの商品が必要なのかというストーリーを消費者に直接届ける役割を担っている。若年層が地域の産業構造に深く関わることで、シビックプライドの醸成と実学の提供を同時に達成している点は極めて先進的と言える。
サステナビリティ哲学|効率性の裏で切り捨てられた価値を再定義するプロデュース力
この取り組みの背景には、MOTTAINAI BATONが掲げる「もったいないを価値に変える」という一貫した哲学がある。読谷村のにんじんは、生産量の約4割が規格外として廃棄、あるいは低価格取引を余儀なくされてきた。これは、近代的な流通システムが求めてきた均一性という基準が、農業の現場に歪みを生んでいる実態を浮き彫りにしている。本プロジェクトの核心は、規格外野菜を単なる安価な代用品として扱うのではなく、地域の伝統素材である泡盛の酒粕などと掛け合わせ、編集の力で「選ばれるブランド」へと昇華させた点にある。効率性を優先して切り捨てられてきたものに、デザインと物語を加え、再び市場のメインストリームへと戻す。この姿勢こそが、同社が目指す持続可能な社会のあり方を体現している。
ビジネスへの示唆|非競争領域でのアライアンスと共感の経済価値化
本事例は、縮小する地方市場において、一社独占の利益追求がいかに限界を迎えているかを示唆している。我々が学ぶべきは、食品ロスや地域衰退という一社では解決困難な構造的課題を「非競争領域」と定義し、競合他社とアライアンスを組む柔軟な姿勢だ。加えて、商品スペックの優位性だけでなく、開発の背景にある農家の苦悩や高校生の挑戦を、お弁当やイベントといった消費者の実体験に紐づけ、共感を購買動機へと変換する設計も重要である。みんなで食べて、農家さんを応援できればうれしいという関係者の言葉は、抑制的でありながらも、これからの地域経済が進むべき道筋を雄弁に物語っている。



