
破損した名品の「口当たり」を伝統の技で次世代へ繋ぐ。石川県の清峰堂が着手した、廃棄グラスに九谷焼の接合技術を施す「リペアグラス」は、資源循環と芸術性を両立させたサステナブル経営の先進事例といえる。
「捨てる」から「繋ぐ」へ。破損した高級グラスを再生する新事業の全貌
石川県能美市の清峰堂株式会社が発表した「リペアグラス」が、経済界からも熱い視線を浴びている。同社は、2026年1月14日より、ステム(脚)が折れてしまった高品質なワイングラスやシャンパーニュグラスを、九谷焼の技術を用いてアップサイクルする新事業を開始した。
消費者の「愛着あるグラスを捨てたくない」という切実な声から生まれたこの取り組みは、ボウル部分に九谷焼のジョイントパーツを接合し、熟練職人が25種類以上の繊細な絵付けを施すものだ。単なる修理の域を超え、世界に一点しか存在しない「工芸品」としての新たな価値を付与して市場へ送り出す。
「母材破壊レベル」の強度。他社の追随を許さない異素材接合の特許技術
リペアグラスを単なるリサイクル製品と一線を画させているのは、2006年度にグッドデザイン賞を受賞した同社独自の接合技術だ。本来、磁器とガラスという熱膨張率の異なる素材を接合することは極めて困難とされる。
しかし、同社は接合部の強度が素材自体の強度を上回る「母材破壊レベル」の堅牢性を実現した。この技術的裏付けがあるからこそ、繊細なワイングラスのボウルを、実用性を損なうことなく再活用できる。アップサイクルに不可欠な「品質への信頼」を、長年の研究開発で培った知財で担保している点が同社の最大の競争優位性である。
「生活に溶け込む九谷焼」が導いた、顧客体験(CX)重視の再生哲学
この事業の背景には、創業以来続く「生活に溶け込む九谷焼」という揺るぎない哲学がある。清水則徳代表取締役は、顧客から寄せられた「お気に入りのグラスが折れたが、再利用できないか」という相談を、伝統工芸が解決すべき現代の課題と捉えた。
「本来は廃棄される運命にあるものを、さらに良いものに変える」という同社の姿勢は、単なる環境配慮に留まらない。使い手の思い出や好みの触感を尊重し、そこに職人の手仕事を加えることで、顧客との絆を深める「共創型」のものづくりへと進化させている。この循環モデルは、いしかわエコデザイン賞の受賞という形でも高く評価されている。
伝統工芸のDXとサステナビリティ。清峰堂の戦略から学ぶビジネスの要諦
清峰堂の事例は、成熟産業がいかにして持続可能な成長(サステナビリティ)を実現すべきか、その道標を示している。
特筆すべきは、アップサイクルにつきものの「個体差」という制約を、一点物の「希少価値」へと鮮やかに反転させた点だ。大量生産・大量消費のモデルが限界を迎える中、同社は自社のコア技術を「資源循環のソリューション」として再定義した。伝統を保守の対象ではなく、現代の社会課題を解くための「動的な資産」として活用する視点こそ、変化の激しい時代を生き抜く全ビジネスパーソンが参照すべき本質である。



