
単なる動物保護の枠を超え、来園者の記憶を「持続可能な価値」へと昇華させる試みが注目を集めている。アドベンチャーワールドが協力したクラウドファンディングの受賞は、ファンとの共創による新たな地域貢献の形だ。
パンダファミリーの記憶を未来へつなぐクラウドファンディングの成果
2025年12月26日、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドが協力したプロジェクト「再見!パンダファミリー 未来へつなぐいのちの物語」が、クラウドファンディングアワード2025において地域貢献賞を受賞した。
本プロジェクトは、2025年6月に中国へと旅立ったジャイアントパンダたちの記録を遺すべく、講談社のFRaU編集部と連携して実施されたものである。目標を大きく上回る約1,290万円の支援金と、3,000件を超える支援件数を集めた事実は、一過性のブームに留まらない、ファンとパークの深い絆を象徴している。
支援者参画型プロジェクトが実現した独自の地域貢献と差別化戦略
他社のクラウドファンディング事例の多くが、資金調達を主目的とした先行予約販売の域を出ない中、本プロジェクトの特筆すべき点は支援者の参画性にある。
支援者から募った思い出の写真やエピソードを、プロの編集技術で一冊の書籍に編み込んだ。これは、企業が一方的に提供する完成品の販売ではなく、ファンと共に共有財産を作り上げるプロセスそのものを価値とした試みである。 「単なる寄付ではなく、自分たちの想いが形になる。それが、このプロジェクトに参加する最大の動機でした」 支援者の一人が語ったこの言葉に、従来の地域貢献とは一線を画す、エンゲージメントの深さが凝縮されている。
いのちを見つめる哲学とアドベンチャーワールドが掲げるサステナビリティ
この取り組みの背景には、アドベンチャーワールドが掲げる「いのちを見つめ、問い続ける」という独自の哲学がある。彼らはパークを単なるレジャー施設ではなく、自然や資源が循環する小さな地球と定義している。
今回のプロジェクトを主導した関係者は、次のように語る。 「私たちは、動物たちを単に守るだけではなく、彼らを通じて、次世代がいのちを大切にする選択をしていけるような未来を創りたいと考えています。パンダの帰国という別れの機会を、サステナブルな未来を考える起点に変換することが私たちの使命でした」
パンダという象徴的な存在を入り口に、生物多様性や持続可能な社会への関心を喚起する。この一貫した姿勢が、多くのビジネスパーソンや地域住民の共感を呼び、今回の受賞へと繋がったのである。
企業ブランドを強化する共創モデルと関係性マーケティングの教訓
アドベンチャーワールドの事例から、現代のビジネスが学ぶべき教訓は多い。
第一に、ステークホルダーとの情緒的価値の共有である。機能的な価値である動物の観覧だけでなく、意味的な価値であるいのちの物語を共に紡ぐ体験を提供することで、代替不可能なブランド力へと昇華させている。
第二に、地域貢献の拡張性だ。物理的な距離を超え、クラウドファンディングを通じて全国の支援者を巻き込み地域の魅力を発信する手法は、地方創生に取り組むあらゆる企業にとってのモデルケースとなり得る。
単なるモノの売買から、記憶や価値観の共有へ。アドベンチャーワールドが見せたのは、サステナビリティが求められる時代において、企業が顧客とどのような心の交流を図るべきかという、一つの明確な答えである。



