
またこのパターンか、という声がネットにあふれた。東京都港区の居酒屋「スミビヤ田町本店」で働くアルバイト従業員が、提供直前の料理を素手でつまみ食いする動画を撮影し、Instagramストーリーに投稿。
内輪ウケのつもりだったその映像はXに転載され、瞬く間に拡散された。不衛生、あり得ない、店として終わっている。批判は雪崩のように押し寄せ、店は臨時休業、Google Mapsは低評価の嵐。SNS時代の「バイトテロ」が、また一軒の店を飲み込んだ。
提供前の料理を素手でパクリ 悪ノリ動画がXで拡散
問題の舞台となったのは、東京都港区に店を構える「スミビヤ 田町本店」。動画には、アルバイトとみられる女性従業員複数人が、客に出す直前の炊き込みご飯を素手でつまみ食いする様子がはっきりと映っていた。
さらに火に油を注いだのが、別の動画の存在だ。早く客を帰らせるためとして、提供予定のチャーハンを手掴みで食べ、量を意図的に減らす様子が撮影されていたという。冗談では済まされない行為に、Xでは「普通に犯罪では」「これで営業できる神経がすごい」「もう一生行かない」と怒りと呆れの声が噴出した。
ストーリー投稿という“消える前提”の軽い感覚が、第三者による保存と転載で完全に裏目に出た形だ。一度ネットに出た映像は、消えるどころか永久保存。炎上の燃料として延々と拡散され続けている。
「若いから仕方ない?」擁護は瞬殺 低評価レビューが止まらない
炎上が拡大する中、「悪気はなかったのでは」「若い子のノリ」といった擁護意見も一部には見られた。しかし、それらは瞬時にかき消された。飲食店である以上、衛生管理は最低限中の最低限。その一線を笑いながら踏み越える行為に、同情の余地はほとんどなかった。
現実的なダメージは数字にも表れている。Google Mapsには低評価レビューが次々と投稿され、「衛生意識ゼロ」「動画見て無理になった」といった辛辣な言葉が並んだ。店側は臨時休業を余儀なくされたが、ネット上では「休業で済む話ではない」「説明も謝罪も見えない」と、さらなる対応を求める声が高まっている。
炎上社会において、沈黙は燃料だ。事実関係の説明と再発防止策を示さなければ、批判は収まらないという厳しい現実が突き付けられている。
またかの声続出 繰り返されるバイトテロの系譜
今回の騒動に、多くの人が既視感を覚えたのも無理はない。飲食業界では、アルバイトによる不適切動画が何度も炎上してきた。回転寿司チェーン「くら寿司」では、共用の醤油差しを口に含む動画が社会問題化し、企業イメージに深刻な打撃を与えた。牛丼チェーン「すき家」でも、調理器具を乱雑に扱う動画が拡散され、公式謝罪に追い込まれている。
どのケースにも共通するのは、内輪ノリで撮られた動画が、想像以上のスピードと規模で拡散する点だ。本人たちは笑って終わりのつもりでも、視聴者は「自分が口にするかもしれない料理」として受け取る。その温度差が、爆発的な炎上を生む。
一瞬の悪ノリが店を潰す SNS時代の残酷な現実
「仲間内のノリだった」「消える投稿だと思った」。
炎上するたびに、ほぼ同じ言い訳が繰り返される。しかし、SNS時代において、その感覚は致命的なズレだ。今回の件も例外ではない。数秒の動画、軽い笑い、承認欲求。それだけで、店は営業停止に追い込まれ、積み上げてきた信用は一瞬で崩れ去った。
かつてであれば、厨房内の悪ふざけは閉じた空間で完結していた。しかし今は違う。スマートフォン一台で、調理場は即座に「公開空間」となる。ストーリー投稿であろうが、鍵付きであろうが関係ない。誰か一人が保存し、転載すれば、その瞬間から制御不能だ。動画は切り取られ、拡散され、文脈を失ったまま“最悪の形”で独り歩きを始める。
そして、矛先が向かうのは当事者だけではない。
「その店、前に行ったことがある」「もしかして自分も食べていたかもしれない」。そうした疑念が連鎖し、怒りは店全体、運営会社、さらには業界全体へと波及する。Google Mapsの低評価は一夜で積み上がり、検索結果には「炎上」「不衛生」の文字が並ぶ。一度貼られたレッテルは、謝罪一つで簡単に剥がれるものではない。
恐ろしいのは、当事者の多くが“ここまでの事態になる”と想像していない点だ。
悪ノリの代償は、解雇や叱責で終わらない。売上の激減、予約キャンセル、取引先からの距離。最悪の場合、閉店という現実的な結末も待っている。それでもなお、バイトテロが後を絶たないのは、SNSの「バズる快感」と「失うものの大きさ」が、当事者の中で釣り合っていないからだ。
一瞬の笑いが、長年かけて築いた店の看板を燃やす。
それが、SNS時代の飲食業が背負う、あまりにも残酷な現実である。



