ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

28億円消失、海外逃亡の末に逮捕 トケマッチ事件で露呈した44歳元代表・福原敬済の詐欺手口

コラム&ニュース コラム ニュース
リンクをコピー
福原敬済容疑者

高級腕時計を預ければ安定した収益が得られる。そんな甘い言葉の裏で、利用者の信頼と資産は静かに切り崩されていった。高級腕時計シェアリング「トケマッチ」を巡る事件は、被害総額約28億円という規模に達し、ついに運営トップの海外逃亡と逮捕という結末を迎えた。これは経営破綻ではない。信頼を装い、換金と逃走を前提に組み立てられた詐欺的構図の全貌である。

 

シェアリングを装った信用ビジネスの落とし穴

トケマッチは2021年1月、高級腕時計を所有者から預かり、第三者に貸し出すことで毎月の預託料を支払う仕組みとして始まった。運営会社は大阪市のネオリバース。使われていない高級時計を資産として活用できるという説明は合理的に聞こえ、多くの時計愛好家の関心を集めた。
だが実態は、シェアリングというより運営側に全面的な管理権限を委ねる信用ビジネスだった。

どの時計がどこに保管され、実際に貸し出されているのか、返却の原資は確保されているのか。こうした核心部分を利用者が確認する手段はほとんどなかった。
高額資産を預かる事業でありながら、金融業並みの厳格な管理や監査は存在せず、制度の隙間で拡大していった。結果として「実物があるから安心」「サービスだから大丈夫」という心理が警戒心を鈍らせ、被害を広げる土壌となった。

 

解散発表と同時に始まった国外逃亡

2023年1月31日、同社は法人解散とサービス終了を突然発表した。返却を待つ利用者が多数いる中、元代表の福原敬済(たかずみ)容疑者(44)と元社員の永田大輔容疑者(40)は、同日中に成田空港から出国し、アラブ首長国連邦のドバイへ向かった。
利用者への説明も返却計画も示さないままの出国は、経営判断以前の問題だった。事業が立ち行かなくなった結果ではなく、責任から逃れる行動だったとの見方が強まるのは当然だ。ここで事件は、単なるサービス終了から「逃亡」という次元へと質を変えた。

 

換金ありきの手口と被害拡大の仕組み

捜査関係者が重視しているのは、トケマッチの破綻が想定外の資金難ではなく、換金を前提とした行為の積み重ねだった可能性だ。福原敬済容疑者は、表向きはサービス継続を装いながら、裏では預かった腕時計を現金化する動きを加速させていたとみられている。

象徴的なのが、2023年8月から12月にかけて行われた個別勧誘だ。

「預ければ毎月預託料を支払う」「期間終了後に返却する」。こうした説明はトケマッチの公式モデルそのものだったが、実際には返却を担保する裏付けは失われていた。東京都内の30歳代男性からだまし取ったとされる高級腕時計15本、約1800万円相当は、預託直後に無断で売却、あるいは質入れされていたという。
この時点で、運用ではなく換金が主目的だった疑いが色濃く浮かび上がる。

さらに深刻なのは、換金で得た資金の行き先だ。

捜査関係者によると、福原容疑者は腕時計の売却などで得た現金の一部を、暗号資産の購入に充てていたほか、オンラインカジノの関連口座に送金していたとみられている。顧客から預かった資産が、投機や賭博性の高い用途に流用されていた疑いがある点は、経営判断の失敗では済まされない。

被害拡大の決定打となったのが、サービス終了直前に実施されたキャンペーンだ。2023年11月から12月にかけ、「査定に出せばギフト券を贈る」として腕時計を集中的に集めた。通常であれば、事業終了を控えた段階で新規の預託を募る合理性はない。にもかかわらず大量の時計を受け入れていた点について、捜査当局は「この時点で事業継続の意思はなく、換金目的だった可能性が高い」とみている。

このキャンペーンは、利用者心理を巧みに突いたものでもあった。既存利用者にとっては「最後の機会」、新規利用者にとっては「お得な入口」と映り、警戒心は一段と下がった。結果として短期間で大量の腕時計が集まり、換金可能な資産だけが運営側に残る構図が完成した。

換金を前提に資産を集め、現金化し、責任を放棄して国外へ逃れる。この一連の流れが事実であれば、トケマッチ事件は経営破綻ではなく、初めから出口を想定した詐欺的手口だったと評価されてもやむを得ない。

 

被害総額28億円が示す異常性

被害は全国に広がり、2024年5月時点で45都道府県の約650人が被害届を提出した。

預けられた腕時計は約1700本、被害総額は約28億円相当。このうち約1300本が無断で売却、または質入れされていたとされる。
この28億円という数字は、確認できた分だけの集計に過ぎない。被害届を出していない利用者や、査定額が確定していない時計もあり、実質的な被害はさらに膨らむ可能性がある。
高級腕時計は嗜好品であると同時に資産でもある。老後資金や生活資金、相続を見据えて保有していた時計を失った被害者も少なくない。短期間でこれだけの金額が消失した事実は、行き当たりばったりの経営破綻では説明できない異常性を物語っている。

 

国際手配の末に突き付けられた責任

警視庁は2024年3月、業務上横領容疑で福原、永田両容疑者の逮捕状を取得し、国際刑事警察機構を通じて国際手配した。同年9月に容疑を詐欺に切り替え、今月に入りUAE当局が福原容疑者の身柄を確保。26日未明、日本への移送が始まった。
信頼を預かる事業が、その信頼を踏みにじったとき、失われるのは資産だけではない。市場全体の信用である。トケマッチ事件は、シェアリングという言葉の裏に潜む危うさと、倫理なき経営の末路を社会に突き付けた。

Tags

ライター:

千葉県生まれ。青果卸売の現場で働いたのち、フリーライターへ。 野菜や果物のようにみずみずしい旬な話題を届けたいと思っています。 料理と漫画・アニメが大好きです。

関連記事

タグ

To Top