
タイムラインを眺めているだけの、何気ない時間だった。
投稿された画像にカーソルを重ねた瞬間、右下に小さく現れた「画像を編集」という文字。クリックすると画面はチャット形式に切り替わり、指示を入力して数秒後、見慣れたはずの画像は別の姿に変わっていた。
Xに実装された画像のAI加工機能は、投稿者本人に限らず、他人のポストに添付された画像までも、ワンクリックで改変できてしまう。その手軽さは、利便性と引き換えに、SNSが支えてきた「信頼」や「創作の尊重」という前提を静かに侵食し始めている。
画像の右下に現れた新機能
この機能は、Web版やスマートフォンアプリで確認できる。投稿画像に触れると「画像を編集」という項目が表示され、選択するとAIとのチャット画面が立ち上がる。
「文字を黒にして」「背景を変えて」「人物を消して」といった指示を入力すれば、AIは数秒で加工後の画像を生成する。完成した画像は保存でき、そのまま投稿や返信に利用できる。
驚くべきは、その対象が自分の画像に限定されていない点だ。他人が投稿した画像であっても、同じ操作が可能になっている。
手軽すぎる改変が生む不安
文字色の変更や装飾といった軽微な編集にとどまらず、人物の削除や構図の変更など、画像の意味そのものを変えてしまう加工も容易だ。
実際に試したユーザーからは、手書きの文字や模様を消せてしまったという声も上がっている。完全に自然とは言えないケースもあるが、「消せてしまう」という事実そのものが衝撃を与えた。
この手軽さに対し、X上では否定的な反応が相次いだ。「最悪なシステム」「悪用以外の使い道が思いつかない」といった言葉が並び、機能の是非を巡る議論が一気に広がった。
著作権と同一性保持権への懸念
特に問題視されているのが、著作者の意に反する改変だ。
イラストから署名やクレジットを消す、写真の一部を書き換えて別の文脈で使う。こうした行為は、本来であれば明確な問題を孕む。しかし今回の機能では、それが「誰でも、簡単に」できてしまう。
たとえ投稿者がプラットフォーム上で一定の利用を許容していたとしても、第三者による改変まで認めたわけではない。にもかかわらず、その境界線が曖昧になり、誤解した利用者による違法行為が生まれる土壌が整ってしまった。
「本物かどうか」を疑い続ける時代
Xでは、AIで加工された画像には「画像を編集」という表示を付け、元画像との比較ができる仕組みを用意している。ただし、その表示自体が消せてしまう可能性を指摘する声もあり、抑止力として十分かどうかは未知数だ。
これからは、災害現場の写真や事件の証拠画像、話題の一枚に至るまで、「これは本物なのか」という疑念を常に抱えながら眺めることになる。
生成AIの登場以前から加工や演出は存在していたが、今回の機能は、その敷居を決定的に下げてしまった。
創作の現場に広がる静かな疲弊
長年、絵や写真を生業としてきた人々からは、別の種類の疲労感も語られている。
時間をかけて描いた作品が、知らない誰かの操作一つで書き換えられるかもしれない。その不安は、創作意欲そのものを削ぐ。
「成長の過程も含めて描くことが楽しい」。そうした価値観が、効率や手軽さの波に押し流されつつある。
便利さと引き換えに問われるもの
AIは創作を支援し、表現の幅を広げる力を持つ。一方で、他者の表現を簡単に上書きできる力も併せ持つ。
今回の画像AI加工機能は、その危うさを可視化した存在と言える。
画像を投稿しない、別の場所へ移る。そうした選択肢を考え始めたユーザーも少なくない。
タイムラインにひっそりと現れた「画像を編集」という文字は、単なる新機能ではなく、SNSがどこへ向かうのかを静かに問いかけている。



