
道具を神聖視する日本特有の精神性が、最新のリサイクル技術と融合した。ミズノが手掛けた「バット再生デニム」は、単なる環境配慮を超え、選手の記憶と機能性を高次元で結びつける新たな製造業の在り方を示している。
侍ジャパンが背負う「再生」の象徴
ミズノは、プロ野球選手が使用し、役割を終えた木製バットをデニム生地へと再生した「侍ジャパンオーセンティックバックパック」を公開した。2026年2月のキャンプより代表選手たちが実際に使用を開始する。これまで廃棄や燃料化を余儀なくされてきた折れたバットや不適格材を、高度な加工技術によって繊維化し、再びトップアスリートの背を支えるバッグとして蘇らせたのだ。
「木から糸へ」と昇華させる技術力
本製品の独自性は、リサイクルプロセスの深度にある。回収されたバットをパウダー状に粉砕し、シート状に加工してから細く裁断する「スリット撚糸」技術を採用。これを藍色に染め上げ、デニムとして織りなす工程は、一般的なペットボトルリサイクルとは一線を画す。さらに、荷重を分散させる「スプリットストラップ」や、水使用量を削減する原着素材「DopeDyed」の裏地採用など、スポーツ工学と環境性能を極限まで両立させている。
道具への敬意が導く日本型サステナビリティ
このプロジェクトの背後には、道具を単なる消耗品と見なさない同社の強い信念がある。「バットには選手たちの気持ちや記録、歴史が刻まれている」という同社の考えは、資源を物理的に循環させるだけでなく、そこに宿る精神性をも継承しようとする試みだ。西洋的なサーキュラーエコノミーの概念に、日本古来の「物に魂が宿る」という美学を組み込んだ点に、ミズノ独自のサステナビリティの真髄がある。
物語という名の付加価値設計
ミズノの取り組みは、現代のビジネスパーソンに「意味の設計」の重要性を説いている。単なるエコ素材ではなく、「プロの戦いを支えたバット」という物語を付加することで、製品は唯一無二のブランド価値を纏う。本業の技術を核に据えつつ、歴史という資産を最新の文脈で再定義する姿勢こそ、成熟した市場において企業が競争優位性を築くための鍵となるだろう。



