
箱根駅伝が開催方式を大きく転換する。2028年度大会から五輪イヤーに限り4年に1度の全国化を実施し、出場校数も拡大される。原晋委員長が描く改革の狙いと、直近5大会の結果から見える箱根路の現在地を検証する。
箱根駅伝が迎える歴史的転換点
関東学生陸上競技連盟は25日、東京箱根間往復大学駅伝競走について、2028年度の第104回大会から開催方式を変更すると発表した。最大のポイントは、夏季五輪と同じ開催年に限り、4年に1度の全国化を実施する点にある。これまで関東学連加盟校を中心に行われてきた大会の枠組みが、大きく見直されることになる。
出場チーム数も拡大される。2028年度の全国化実施年は26チーム、翌2029年度以降の通常開催年は24チームとし、現在の21チーム体制から段階的に増枠される。関東学生連合チーム、日本学生選抜チームを含めた編成が想定されており、箱根路の風景は大きく変わる。
原晋委員長が掲げる「五輪イヤー改革」
この改革を主導してきたのが、駅伝対策委員長を務める青学大監督の原晋(58)氏だ。原は都庁や神奈川県庁を訪れ、自治体に対し大会運営への協力を要請。「箱根駅伝を目指す人材が全国に広がることで、日本の長距離界全体が強くなる」と語り、全国化の意義を強調した。
原が改革の軸に据えるのは、学生スポーツと五輪の4年サイクルだ。「4年に1度の五輪イヤーに箱根を全国化することで、『箱根から世界へ』という理念をより明確にできる」。制度変更は単なる拡大策ではなく、世界を見据えた育成構想の一環と位置付けられている。
マラソン強化と地方創生という2つの狙い
今回の全国化構想で、原晋委員長が繰り返し強調しているのが「マラソン強化」と「地方創生」という2つの視点だ。いずれも箱根駅伝を単なる大学駅伝の枠にとどめず、日本陸上界全体の底上げ装置として再定義しようとする発想に基づいている。
まずマラソン強化の側面では、箱根駅伝とフルマラソンの距離が近年急速に接近している現状がある。大学在学中、あるいは卒業直後にマラソンで結果を残す選手は珍しくなくなった。大学駅伝で培われるスタミナ、ペース感覚、区間ごとの戦略対応力は、そのままマラソンに転用できる要素が多い。
原は「箱根はマラソンに通じる舞台」と明言し、出場校数の拡大が競争環境をより厳しくし、結果として日本全体の長距離レベルを引き上げると見る。全国化によって地方大学の有力選手も箱根を目指すことが可能になれば、トップ層だけでなく中堅層の底上げにもつながる。これは五輪や世界大会を見据えた長期的な強化策でもある。
もう1つの柱が地方創生だ。箱根駅伝は長年、関東の大学を中心に構成されてきたため、地方の有望選手が関東の大学へ進学する流れが半ば当然視されてきた。全国化は、その構造に一石を投じる。
地方大学にも箱根出場の道が開かれることで、地元に有力選手が残る選択肢が生まれる。大学、自治体、地元企業が一体となって強化に取り組めば、合宿誘致や大会関連の経済効果も期待できる。原が語る「地方から箱根を目指す文化をつくる」という言葉には、競技振興と地域活性を同時に進めたいという意図がにじむ。
マラソン強化と地方創生。この2つは別個の目的ではなく、相互に補完し合う関係にある。全国に競争の土壌を広げることで選手層が厚くなり、その結果として日本の長距離界全体が強くなる。今回の改革は、箱根駅伝を起点に日本陸上の構造そのものを変えようとする試みと言える。
過去5年の順位が示す箱根路の現在地
直近5大会の総合順位を整理すると、箱根駅伝における勢力図の固定化と、そこに割って入る新興勢力の存在がより鮮明になる。
2021年(第97回大会)
1位 青山学院大学
2位 東海大学
3位 駒澤大学
2022年(第98回大会)
1位 青山学院大学
2位 順天堂大学
3位 駒澤大学
2023年(第99回大会)
1位 駒澤大学
2位 中央大学
3位 青山学院大学
2024年(第100回大会)
1位 青山学院大学
2位 駒澤大学
3位 城西大学
2025年(第101回大会)
1位 青山学院大学
2位 駒澤大学
3位 國學院大學
5大会を通じて、青山学院大と駒澤大がほぼ毎年表彰台に名を連ね、2強体制を維持していることが分かる。一方で、中央大、城西大、國學院大といった大学が3位以内に食い込み、勢力の裾野は着実に広がっている。
今回の全国化によって、この「表彰台争いに加わる大学」が関東以外にも拡大する可能性は高い。過去5年の順位は、箱根駅伝がすでに変化の兆しを内包していることを示しており、制度改革はその流れを加速させる装置となりそうだ。
伝統を守りながら進化する箱根駅伝
1920年の創設から100年以上の歴史を持つ箱根駅伝は、節目ごとに形を変えてきた。2023年度の第100回大会予選会では一度全国に門戸を開き、その後再び関東中心に戻ったが、2028年度からは4年に1度の全国開催として制度化される。
原は改革の背景について、「箱根駅伝の価値を知っているからこそ、次の世代につなげたい」と語る。青学大を2015年以降8度の総合優勝に導いた指揮官の言葉には、競技者育成への強い責任感がにじむ。
箱根路の未来と学生長距離界への影響
全国化と出場枠拡大は、箱根駅伝を単なる年始の風物詩から、日本長距離界全体を支える基盤へと進化させる試みと言える。競技力向上、地方活性化、そして世界への接続。複数の目的を同時に背負う改革だけに、運営や選考の公平性など課題も残る。
それでも、原は全国の学生ランナーに向けてこう呼びかける。「箱根駅伝は挑戦する価値がある舞台だ」。伝統を守りながら変革を選んだ箱根駅伝は、新たな100年へ向け、再び走り出した。



