ガイナックス破産整理が完了　42年の歴史に幕を下ろす

1984年の創立以来、日本アニメ史に数々の足跡を残してきたガイナックスは、『トップをねらえ！』『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』など、多くの名作を手掛けたスタジオとして知られる。

その破産整理完了を受け、カラーの公式サイトでは「法人として消滅し、42年弱の歴史を終えました」と報告された。

庵野秀明は創設期から20年以上ガイナックスに在籍しており、スタジオの盛衰を誰よりも近くで見てきた人物である。声明では「誠に残念な最後ですが、静かに受け止めています」と述べ、過度な感情を排した筆致ながら、長く関わってきた者としての思いがにじむ。

破産申請は2024年6月に行われていたが、今回の整理完了によってガイナックスの法人としての活動は完全に終了した。

経営悪化の背景──旧経営陣による“私物化”と不透明な運営

ガイナックス破産の背景には、旧経営陣による不透明な経営が長年続いていたとされる。2024年の破産公表時、当時の代表取締役・神村靖宏は「2012年ごろから飲食店経営の失敗、無計画なCG会社の設立、幹部個人への高額無担保貸付、投資作品の失注などが重なり、会社を私物化したかのような運営が続いていた」と説明した。

本業に集中しない経営戦略の乱れは、収益の柱を失わせるだけでなく、制作体制そのものにも悪影響を及ぼした。さらに2019年、巻智博社長の逮捕が発生し、信用は決定的に損なわれた。アニメスタジオとしてのブランド価値が大きく傷つき、一気に資金調達が困難になるなど、破綻への道のりは加速した。

カラーが主導した権利保全と資料整理　作品散逸を防ぐ取り組み

破産整理のなかで最も重視されたのが、アニメ作品の権利や制作資料の保全だった。庵野は「正当な手続きにより、各権利者やクリエイターに権利と資料を戻すことができた」と述べ、長年の混乱を経て権利の所在が明確化したことを報告した。

この過程で、カラーは最大債権者として契約書類やメールの精査に協力した。破綻した企業でこれほど細密な権利整理が進められることは稀であり、アニメ制作において不可欠な情報資産が守られたことは、業界にとっても大きな成果だったといえる。

旧経営陣による「正当性を欠く権利移譲」　民事訴訟と和解成立

今回の声明で特に注目を集めたのが、旧経営陣が「正当性を欠く権利移譲や資料譲渡」を行っていた事実だ。これに対し、庵野は旧経営陣を相手に民事訴訟を提起し、2023年1月20日に和解が成立した。この問題は長らく表に出てこなかったが、破産整理完了のタイミングで初めて明確に言及された。

権利の不正移動は、アニメ制作におけるクリエイターの権利保護を揺るがす重大問題であり、今回の和解で一定の整理が図られたことは、大きな意味を持つ。

調査で判明した虚偽対応──「怒りを通り越して悲しくなった」

破産整理に向けた調査では、旧経営陣による不誠実な対応の実態も次々と明らかになった。庵野はその一部を挙げている。

・緊急融資後に返済を回避するための不誠実な対応
・元福島ガイナックス代表・浅尾芳宣の虚偽説明
・山賀博之が“入院中”と偽り社員に居留守を指示
・カラーを敵視した内部文書の存在

こうした事実を知った庵野は「怒りを通り越して悲しくなりました」と述べ、かつて共に作品を生み出した仲間との信頼関係が完全に崩壊していたことを示した。クリエイターの尊厳を欠く言動が、スタジオの道義的基盤を揺るがしていたことも浮き彫りになった。

ガイナックス最後の代表・神村靖宏への感謝と、静かな幕引き

一方で庵野は、破産整理の過程で最後まで責務を果たした神村靖宏に深い敬意を示した。権利や資料の散逸を防ぎ、債権者へ向き合いながら混乱を収束させた神村の姿勢に対し、「感謝致します」と記している。

声明の最後は「神村、ありがとう。そして、御苦労様でした」という一文で締めくくられる。激動の歴史を背負いながら終幕を見届けた仲間への静かな労いであり、同時にガイナックスという一つの時代の終わりを象徴している。