「買う」という日常の行為を「育てる」という継続的な社会貢献に変える仕組みが始動した。ドットプランが立ち上げたカンボジアコーヒーのサブスクリプション「notice coffee」は、透明性と共創性を極限まで高め、寄付に対する現代人の不信感を打ち破る。
カンボジア幻のコーヒーを未来につなぐ「notice coffee」の全貌
株式会社ドットプランは、内戦で途絶えかけた幻のカンボジアコーヒーを扱う参加型サブスクリプション「notice coffee」を2025年12月21日にリリースする。
このプロジェクトの最大の特徴は、コーヒーを単に「購入」するのではなく「育てる体験」として届ける点にある。購入者は「crew(クルー)」と呼ばれ、コーヒー代金の利益の15%がカンボジアの未来を担う子どもたちへの文房具支援に充てられる仕組みだ。
支援の透明性を確保するため、毎月の会報『notice letter』で支援状況や収益の使い道が数字と事実で報告されるほか、双方向型ポッドキャスト『notice radio』で現地パートナーが質問に回答。さらに、文房具を受け取った子どもたちが書いた「ありがとう」の文字が、毎月のコーヒーパッケージに印刷されて届くなど、寄付の「可視化」を徹底している。
また、静岡県立富士特別支援学校 富士東分校の生徒たちが「プロジェクトアシストクルー」として梱包作業や脱臭剤づくりに参加するなど、国内での協働も実現している。
寄付の不安を解消 消費者を「クルー」に変える透明性の設計
「notice coffee」の取り組みは、従来の企業の社会貢献活動(CSR)や、一般的なフェアトレードの枠組みを超越している。その独自性は、「購買体験」そのものを「共創・育成のプロセス」に変容させた点にある。
一般的な慈善寄付や寄付つき商品の課題は、利用者が「自分が支払ったお金が実際にどのように使われているのか」という透明性の欠如に不安を感じやすいことだ。チーフブランドオフィサーの遠藤文美氏のコメントにもあるように、『寄付白書2021』では寄付に対する不安の理由として77%が「使途の不安」を挙げている。
本プロジェクトは、この「不信感」を解消することに特化した設計となっている。
双方向の透明性
会報やポッドキャストで、農園の状況、支援の進捗、収益の使い道を具体的な数字で開示する。これは、企業が利益構造の一部を「仲間(crew)」に対して公開するという、異例の踏み込み方だ。
感情的なつながりの可視化
子どもたちの「ありがとう」を印刷したパッケージは、支援が単なる金額ではなく、具体的な人の感情と生活に届いていることを消費者の手元で証明する。支援の成果を「コーヒーという製品」だけでなく、「子どもたちの文房具」と「感謝の文字」という複合的な価値として届けている。
単なる「社会貢献型サブスク」ではなく、消費者を事業の共著者(crew)として位置づけ、デジタルとアナログ双方の手段で「透明なつながり」を構築している点が、他社の単発的な寄付型ビジネスとは一線を画す。
「ちょっといいいこと」を日常に サステナビリティを支える哲学
このプロジェクトの根底にある哲学は、遠藤氏が掲げる「With good―”買う”が”ちょっといいいこと”に」という概念に集約される。これは、「社会貢献」を特別な行為ではなく、日常的な消費の中に優しく組み込むという思想だ。
遠藤氏のコメントにある、社会のために役立ちたいと考える人が63.6%いるという内閣府の調査結果は、現代社会における潜在的な「貢献欲求」の高まりを示している。しかし、その一歩をためらわせるのは、寄付や社会活動につきまとう「大袈裟さ」や「不透明さ」である。
ドットプランは、このギャップを埋めるため、大掛かりなチャリティではなく「ちょっといいいこと」という表現を用い、心理的ハードルを下げる。そして、その「ちょっといいいこと」が確実に現地に届くよう、透明性の高い相互作用の仕組みを構築した。
かつて旅行ガイドとしてカンボジアと関わった遠藤氏が、現地のコーヒー農家や日本語ガイドと信頼関係を築き、その上で「コーヒー産業の継続には子どもたちの学びが不可欠」という持続可能性の本質に焦点を当てたことも、単なるビジネスではない哲学を裏付けている。目の前の利益追求ではなく、サプライチェーン全体の未来を「仲間(crew)」と共に見守り、育てていくという、抑制のきいた長期的な視点こそが、このプロジェクトの根幹にある。
SDGs時代に学ぶべき 新しい社会貢献ビジネスの原則
ドットプランの「notice coffee」は、今日のサステナブルビジネスにおいて、以下の2つの重要な教訓を提供する。
信頼の再構築は「透明性」から始まる
今日の消費者は、企業メッセージに対する疑念を抱きやすい。特に社会貢献を謳う場合、その実効性や使途の曖昧さから「グリーンウォッシングではないか」という不信感に繋がりかねない。本事例は、「不信」を前提とした上で、その解消に経営資源を割くことの重要性を示している。収益の15%という具体的な数字の開示や、現地の「ありがとう」の可視化は、信頼を空気のように当たり前のものとして扱うのではなく、日々、証拠をもって再構築していく姿勢の勝利である。
消費者を「ユーザー」ではなく「共創者」として巻き込む
「crew」という呼称や、双方向型の情報共有(notice radio)、そして特別支援学校との協働(プロジェクトアシストクルー)は、消費活動を「購入」という線形な関係から、「育成」という循環的な関係へと進化させている。これは、モノやサービスが溢れる現代において、消費者が真に求めているのは「製品の機能」だけでなく、「社会的な帰属意識と貢献感」であることを示唆している。企業は、一方的な情報発信ではなく、顧客を巻き込み、社会課題解決という「物語」をともに紡ぐことで、持続可能かつ強固なコミュニティを築き上げることができる。



