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甲子園出場校が閉校へ。大阪「授業料無償化」が突きつけた現実 東大阪大柏原高校“苦渋の決断”の深層

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東大阪大柏原高校
東大阪大学柏原高等学校 公式HPより

東大阪市から少し離れた柏原の住宅街を抜けると、校舎の向こうに冬の陽が落ちていく。夏には甲子園で声援を浴びたばかりの東大阪大学柏原高等学校野球部が、いつもと変わらぬ掛け声を響かせていた。しかし、その空気のどこかに、説明しがたい静けさが漂っていた。

彼らが全国の舞台に立ったのは、ほんの数か月前のことだ。大阪代表として堂々と甲子園の土を踏み、初戦こそ敗れたものの、最後まで全力で走り抜けた。その瞬間、学校中が確かに沸いたはずだった。

だが、その熱気が冷め切らぬうちに、学校は大きな決断を発表した。2027年度からの生徒募集停止、そして2029年度の閉校。

 

 

突然の“閉校”発表 戸惑う生徒たちの声

放課後、校舎前に集まった生徒たちの表情には、驚きと寂しさが入り混じっていた。

「えーって感じ。悲しい」
「応援に行ったのに、もったいない」

1963年に女子校として開校し、共学化を経て男子校へ。野球部は今年を含め2度の甲子園出場を果たし、他の部活動も数々の実績を残してきた。長く地域に根ざしてきた学校が姿を消すという現実は、あまりに重い。

校長の小林康行氏も「9月に決まったと聞き、私も驚いた」と率直に語る。背景にあったのは、少子化と男子校という環境だけではなかった。

 

「授業料63万円の壁」大阪府の無償化制度が直撃

大阪府が段階的に導入した「高校授業料無償化」。
制度では、授業料年63万円までを国と府が負担する。

しかし、問題はその先だった。

63万円を超える部分については、保護者ではなく学校が負担しなければならない。設備投資や教育内容の強化を図ろうとすれば授業料を上げたい。しかし63万円を超えれば学校の持ち出しが増え、経営を圧迫する。

小林校長は取材に答える。
「値上げすると学校が負担しないといけないので、経営上すごく圧迫される」

同校は昨年度、定員300人に対し入学者は半数以下の125人。定員割れが続く中で投資に回せる余力は少なく、制度の“63万円キャップ”は学校の選択肢をさらに狭めていった。

 

野球部が背負う閉校の現実 広大な室内練習場も支えきれず

甲子園を目指すために手をかけてきた設備は、学校の努力を物語る。グラウンドの内野部分には甲子園と同じ土が入れられ、広大な室内練習場は関西でも有数の規模を誇る。

野球部監督の土井健大氏は「責任を感じる」と言いながらも、「未来に向けて何か新しいものをスタートさせられるきっかけにもなる」と前を向いた。来春入部予定の30人が最後の新入生となり、3学年で結果を残すと誓った。

その姿は、閉校を前にしても歩みを止めない、部員たちの意地のようにも見える。

 

一方で“追い風”となる学校も 共学化で生徒数倍増の事例

同じ無償化でも、別の景色を見る学校がある。大阪信愛学院高校は3年前に共学化に踏み切ると、入学希望者が前年度の約2倍に増えた。

学校は「公立と私学がほぼ同じ土俵に乗った」と語る。大学進学を重視する層が私学を選びやすくなり、制度が“追い風”になったという。

生徒数が増えれば補助金も増え、教育投資に回せる余力も生まれる。無償化制度は、こうして学校によって明暗を大きく分ける構造を生みつつある。

 

「親の負担軽減だけでは学校が立ちゆかない」

教育費のある専門家は、制度の限界を指摘する。
「収入が増えないと学校法人は必要な投資ができない。親の負担軽減には役立つが、教育の質の向上にはつながらない」

制度と経営の双方から追い詰められる学校が、今後も出てくる可能性は高い。

 

甲子園出場校の閉校が示す“これからの私学”

今回の閉校は、単なる経営不振によるものではない。
少子化、男子校という構造的課題、定員割れ、そして大阪府の授業料無償化の“63万円キャップ”。複数の要素が重なり、学校の進む道を狭めていった。

一方で、共学化など積極的な改革で生徒数を伸ばす学校もある。
制度という同じ海で、学校ごとの航路が大きく分かれ始めている。

甲子園で声援を受けた選手たちが校歌を歌ったあの夏の日は、確かにあった。だが、時代の変化は容赦なく校舎を包み込み、静かに幕を下ろそうとしている。

 

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ライター:

広告代理店在職中に、経営者や移住者など多様なバックグラウンドを持つ人々を取材。「人の魅力が地域の魅力につながる」ことを実感する。現在、人の“生き様“を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。

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