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キムタク効果で“980円フリース”が店頭から消えた日 ワークマンが怒りを隠せない理由とは

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キムタク
木村拓哉 公式インスタグラムより

乗馬クラブの壁に、ぽつんとかけられていた一着のフリース。
気温の下がった九十九里の海風の中、木村拓哉がその“たまたまそこにあった”一着を羽織った瞬間、商品は別の顔を見せ始める。

翌朝、ワークマンの店舗には開店前から電話が鳴りやまず、普段は静かな売り場の棚がみるみる空になっていった。
定価1900円、セール価格980円の防寒着。それが突如として、メルカリでは2万5000円へ跳ね上がる。

ワークマン広報が「怒りしかない」と語った背景には、単なる転売問題だけではなく、30年更新され続けてきたキムタクという基準が横たわっていた。

 

 

九十九里の海風が生んだ「偶然の着こなし」

小雨が落ちる九十九里の朝。
木村拓哉は、ロバート秋山竜次と共に町が書き込んだ白地図を頼りにロケを続けていた。
海沿いの乗馬クラブに立ち寄ったとき、ふと「ちょっと肌寒いですね」と言いながら、壁に掛かっていたフリースを手に取る。

それは、誰かが置き忘れた日用品にすぎなかった。
しかし、羽織った瞬間、秋山が思わず漏らす。

「……なんで、そこにあっただけのフリースが、そんなに欲しく見えるんですか?」

その一瞬を切り取ったカメラは、1900円のフリースをかっこよさの象徴に変えつつあった。

 

翌朝7時、ワークマン全店の電話が鳴り止まなかった

放送から数時間後、SNSでは正体が特定される。

「ダイヤフリース裏アルミジャケットだ」
「980円に見えない」
「パタゴニア級の雰囲気」

21日の早朝、ワークマンの広報部には各店から驚きの連絡が入る。

「オープン直後から閉店まで、電話がまったく止まらない店がありました」

これまで全国で1日約1000枚だった販売数は、
一気に3000枚へ跳ね上がる。
店頭の在庫は次々と姿を消し、後継モデルまで巻き込み売れが始まった。

 

980円が2万5000円へ 転売ヤーの“悪質手口”にワークマン激怒

人気に火がつけば、必ず現れる影。
メルカリでは放送翌日から出品が急増し、平均価格は5000〜6000円。
なかにはこうした手口も。

● ブランド名を隠して「木村拓哉が着ていたジャケット」とだけ記載
● 価格はなんと 2万5000円
● ハイブランドに違いないと誤認させる出品

ワークマン広報は強い口調で語る。

「大量生産で価格を下げ、多くの方に届くようにしている。
それを仕入れ値のように扱い、高値で転売する行為には怒りしかありません」

本来、職人や一般の人のための庶民的な防寒着。
それが、意図しない形で市場を暴走させてしまった。

 

「キムタク売れ」は30年止まらない、その理由とは

木村拓哉が身につけたものが売れる現象は、実は今回が初めてではない。

レッドウイングのブーツ、ドラマ「HERO」のレザーダウン、最近ではファミマのラインソックス。

スタイリストはこう話す。

「木村さんはかっこいいという曖昧な価値の基準そのもの。
彼が着た瞬間、そのアイテムの評価軸が上書きされるんです」

つまり、
商品が木村拓哉を“かっこよく”見せているのではなく、
木村拓哉が商品の“かっこよさ”を規定してしまう。

これは、30年以上テレビが育ててきた特別な関係性でもある。

 

庶民派フリースだからこそ生まれた、令和的“キムタク売れ”

今回のフリースは、背面に遠赤外線アルミプリントを施し、軽くて暖かい。
本来は職人や通勤ユーザーのための実用品だ。

しかし、
「1900円でキムタクと同じ温もり」
「手の届くキムタク感」
という新しい価値が、SNSで一気に広がった。

高級ブランドではないからこそ、
ちょっと試してみたいという層が大きな購買波をつくったのだ。

 

フリース1枚が映し出した“日本の消費心理”

980円のフリースが、テレビのワンカットによって、
2万5000円のお宝へ。

これは木村拓哉というスターの力であると同時に、
「憧れを日用品で手に入れる」令和の庶民感覚の表れでもある。

店頭の棚に最後の1枚を見つけたとき、
そこにあるのは“キムタクになりたい”気持ちか。
それともシンプルに温もりを求める生活感か。一着のフリースが映し出したのは、
日本人の憧れのかたちそのものだった。

 

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ライター:

広告代理店在職中に、経営者や移住者など多様なバックグラウンドを持つ人々を取材。「人の魅力が地域の魅力につながる」ことを実感する。現在、人の“生き様“を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。

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