
経済系YouTubeチャンネル「PIVOT」(登録者365万人)が11月18日、SNS上で批判が高まっていたPR動画の非公開化問題について、遅れていた公式見解を発表した。
ニデックやオルツといった不祥事企業の動画を巡り、PR動画を掲載したことやオルツについては説明のない“しれっと削除”が不信を招いたと指摘されていたが、今回の声明で初めて経緯を詳細に説明した。信頼の揺らぎを前に、ブランドを守るための最低限の一歩を踏み出した形だ。
とはいえ、判断の遅れが火勢を広げたことは否めない。だが一方で、PIVOTの番組を待ちわびる視聴者が依然として多く、「この局面を乗り越えて、より良いメディアに成長してほしい」という声も散見される。
ニデック動画は「削除されていない」 憶測の広がりに初めて明確化
声明によれば、ニデック株式会社に関連する映像は削除されておらず、永守重信氏のインタビューや事業紹介番組は現在もアーカイブで閲覧できる状態にある。
SNSでは「動画が消えた」という投稿が拡散していたが、PIVOTはこれを否定し、第三者委員会の調査結果を踏まえてアーカイブの扱いを改めて決めると説明した。もし非公開や削除となる場合には、その経緯を明確に公表するとしている。
批判が集中したのは、動画の有無そのものではなく、「なぜ事情を説明しないのか」という姿勢への疑念だった。今回の声明はその点に応答した形だが、視聴者の間では「ここまで時間がかかったのはなぜか」という疑問がなお残る。
オルツ動画は「協議の上で非公開化」 ただし説明の遅れは認める
一方、粉飾決算問題で経営陣が逮捕されたオルツの番組については、PIVOT自身が非公開化の事実を認めた。不正会計報道が出た翌日に広告主と協議の上でアーカイブを非公開化し、その後ホームページで告知したという。ニュース番組でも非公開の理由に言及していたと説明した。
しかし当時、視聴者の多くは「動画が突然消えた」という印象を抱いていた。声明でも「非公開化前に公式アナウンスができなかった点は反省が残る」と記されており、説明不足が炎上の火種を拡大させたことは事実である。
批判の本質は「削除」ではなく“沈黙” PIVOTブランドの強さゆえの反発
今回の炎上の背景には、PIVOTが“イケてるメディア”として大きな信頼を得てきたブランドであるがゆえに、その沈黙が裏切りと受け止められた構図がある。
SNSでは、「消すこと自体は理解できるが、説明がなかったことが問題」「メディアが沈黙した瞬間に信頼が崩れる」といった投稿が相次ぎ、批判の中心は企業の不正ではなく、説明を後回しにしたメディア側の姿勢へと向かった。
上場企業の不正は監査法人も見抜けなかったほど複雑であり、PIVOTが事前にリスクを察知することは実務上困難だ。それでも、視聴者の認識は「見抜けなかったこと」ではなく「見抜けなかった後の振る舞い」を問うものだった。
審査体制を強化 未上場企業には追加チェックも
声明では、広告主の審査体制を見直し、特に未上場企業についてはこれまで以上に綿密なチェックを行うと表明した。株主構成や売上規模、経営陣の経歴を確認し、必要であれば識者に意見を求めるなど、多角的に判断する方針だという。
上場企業については、証券取引所の審査や監査法人の監査がある程度の信頼性を担保してきたが、スタートアップには公開情報が少ないため、この強化は実質的な対応策として一定の説得力がある。
信頼回復なるか “語るメディア”として再出発できるかが焦点
今回の声明は、批判に対する最初の回答として一定の手がかりを示した。しかし、視聴者の不信感が完全に払拭されたわけではない。炎上が長引いたのは、PIVOTが沈黙を続けたゆえに、状況の不透明さが増幅されていったからだ。
一方で、声明発表後のSNSでは「PIVOTの番組自体は面白い」「これを機にもっと良いメディアになってほしい」との期待の声も出ている。
経済番組として高い評価を受けてきた事実は変わらない。今回の出来事が、透明性の強化や説明姿勢の見直しにつながれば、信頼を取り戻す契機にもなり得る。
PIVOTが“逃げずに語るメディア”としてどのような再出発を示すのか。ブランドの未来は、その姿勢次第で再び輝きを取り戻す可能性を秘めている。



