
11月12日の夜、日本列島の北側を中心に“赤い光”が空を満たした。
北海道、石川県、新潟県。太陽表面で続発した大規模な太陽フレアの影響により、普段は高緯度でしか見られない「低緯度オーロラ」が出現した。複数の報道が確認しており、SNSには急速に写真が拡散。
赤くゆらめく空に歓声が上がる一方、専門家はGPS精度の低下など、生活への影響にも注意を促している。
北海道の夜空が輝いた瞬間 陸別町に集まる人々
夕闇が濃くなり始めた午後6時すぎ、北海道・陸別町の空に変化が訪れた。
北の地平線に沿うように、淡い赤色のカーテンが現れる。最初は薄く、しかし時間が進むにつれて色が強まり、縦に伸びる光の筋が静かに揺れ始めた。
りくべつ宇宙地球科学館の観測スタッフが最初に異変を捉え、来館者とともに肉眼で確認したという。館の庭には三脚を構える人々が集まり、シャッター音が連続して響いた。
「赤が揺れて、青が混じって、見たことのない景色だった」
地元の住民がそう語るほど、夜空は静かに、しかし確かに変貌していた。
陸別町で広がった赤いオーロラを「幻想的」と表現し、多くの市民が寒さを忘れて空を見上げた。
北海道の広い空が、天体現象の“舞台”となった夜だった。
新潟・笹川流れの“赤い海岸線” カメラだけが捉えた光
一方、新潟県村上市の笹川流れでは、午後7時40分ごろ、新聞社のカメラマンが赤く染まる北の空を撮影した。
風の音だけが響く海沿い。海面は静かで、星は弱々しい。
肉眼ではほとんど感じられないその赤の揺らぎを、長時間露光のカメラだけが静かに吸い上げた。
新潟市、石川県能登でもSNS投稿が相次ぎ、X(旧ツイッター)には赤い夜空の写真が広がった。「本当に日本でオーロラ?」という疑念と驚きが入り混じり、深夜まで多くの人が北の空を見上げた。
なぜ“赤いオーロラ”が? 専門家の分析
今回の低緯度オーロラの背景には、9~11日にかけて発生したXクラス(最強クラス)の太陽フレアがある。
太陽フレアに伴うCME(コロナ質量放出)が地球に降り注ぐと、地球磁場が一気に乱され、大規模な磁気嵐が発生する。その結果、地球の極域を彩るオーロラが赤道側へ“押し下げられる”現象が起きる。
新潟大の中沢陽氏は、
「磁気嵐の最盛期と日本の夜の時間帯がちょうど重なったことが観測につながった」
と分析している。
専門家はまた、今回のオーロラが主に赤く見えたことについて、
「低緯度では高高度の酸素原子が光を放つため、赤い発光が優勢になる」
と説明する。
通信障害の可能性も 静かに迫る実生活への影響
幻想的な光景の裏で、太陽フレアがもたらす“影”も見過ごせない。
過去の事例として、強力な磁気嵐が通信障害やGPSの大幅な精度低下を引き起こしたケースもあるようだ。
特に今回のような大規模フレアでは、
・GPSのずれ
・航空機の通信への影響
・送電網の乱れ
など、生活インフラへの影響が懸念される。
電気への依存度が高い現代社会では、太陽活動の影響は年々大きくなる一方だ。
古記録にも残る“赤い夜” そして今、私たちの上に
専門家によれば、日本でオーロラが観測された記録は、飛鳥時代や江戸時代にも残されている。「珍しい赤い光が空一面に広がった」という古記は、当時の人々が畏怖を込めて夜空を見上げた光景を想起させる。
そして2024年冬、日本の空に再びその“赤い記憶”が刻まれた。
北の空にうっすらと広がる光。
それは宇宙からの贈り物であり、同時に太陽活動の強さを知らせる“静かな警告”でもある。
空を染める赤い軌跡を見た人々は、それぞれにカメラを向け、言葉を失い、そしてまた日常へ戻っていった。



