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秋田・鈴木健太知事が自衛隊支援を要請 「クマに9条?」──誤った報道が突きつける危機感の鈍さ

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クマ被害・秋田

全国でクマによる人的被害が相次いでいる。秋田県では今年の被害者が55人に達し、死者は全国で過去最悪の10人に上る。ついに県知事が自衛隊支援を要請する事態となったが、その報を伝えた一部報道が“別の騒動”を生んだ。
「クマに9条?」──。日経新聞のSNS投稿に「論点がずれている」との批判が殺到した。被害拡大の緊迫感とは裏腹に、政府の初動も遅く、メディアもまた現場の実態を見誤っている。国の危機管理能力、そして報道の責任がいま問われている。

 

秋田県が異例の要請──「自治体だけでは限界」

10月28日、秋田県の鈴木健太知事(50歳)は、防衛省を訪問し自衛隊の支援を正式に要請した。
「同県では今年のクマによる被害者数が55人にのぼり(28日時点)、これは昨年の11人を大きく上回る数字です」と、県庁関係者は語る。
鈴木知事は元自衛官で、現場感覚を持つ首長としても知られる。要請内容は、わなの設置、駆除個体の搬送・処理といった後方支援。自衛隊が銃器を携行するかは未定だが、県の危機感は強い。
同日午後には、陸上自衛隊東北方面総監部の隊員が秋田県庁入りし、協議を開始。

小泉進次郎防衛相(44歳)も「対応を進めていく」と述べた。
被害は今年に入り全国各地で発生しており、死者数はすでに10人。人里近くへのクマの侵入は過去に例を見ない規模に達している。
猟友会の高齢化、自治体職員の人手不足が重なり、地方からは「もう県単独では対応できない」との声が噴出している。鈴木知事の要請は、そうした“現場の悲鳴”を代弁した形だ。

 

「クマに9条?」──SNSが沸騰した日経報道

だが、この深刻な事態を報じる過程で、思わぬ波紋が広がった。
日経新聞が10月28日に配信した《クマ被害多発、自衛隊出動でも銃で駆除難しく 火器使用に厳しい制限》という記事。その公式X(旧Twitter)アカウントが、記事URLとともに次の文を投稿した。

「自衛隊の武器使用を巡っては、憲法9条の規定もあり厳しく制限されています。犠牲者数が過去最悪となるなか、どのような対応が可能なのでしょうか」

これに対し、SNSでは疑問と批判が殺到した。
「なんで熊対策で憲法9条なんて持ち出してるの?」「国際紛争でもないのに9条を持ち出すのは的外れ」「さすがに無知が過ぎる」といった書き込みが相次いだ。
中には、「9条は戦争放棄を定めた条文であり、災害や害獣駆除は自衛隊法の領域。そんな基本も知らないのか」との指摘も多く見られた。
つまり、記事のリード文が読者に「9条が自衛隊のクマ対策を妨げている」と誤解させる構成になっていたのである。

 

枝野幸男・佐藤正久も反論──「9条はまったく関係ない」

報道のズレに、政治家や元自衛官も次々と声を上げた。
立憲民主党の枝野幸男衆院議員(61歳)は、「防衛出動ならともかく、災害派遣や害獣駆除での銃使用に憲法9条は関係ない。日本経済新聞ともあろうものが、こんな基本的誤りを報じるな」と指摘。
自衛隊元1等陸佐で自民党の佐藤正久元衆院議員(65歳)も、「頭がキャベツ? 日経の憲法解釈がぐちゃぐちゃになっている。クマ駆除と9条は関係ない」と痛烈に批判した。
両者の言う通り、憲法9条が規定しているのは「国際紛争における武力行使の禁止」であり、国内の災害派遣・人命救助・害獣対策とは別次元の問題だ。
自衛隊法では、外部からの武力攻撃に対して防衛出動を命じることが明記されている一方、獣害への対応はあくまで「災害派遣」「地方協力」の範疇。
したがって「9条がクマ対策の障壁になる」との理解は法的にも誤りである。

 

憲法9条の本旨──「武力行使」と「武器使用」は別

憲法第9条はこう定めている。

第一項
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、
国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、
国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

第二項
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。
国の交戦権は、これを認めない。

この条文が想定するのは「国家間の戦争」であり、国内の安全活動には直接関係しない。
自衛隊法上では、「武力の行使」と「武器の使用」は明確に区別されており、後者は災害派遣や警備任務など、あくまで限定的な職務遂行のための行為である。
したがって、自衛隊がクマ対策で後方支援を行っても、9条違反にはならない。
にもかかわらず、大手紙が“9条”を絡めたことで、「法が邪魔をして動けない」という誤解が拡散した。報道の影響力を考えれば、これは単なる誤記では済まされない。

 

報道と行政の責任──「危機感の麻痺」が最大の敵

被害が拡大する一方で、政府もメディアも危機の本質を直視していない。
国が自衛隊派遣を「慎重に検討」と言う間にも、山村では人が襲われている。
そして、報道は法解釈の一端を誤って伝え、議論をすり替えた。
今、必要なのは法文の読み違いではなく、命を守る現場への理解と支援である。

憲法9条を持ち出す前に考えるべきは、なぜ自治体が限界に追い込まれているのかという点だ。
地方の防災・野生動物対策の人員は減少し続け、国の制度は更新されていない。
その構造的問題を放置したまま「9条の壁」などと語るのは、現実からの逃避に等しい。

平和憲法の理念を守ることと、人命を守ることは矛盾しない。
それを混同した報道が世論を誤らせ、行政の動きを鈍らせているのだとすれば、最大の害は“誤報”そのものである。
この国のメディアが、再び「現場より観念」を優先するようになっていないか。
クマに襲われているのは、もはや人間だけではない。理性と責任感のない報道姿勢こそが、社会を蝕む“新たな獣害”になりつつある。

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ライター:

千葉県生まれ。青果卸売の現場で働いたのち、フリーライターへ。 野菜や果物のようにみずみずしい旬な話題を届けたいと思っています。 料理と漫画・アニメが大好きです。

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