
674人もの子役が挑んだオーディション。その会場で、静かに本を読みながら背を向けて座る一人の母親がいた。その姿こそが、NHK連続テレビ小説「ばけばけ」でヒロイン・松野トキの幼少期を演じる福地美晴(ふくち・みはる/10歳)を抜擢する決め手となった。
10歳の役者・福地美晴
福地美晴さんは2015年3月31日、大阪府に生まれた。歴史好きで、特に戦国武将の上杉謙信が大のお気に入り。友人や家族からは「けんしん」というあだ名で呼ばれることもあるという。
芸能界入りのきっかけは2023年に上演されたミュージカル「SPY×FAMILY」。演技経験ゼロながら応募し、見事アーニャ役に大抜擢された。当時の舞台を観た観客は「間の取り方が抜群」「子役とは思えないコメディセンス」と絶賛。舞台上で乳歯が抜けるという“持っている子”らしいエピソードも話題になった。
その鮮烈なデビューからわずか2年。NHKの朝ドラという国民的作品で、主人公トキ(演:髙石あかり)の幼少期という大役を掴むことになる。
「ばけばけ」で演じる松野トキの幼少期
朝ドラ第113作「ばけばけ」は、松江の没落士族の娘であり、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の妻・小泉セツをモデルとした主人公・松野トキの人生を描くオリジナルストーリー。明治という激動の時代、西洋化の波に揺れる日本で、夫婦の日常や人々の営みを描き出す。
物語序盤を彩るのが、幼いトキを演じる福地美晴さんだ。ある放送回では、祖父に商いがばれて父と共に土下座をするシーンがあった。緊張が走る場面の直後、二人でコテンと横倒しになり「はぁ〜良かった」と安堵する瞬間を自然に演じ、視聴者の心を掴んだ。SNSには「可愛すぎる」「もう泣ける」と感想が並ぶ。
オーディションの裏側 母親の姿勢が決め手に
674人が集まったオーディションは、ヒロイン選考と同じ方式で進められたという。制作統括の橋爪國臣チーフ・プロデューサーは「お芝居がとても上手で、台本を読み込む力もあり、繊細な表現ができる」と選考理由を明かす。
だが、最終的な決め手となったのは彼女自身だけではなかった。演出を務めた村橋直樹氏はこう振り返る。
「オーディションでは必ず親御さんにも同席してもらいます。多くの親は我が子を心配そうに見つめますが、福地さんのお母さんは背中を向けて本を読んでいた。子どもの自主性を信じ、任せている姿勢が印象的でした」
大人に頼らず、自分の感性で芝居に反応できる子役こそ、長期撮影の現場で生きる。その“放任の強さ”が福地美晴さんを導いたのだ。
髙石あかりとの共演、現場の空気を変える存在感
ヒロイン・松野トキを演じる髙石あかりさんも、現場で美晴さんを温かく見守っている。橋爪プロデューサーは「二人で談笑する姿が微笑ましく、撮影現場のムードメーカーにもなっている」と語る。
髙石さんは、セリフがない場面でも豊かな表情を見せる役者。そんな個性を持つ先輩につながるような資質を、美晴さんも持っていると村橋氏は言う。
「フラットに現場に臨み、その瞬間の反応を芝居に変えていく力がある」と。
「自然体がすごい」「もう泣ける」
放送開始直後から、SNSやコメント欄には子役・福地美晴さんへの賞賛があふれている。
「セリフがない時の仕草が自然で大人顔負け」
「中だるみしやすい朝ドラ前半を彼女で2カ月見たい」
「自然に泣かせてくれる、表現力に驚いた」
前作「あんぱん」で注目を浴びた子役たちと同様、彼女の“頑張りを見せない芝居”に視聴者は心をつかまれている。
今後の活躍への期待
子役の演技はしばしば“親の熱心さ”に影響されると言われる。だが、美晴さんの背景には“見守る母”の姿勢があった。過干渉にならず、子どもの個性をそのまま生かす育て方が、彼女の自然体の芝居につながっている。
舞台「SPY×FAMILY」でのアーニャ役から、朝ドラ「ばけばけ」のヒロイン幼少期へ。まだ10歳にして二つの大役を経験した福地美晴さん。これからの活躍を期待せずにはいられない。