
“伝説のケバブ”が再びトルコで波紋を呼んだ――。江頭2:50とファミリーマートのコラボ商品が、宗教的禁忌を軽視したかのような演出で炎上している。豚肉成分を含むポテトチップスをイスラム教徒に試食させるという致命的なミスは、単なる企画の失敗にとどまらず、日本のエンタメに根強く残る「異文化への無理解」を白日の下にさらした。
コラボ商品の発売と炎上の発端
9月2日、ファミリーマートは江頭2:50と共同開発した新商品「旨辛トルコ名物! 伝説のケバブ風味ポテトチップス」を発売した。江頭の60歳を記念した特別企画として打ち出された同商品は、発売当初から話題を集めた。
ところが、プロモーションのために公開されたYouTube動画が事態を一変させる。江頭がファミリーマート担当者とともにトルコを訪れ、現地の人々に商品を試食してもらう様子が配信されたが、そのポテトチップスには豚由来の成分「ポークエキスパウダー」が含まれていた。
イスラム教徒が人口の9割を超えるトルコにおいて、豚肉は宗教的に厳しく禁じられている食材である。無自覚に食べさせたことで、現地文化や信仰を軽視した行為として批判が殺到した。動画はすぐに非公開となり、江頭自身が謝罪動画を公開する事態に発展した。
見落とされたチェック体制
問題の核心は、商品開発から動画公開までのプロセスに潜んでいた。ケバブといえば牛肉や鶏肉を用いるのが常識であり、消費者も豚肉成分が含まれているとは想像しなかったはずだ。実際、当初のパッケージにはその旨が明記されておらず、後になって「ポークエキスパウダー」の表記が加えられた。
しかしその情報は十分に共有されず、現地ロケのスタッフや出演者にまで伝わっていなかった。
「誰か一人が気づいていれば防げた」。その言葉どおり、単純な確認不足が積み重なり、重大な失態へとつながった。商品開発段階でのリスク認識の甘さ、企業とクリエイター双方の情報共有不足、そして文化的感度の低さが浮き彫りとなった。
江頭の謝罪と伝わり方
江頭は自身のYouTubeチャンネルで謝罪動画を公開し、「知らなかったことを言い訳にはできない」と責任を認めた。その態度は一見誠実に映るものの、半裸や覆面姿で正座するという“江頭流”のスタイルは、国内のファンには「いつもの正装」と受け止められても、事情を知らない国際社会には不真面目に映る危険を孕んでいた。
謝罪の場で重要なのは「どう見えるか」であり、どれだけ誠意を込めたつもりでも、受け手が「ふざけている」と感じれば逆効果となる。今回のケースは、表現方法が異なる文化圏にどのように伝わるかを想定できていなかったことを象徴している。
今回の騒動が一層注目を集めた背景には、江頭とトルコの過去の因縁がある。1997年、江頭はトルコの地で全裸パフォーマンスを行い、現地で拘束され罰金を科された。当時は大きな反発を招いたが、日本国内ではやがて「伝説」として語られるようになった。
今回のコラボではそのエピソードを逆手に取り、「再びトルコで伝説を」との企画趣旨が示されていた。しかし結果として、28年前と同じ国で再び文化的タブーを踏み破ったことになり、「また同じことを繰り返した」との批判を免れない。過去の“伝説”を笑い話として消費する日本と、それを不敬と捉える現地との意識の乖離が浮き彫りとなった。
信仰と食の禁忌を軽視した代償
イスラム教では、誤って豚肉を口にしても神の赦しによって罪には問われないとされる。
しかし、本人にとって強い嫌悪感や精神的ショックを伴うことは避けられない。宗教的戒律は単なる食習慣ではなく、自己のアイデンティティや共同体の倫理観と密接に結びついている。
そのため、軽率に豚肉成分を含む商品を提供したことは「信仰を踏みにじる行為」と受け止められやすい。しかもそれを動画として世界に公開すれば、ブランドや本人のイメージに深刻な傷を残すのは必然だった。今回の炎上は、国際的な批判や不信感を呼び起こし、江頭やファミリーマートの評判を大きく揺るがしている。
異文化を扱うエンタメの責任
今回の問題は、単なる手違いの範疇を超え、日本のエンタメ産業全体が直面する課題を示している。国内向けの笑いや話題性を優先するあまり、国際的な文化感覚が抜け落ちてしまう構造的な問題だ。
食に関する企画は特にアレルギーや宗教的禁忌といった繊細な領域を扱うため、最大限の慎重さが求められる。異文化を扱うとき、「自分たちの常識」で企画を進めれば必ず落とし穴が待っている。グローバルに動画や商品が発信される時代において、文化的配慮と情報チェックを怠れば、一瞬で国際的な批判にさらされることになる。
結語――“伝説”の先にあるもの
江頭2:50の過激さや破天荒さは、長年エンタメの武器であった。しかし、そのスタイルが「他者の尊厳を犠牲にする笑い」に転じたとき、もはや正当化はできない。今回の騒動は、クリエイターも企業も国際的な視野を欠いたときにどのような代償を払うことになるのかを示す典型例だ。
「伝説のケバブ風味」は、日本国内であれば話題性を呼ぶネーミングだったかもしれない。しかしトルコでの現地ロケと宗教的禁忌の軽視が重なった瞬間、それは“禁断のケバブ”へと変貌した。異文化理解と慎重な準備なしに仕掛けられた笑いは、国境を越えた瞬間に炎上の火種となる。江頭とファミリーマートが今回の教訓をどう生かすか、その先にこそ真の意味での「伝説」が問われている。