
サントリーホールディングス会長を辞任し、経済同友会代表幹事の職も事実上休止することになった新浪剛史氏(66)。その表舞台からの突然の退場を機に、週刊誌やネットメディアが彼の“裏の顔”を一斉に取り上げ始めた。報じられているのは、ハワイでの酒席や女性との騒動にとどまらず、銀座のクラブでの評判の悪さ、セクハラ行為による“出禁処分”といった話まで含まれている。
長年「プロ経営者」としてもてはやされてきた人物が、いまやスキャンダルの見出しを飾るという皮肉な展開である。
銀座クラブでの“出禁”証言
デイリー新潮やライブドアニュースなどの報道によれば、銀座のクラブではホステスに対して下半身を露出させようとしたり、スカートをめくろうとしたり、陰毛の有無をしつこく尋ねるなど、耳を疑うような言動が繰り返されたという。関係者の証言では「評判が悪く、セクハラが絶えない人物」とされ、実際に出禁になった店もあると伝えられている。
週刊誌報道が連鎖的に広がるなかで、これまで伏せられてきた「裏の顔」が一気に表面化した。酒席の場で部下に卑猥なパフォーマンスを強いたり、女性を執拗に口説きにかかる姿が証言され、清廉潔白のイメージとは正反対の姿が浮かび上がる。
ハワイでの酒席と乱痴気騒ぎ
同じく新潮が報じたのは、2013年にハワイの高級コンドミニアムで開かれた酒宴。新浪氏は女性を膝に乗せ、「君とのフューチャーを考えたい」と口説き、別室に誘ったという。女性は拒み続けたと伝えられるが、部下が「ここに来るぐらいだからヤル気だったんだろう」と見下す発言を繰り返し、本人はそれを黙って聞いていたとされる。部下に囲まれた帝王の姿が、そのまま“組織が歪む構造”を象徴している。
突然の辞任と経済界への波紋
一方で、今回の一連の展開を招いたのは薬物疑惑だった。8月22日に福岡県警が自宅を強制捜査したが、違法薬物は見つからず尿検査も陰性。にもかかわらず、サントリーHDは「疑義を持たれること自体が資質を欠く」と判断し、9月2日に会長辞任を発表。翌3日、本人は経済同友会で活動自粛を表明した。
単なる企業人の退任にとどまらない。新浪氏は経済同友会代表幹事として経済財政諮問会議にも参加し、日本の経済政策に直接関与してきた存在である。辞任劇は経済界全体に衝撃を走らせた。
輝かしい実績 ローソン再生とサントリーの国際化
ここまで週刊誌が裏を暴き立てるのは、彼が“落ちても惜しい人物”だからでもある。三菱商事を経て43歳でローソン社長に抜擢された新浪氏は、「おにぎり屋」戦略や現場への権限委譲、IT導入を柱に業績を回復させ、10期連続増収増益を達成した。ローソンの株価は3倍に上昇し、「新浪マジック」と呼ばれた。
2014年にサントリーHDの社長に就任すると、米ビーム社の約1兆6000億円買収を指揮。異文化統合の苦労を経て海外売上比率を60%まで高め、売上高・営業利益ともに倍増させた。国際的な経営者として認知され、世界経済フォーラムや三極委員会でも要職を担った。
皮肉と期待のあいだで
清廉潔白を経営者の必須条件とすれば、誰も生き残れない。下世話な報道の数々は、確かに組織の歪みと権力の緩みを浮かび上がらせる。しかし、それでもローソン再生やサントリー国際化といった実績の重みは消えない。
皮肉なことに、裏の顔を掘られるのは、戻ってきてもらいたいほどの有能さを持っているからでもある。潔白を証明し、けじめをつけたうえで再び舞台に立てるかどうか――新浪氏の次の一歩に、日本経済はなお関心を寄せ続けるだろう。