
SNSや街中で見かける“もふもふの小さな怪獣”。ユニクロコラボで一気に知名度を上げた「ラブブ」とは何者なのか。中国発のキャラクターが世界を席巻するまでの道のりと、急成長するビジネスの背景を探る。
ラブブとは?長い耳とギザ歯が特徴のキャラクター
「ラブブ(LABUBU)」は、中国の玩具大手ポップマート(POP MART)が展開するキャラクターシリーズ「ザ・モンスターズ」に登場する一体である。香港出身の絵本作家カシン・ローン氏が生み出した物語世界をもとに誕生したキャラクターで、ウサギのような長い耳とギザギザの歯が特徴だ。
一見すると可愛らしく、しかしどこか不気味さも漂う独特の表情が魅力とされ、子どもから大人まで幅広い世代に人気を広げている。
ポップマートは2010年に王寧氏が創業した中国企業で、当初は雑貨店からスタートした。2015年に日本製「ソニーエンジェル」のミニフィギュアがヒットしたことをきっかけに、同社はミニフィギュア事業へ本格参入。独自キャラクターを次々と商品化し、2016年ごろ誕生した「ラブブ」もその一つだった。
当初は大きな注目を集めなかったが、2018年にポップマートが「ラブブ」のIPを取得し、商品展開を開始したことで徐々にファンを獲得。2020年代に入り、世界的なキャラクターへと躍進する。
爆発的人気のきっかけはBLACKPINKリサのSNS
ラブブが世界的に注目される転機は、韓国のガールズグループBLACKPINKのリサによるSNS投稿であった。2024年、彼女が自身のアカウントでラブブのぬいぐるみを紹介すると、瞬く間に話題が拡散。ファン層を中心に「セレブが愛用するキャラ」として世界に広がった。
リサの影響で、マドンナやリアーナ、BTSのVといった国際的なセレブもラブブをSNSで披露するようになった。ファッションデザイナーのマーク・ジェイコブスは、エルメスのバーキンに未開封のラブブぬいぐるみをぶら下げて登場し、ファッション業界でも注目を集めた。こうしたセレブリティの発信力がラブブ人気を一気に押し上げたといえる。
ユニクロコラボで日本市場も熱狂
日本では長らくラブブの存在感は薄かった。しかし、2024年以降、状況は一変した。2024年6月には成田空港や原宿にポップマートの直営店が相次いでオープンし、開店前から行列ができる盛況ぶりを見せた。
さらに2025年8月、ユニクロが「ザ・モンスターズ」シリーズとコラボTシャツを発売。オンライン販売では開始直後に45分待ちの表示が出るほどアクセスが集中し、即日完売が相次いだ。SNSには「転売ヤーとの争奪戦になる」「絶対欲しい」といった投稿があふれ、ユニクロとのコラボが日本市場での人気を決定づけた。
世界を席巻するビジネスモデル
ポップマートの成長は、巧みなビジネスモデルに支えられている。代表的なのが「ブラインドボックス」と呼ばれる販売方式である。中身が見えない箱にフィギュアを入れ、開封するまでどのキャラクターが出るかわからない仕組みだ。この“ガチャ的”な要素が購買欲を刺激し、コレクション需要を生み出した。
さらに、2024年に投入したラブブのぬいぐるみが大ヒット。インフルエンサーたちがエルメスやルイ・ヴィトンのバッグにラブブをぶら下げてSNSに投稿する流行が生まれ、世界的な人気の火付け役となった。米誌「アトランティック」によれば、この現象は「大人が子ども向けグッズを楽しむキダルト文化の延長線」とも分析されている。
驚異の決算 純利益は5倍に
2025年1〜6月期のポップマート決算によると、売上高は前年同期比3倍の138億元(約2,800億円)、純利益は同5倍の45億元(約930億円)に達した(ロイター報道)。ラブブを含む「ザ・モンスターズ」シリーズは売上高が7.7倍の48億元となり、同社全体の35%を占める主力IPへと成長した。
株価も急騰し、年初から3倍以上に上昇。米マテルや日本のサンリオを時価総額で上回り、世界の玩具業界を揺さぶっている。王寧CEOは「2025年の売上高200億元は確実、300億元も簡単に達成できる」と語り、ディズニーのようなエンタメ帝国を目指す姿勢を示している。
日本市場に広がるファン層の変化
当初、日本の店舗に並んでいた客の多くは中国系の観光客だった。しかし、2024年後半からは日本人の若者や欧米系の来訪者も増加。原宿本店前では、炎天下にもかかわらず開店待ちの行列が続く光景が見られる。
こうした人気拡大の背景には、「ラブブ=SNS映えするキャラクター」という印象の浸透がある。かわいいようで不気味、独特な表情が写真映えするため、InstagramやTikTokでの拡散が止まらない。結果的に、従来キャラクター文化に関心が薄かった層にも支持が広がっている。
高騰する二次流通と偽物問題
ラブブの人気は二次流通市場でも加熱している。CNNによると、限定モデルはオークションで1体15万ドル(約2,200万円)に達した例もある。日本国内でもフリマアプリで高額転売が相次ぎ、入手困難な状況が続いている。
一方で、模倣品の流通も問題化している。ポップマートは公式に注意喚起を行い、正規店や公式オンラインでの購入を呼びかけている。
結び:なぜラブブは人々を惹きつけるのか
ラブブの人気の背景には、セレブの発信力、SNS拡散、独自の販売手法、そして「かわいいのにちょっと不気味」というユニークな魅力がある。大人も子どもも夢中になるこの現象は、消費者心理と時代のトレンドを巧みにとらえた結果といえるだろう。
「ハローキティ」「バービー」などに並ぶ世界的キャラクターへと成長するのか。ラブブの今後の展開は、玩具業界だけでなくファッションやエンタメ業界全体に影響を与え続けそうだ。
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