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映画『国宝』が興行収入100億円を突破した理由|日本映画の常識を破った大ヒットの裏側

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国宝 映画
『国宝』映画公式インスタグラムアカウントより

映画『国宝』は2025年6月6日に全国公開され、73日で興行収入105億円を突破した(東宝発表)。当初は「30億円で大ヒット」と言われていた作品が、なぜ日本の実写映画として22年ぶりに100億円を超える快挙を成し遂げたのか。その背景には、日本映画界の「常識」を打ち破る覚悟と、徹底したリアリティーの追求、さらに口コミによって世代を超えて広がった骨太な人間ドラマがあった。

 

 

100億円突破の衝撃

『国宝』がこれほどの記録を打ち立てると予想していた人は少なかった。東宝によれば、公開後73日で興行収入は105億円、観客動員は747万人を超え、日本の実写映画としては『南極物語』(1983年)、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』(2003年)に次ぐ歴代3位となった。上映時間175分という長尺にもかかわらず、公開から4週連続で前週比プラスを記録した現象は、2018年の『ボヘミアン・ラプソディ』を想起させる。観客にとって「見たい映画」から「見るべき映画」へと位置づけが変わったことを示している。

 

日本映画の「常識」を破った挑戦

『国宝』の成功の背景には、日本映画界で長く信じられてきた常識を覆す決断があった。

まず制作費である。日本の実写映画は通常3〜4億円、多くても10億円程度とされてきたが、『国宝』には12億円以上が投じられたと報じられている。その投資によって主演の吉沢亮と横浜流星は1年半にわたり歌舞伎の稽古を重ね、セットや美術にも徹底的に資金をかけることができた。

次に上映時間である。『国宝』の上映時間は175分。日本では「3時間近い映画はヒットしない」という通説があったが、李監督は「原作の大河小説を描くには必要な尺」と判断した。結果的に観客は長さを受け入れ、内容の濃さを評価した。

さらに宣伝方式にも革新があった。従来の邦画ヒット作はテレビ局が製作委員会に加わり、地上波で宣伝を行うケースが多かった。しかし『国宝』はYouTube特番やSNSを重視する戦略を取り、公開当初は20億円に届くかどうかという控えめなスタートにとどまった。それでも観客の口コミが熱を帯びて拡散し、結果として100億円突破につながった。

 

リアリティーと人間ドラマが世代を超えた

『国宝』のヒットを支えたのは、徹底して追求されたリアリティーである。主演の吉沢亮と横浜流星は1年半にわたり歌舞伎の所作を学び、劇場の音響と相まって圧巻の舞台シーンを作り上げた。李監督が「175分の長さは必然」と語った映像化は、観客に説得力を与えた。

また物語の核となるのは、嫉妬しながらも互いに高め合う二人のライバル関係である。青春ドラマのような熱量が若い世代の共感を呼び、当初は歌舞伎ファンを中心とする高齢層が多かった観客層が、10代や20代にまで拡大した。リアリティーのある演技と骨太な人間ドラマが世代を超えて受け入れられたことが、異例のロングランにつながった。

 

“見るべき映画”への昇華

『国宝』が「必ず見ておきたい映画」と評されるのは、単なる興行収入の数字だけではない。そこには具体的な三つの理由がある。

第一に、歌舞伎を題材とした徹底的なリアリティーである。主演の吉沢亮と横浜流星は、公開までの1年半にわたり稽古を積み、歌舞伎の所作を体得した。劇場で再現された舞台シーンは、実際の歌舞伎公演さながらの迫力で、観客が「映画館でしか味わえない体験」として語り継いでいる。

第二に、ストーリーが持つ普遍性だ。主人公とライバルが嫉妬し合いながらも互いを高め合う姿は、伝統芸能の世界を超えて、青春や友情、そして人生の葛藤を描き出している。観客は単なる歌舞伎映画としてではなく、自分自身の経験や心の痛みに重ね合わせて物語を受け止めることができる。だからこそ、10代から高齢層まで幅広い世代が共感を寄せている。

第三に、映画体験そのものの力である。上映時間は175分と長尺だが、最後まで集中を切らさず引き込まれる密度がある。美術セットの細部にまで神経が行き届き、スクリーンと音響が融合して生み出す舞台空間は圧倒的だ。SNSで「3時間近いのに短く感じた」「映画館で見なければ損」といった声が広がったのも、こうした没入感が観客の体験を凌駕したからにほかならない。

こうした要素が重なり、『国宝』は「見たい映画」から「見るべき映画」へと昇華した。観客自身が強く推奨する口コミの力がヒットを牽引し、最終的に日本映画の常識を覆す大記録を打ち立てたのである。

 

日本映画の未来を変える分岐点

歴代の大ヒット作は常識を覆す挑戦から生まれてきた。90年代の『踊る大捜査線』はテレビドラマを映画化することで邦画復活のきっかけとなり、劇場版『鬼滅の刃』は製作体制を刷新し、400億円を超える歴史的ヒットを記録した。『国宝』もまた、制作費・上映時間・宣伝手法という三つの常識を破った作品として、日本の実写映画史に刻まれるだろう。

海外公開を控える今、100億円突破はあくまで通過点にすぎない。『国宝』の成功は、日本映画にグローバル戦略を本気で考えさせる契機となり、次世代の挑戦を後押しするはずだ。

 

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ライター:

広島県在住。福岡教育大学卒。広告代理店在職中に、経営者や移住者など様々なバックグラウンドを持つ方々への取材を経験し、「人」の魅力が地域の魅力につながることを実感する。現在「伝える舎」の屋号で独立、「人の生きる姿」を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。​​https://tsutaerusha.com

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