前澤友作氏、新SNS立ち上げを宣言 「株式を全ユーザーに」「本人確認の徹底」「AI活用」「詐欺広告排除」を掲げる

実業家の前澤友作氏が8月10日夜、自身のXアカウントで「国産SNSを立ち上げたい人に、お金とリソース、影響力をすべて提供する」と呼びかけた。投稿では、全ユーザーが事業主体の株式を持つ設計、匿名・実名を問わず裏側での本人確認(マイナンバーカードや運転免許証等)、AIの“平和的なフル活用”、詐欺広告や誇大広告の排除、誹謗中傷・名誉毀損・デマ・差別・ヘイトスピーチのない健全運営という理想条件を明示し、共感者に応募を促した。前澤氏の投稿による。
SNS上では、テレビに依存する高齢層への情報提供体制や、LINEのような国産コミュニケーション基盤の必要性を求める意見が並び、告知から短時間で賛否と要望が交錯した。
「ユーザー株主」モデルの先行例 カブアンドは何を実現しているか
前澤氏が率いる「カブアンド(KABU&)」は、電気・ガス・モバイル通信・インターネット回線・ウォーターサーバー・ふるさと納税など生活インフラの利用額に応じ「株引換券」を付与し、最終的に運営会社の未公開株を受け取れる設計をとる。開始から数か月で累計申込数が100万件を突破したと、運営会社カブ&ピースは4月1日に公表している。公式サイトおよびプレスリリースによると、ユーザーは「ポイントではなく株」で事業成長の果実に参加できる点が特徴だ。
ITmediaは、同サービスを「利用料金に応じて未公開株がもらえる仕組み」と要約しつつ、炎上や賛否を呼んだ背景も伝えた。設計思想は“お客さま兼株主”という参加型の構図であり、従来の株主優待と逆向き(利用→株付与)である点が新しい。
国産SNSの参入課題 ガバナンス、本人確認、インフラと規模
前澤氏の理想条件は、既存SNSが直面してきた課題への“逆張り”である。全ユーザーの本人確認や詐欺広告のゼロ容認は、信頼性を押し上げる一方、導入や運用のコストが高い。国内市場は、X・Instagram・Facebook・TikTokなどの巨大PFが寡占しており、初期から強固なモデレーション体制と広告品質審査を両立させるには相当の資本・人員・プロセスが要る。
さらに、匿名文化と表現の自由のバランス、KB級の即応体制、法域跨ぎの通報・削除運用など、立ち上げ直後から高度なガバナンスが不可避だ。ここに「ユーザー株主」という経済設計を重ねるなら、金融商品性の説明責任や景品類型の整理、将来の上場・M&Aシナリオまで見据えた情報開示も求められる。
「ユーザー株主化」の経済的インパクト コミュニティとLTVの増幅
ユーザーが株主として事業の将来価値に参加できる設計は、利用継続や口コミの動機づけとして働きやすい。株式配分や議決権設計、開示の透明性が適切なら、コミュニティ形成とLTVの伸長、CAC(獲得コスト)の相対的低下が期待できる。
一方で、株価や上場可能性に過度の期待が集まると逆風になり得るため、リスク説明と景品性・適法性の線引き、ステークホルダーに対する誠実な情報発信が肝になる。カブアンドの早期拡大は“参加の手触り”を示す例だが、SNSという高頻度・高リスク領域で同様の熱量を持続できるかが試金石となる。
「詐欺広告を許さない」はどこまで可能か 既存PFでの苦闘が映す現実
前澤氏は最近、本人やカブアンドを騙る偽広告の氾濫に対し、SNS事業者へ削除要請を続けていると明かした。特にMeta系で同様広告が繰り返し出稿される状況が続き、同社を相手取った訴訟も進行中だという。つまり、巨大PFでさえ詐欺広告の完全排除は難しく、出稿審査・検知アルゴリズム・通報処理を“面で”押し切る体力が現実に問われる。新SNSが同方針を貫くなら、AIと人力審査の二層目をどこまで厚くできるかが勝負になる。前澤氏の発信による。
“株でつなぐ”設計をSNSに持ち込めるか
カブアンドは「生活支出→株」という導線で参加のインセンティブを設計してきた。新SNSが同様に「投稿・閲覧・招待・通報・コミュニティ運営」といった行為を資本参加へトランスレートできれば、コミュニティの自律統治に資本的な裏付けを持たせられる。
ただし、株式(あるいは同等価値の権利)の分配は、モデレーションの独立性やスピード感と衝突しやすい。良質な貢献を定義・重み付けする評価アルゴリズムの設計、規約違反時の剥奪や停止のルール、投票と専門判断の住み分けまで含めた制度設計が鍵となる。
「理想条件」を運用設計に落とし切れるか
前澤氏の構想は、情報の信頼性と経済参加を同時に高めたいという明快な志向を示す。カブアンドの“ユーザー株主”という実績は、参加のモメンタムを生むことを一定程度示した。
他方、詐欺広告の抑止・本人確認・健全化運用は、立ち上げ当初から高度で継続的な投資を要する。理想条件を制度・プロダクト・運用に具体化できるか。次に示される事業スキームの詳細とロードマップが試金石となる。