
政府は、勤続年数に応じた優遇措置が設けられている退職金課税制度の見直しを進めている。石破茂総理大臣は5日、「雇用の流動化を図るべき」との考えを示し、制度の適切な見直しが必要であるとの認識を示した。
退職金課税制度の現状と見直し案
現在、退職金を一括で受け取る場合、勤続20年以下では1年あたり40万円、20年を超えると1年あたり70万円が控除される仕組みとなっている。例えば、同じ会社に30年勤めて退職金2000万円を受け取る場合、課税対象額は250万円となる。一方、20年勤務後に転職し、別の企業で10年働いた場合の課税対象額は400万円となり、勤続を継続した場合と比べて150万円の差が生じる。
政府・与党内では、「勤続20年以下の控除額を引き上げる一方、20年超の控除額を引き下げる」案が浮上している。さらに、一定の経過措置を設けることも検討されているが、長期間勤めた労働者への優遇措置が縮小される可能性がある。
「サラリーマン思考」への懸念
退職金課税制度の見直しを巡っては、2023年に岸田政権のもとで退職金制度の見直し案が検討された際、特にサラリーマン層を中心に強い反発があった。
- 長年働いたサラリーマンへの税負担増
- 退職金は勤続年数が長いほど暫定が受けられる仕組みになっていたが、政府の見直し案ではこの軽減が縮小される可能性があった。
- 終身雇用を前提に働いてきた人々のために、「突然の制度変更」は不公平だとの声がかかりました。
- 老後の生活資金への影響
- 退職金は年金と並ぶ老後の生活資金の柱であり、これに少しを強化することは、高齢者の生活に直接受け止められた。
- 転職促進の名目による実質的な負担増
- 政府は「雇用の流動化を促進するため」と説明すると、結果的にサラリーマンの退職金控除が減り、感覚につながるとの批判があった。
どちらかというと批判の影響を受け、かなり内部でも慎重論が強まり、結果的に2023年の退職金制度見直し案は改訂された。
日本の退職金制度とは
日本の退職金制度は、長期間勤務した労働者に対する報奨金としての側面を持ち、老後の生活資金や転職時の支援としての役割を果たしている。退職金は法律で義務付けられているものではなく、企業の就業規則や労働協約によって支給の有無や計算方法が異なる。
退職金の種類
日本の退職金制度には、主に以下の3つのタイプがある。
- 一時金制度:退職時に一括で支給される方式。
- 企業年金制度:企業が積み立て、退職後に年金形式で支給する。
- 確定給付企業年金(DB):将来の給付額が確定。
- 確定拠出年金(DC):運用成果によって給付額が変動。
- 退職金共済制度:中小企業向けに共済機関が運営する制度。
退職金の計算方法
退職金の計算方法は企業ごとに異なるが、一般的には以下の方式が採用される。
- 退職金 = 基本給 × 勤続年数 × 支給率
- 基本給:退職直前の基本給が基準になることが多い
- 勤続年数:長いほど支給額が増加
- 支給率:退職理由によって異なり、会社都合退職(解雇など)のほうが優遇される傾向
- ポイント制
- 勤続年数や役職ごとにポイントを付与し、一定の単価を掛けて退職金を算出する方式。
- 確定拠出型
- 確定拠出年金(DC)では、企業や従業員が毎月積み立てた資金を投資し、運用成績に応じて支給額が決定。
老後資金の不安とシニア世代の就労課題
退職金課税制度の見直しによって、老後資金への不安が広がる中、60歳を超えても働きたいと考える人が増えている。2020年の内閣府調査によると、60歳以上の約6割が「65歳を超えても働きたい」と回答した。
しかし、シニア世代の就労には課題も多い。定年後の再就職を支援する「定年後研究所」の池口武志所長は、「60歳以降の求職者は事務職を希望する人が多いが、AIの導入により事務職の求人は減少傾向にある」と指摘。働く意欲があっても適職に就けないケースが増える可能性がある。
また、池口氏は「シニア世代は自身の市場価値を見極め、スキルを磨くことが重要」と提言する。しかし、新たなスキルを身につける「リスキリング」の環境が十分に整っていない点も課題とされる。企業側が研修制度を整え、シニア世代の就労機会を確保することが求められる。
政府は雇用の流動化を進めつつ、老後の生活資金やシニア世代の雇用環境をどのように整備するかが課題となる。今後の制度改革の行方に注目が集まる。