中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が1月18日夜、米国で突如サービスを停止した。アプリを開くと「ティックトックは現在利用できません」とのメッセージが表示されるようだ。
アプリはアップルとグーグルのストアから削除され、利用者はアクセスできない状態となった。これは、1月19日に発効する「TikTok禁止法」に基づく措置である。同法はTikTokの親会社である中国企業バイトダンスに対し、米国内事業の売却を求め、未達の場合にはサービス停止を義務付けるものだ。
米国内のTikTok利用者は約1億7000万人に上り、一時的な混乱が広がる可能性がある。
TikTok禁止法の背景
「TikTok禁止法」は、TikTokが収集したユーザーデータが中国政府に提供されるリスクがあるとの国家安全保障上の懸念から制定された。この懸念は、中国の「国家情報法」(2017年施行)に起因している。この法律は、中国企業や個人に対し、政府の要請に応じて情報を提供する義務を課している。米国政府は、TikTokがこの法律の対象となる可能性を警戒し、データの悪用や情報操作を防ぐための措置を求めてきた。
さらに、TikTokのアルゴリズムが世論形成に影響を与える可能性も指摘されている。2020年の大統領選挙時には、ソーシャルメディアの影響力が注目されており、TikTokも同様に米国内の政治的議論に関与するリスクがあると見られている。
トランプ次期大統領、猶予を検討
1月20日に大統領に就任予定のドナルド・トランプ氏は、TikTok禁止法の施行を90日間猶予する方針を検討していると18日に明らかにした。NBCテレビのインタビューで、「90日の延長は適切だ。就任初日に決定を発表する可能性が高い」と述べた。
トランプ氏が猶予を検討する理由は、禁止法の施行が及ぼす社会的混乱を最小限に抑える必要があるためだ。TikTokは米国で1億7000万人以上のユーザーを抱える巨大プラットフォームであり、特に若年層において日常生活の一部となっている。急なサービス停止は、社会的反発や政治的批判を招く可能性が高い。また、猶予期間を設けることで、親会社バイトダンスに対し、米国事業の売却交渉を円滑に進める時間を確保する意図もある。
しかし、TikTok側は18日、「適切な確約がない場合、サービス停止を避けられない」と声明を発表した。TikTokは禁止法の施行により一時的にサービスを停止することを明らかにしており、復活にはトランプ政権の明確な行動が求められている。
米中対立の象徴
TikTok禁止法は、米中のデジタル覇権争いを象徴する問題でもある。米国政府はTikTokが国家安全保障上の脅威であるとし、中国政府とのつながりを批判している。一方、中国政府は「米国が国家権力を乱用して中国企業を弾圧している」と反論している。中国大使館の報道官は、「正当な権利と利益を守るため、あらゆる必要な措置を講じる」と述べた。
今後の見通し
TikTokが再び米国内で利用可能になるには、トランプ次期政権が禁止法の施行を猶予し、バイトダンスが米国事業の売却に向けた明確な行動を取る必要がある。ただ、問題はTikTokの存続だけではない。今回の事例は、データ利用を巡る規制や国家主権の在り方、米中対立の新たな局面を示唆している。
TikTokの今後の展開は、単なるアプリの存廃問題ではなく、デジタル社会の未来を見据える上で重要な意味を持つ。