日本にとって今日でも最大の貿易相手国は中国です。今後も日本企業にとって中国は重要な進出先であることは変わりません。しかし、近年の貿易摩擦に代表される米中対立、有事の懸念が強まる台湾情勢など、日中関係を取り巻く世界情勢は大きく不安定化しており、それによって日中経済関係にも影響が及ぶことが懸念されています。
日中経済関係に落ちる暗い影
2023年が明けて早くも一ヶ月が過ぎますが、既に2つのニュースが日中経済関係に暗い影を落としています。
ゼロコロナ政策の撤廃によって中国国内で昨年11月あたりから感染者が急増した中、日本が中国向け水際対策を強化したことへの対抗措置として、中国は日本向けのビザ発給停止という措置を取りました。
欧米諸国も同様にその際水際対策を強化しましたが、習政権は欧米諸国に対してビザ発給停止の措置を取りませんでした。突然のビザ発給停止に日本政府は抗議し、民間企業の間では中国に出張できないなどと同様が広がりました。
その後、中国はビザ発給を再開しましたが、再開の理由やタイミングなど詳しいことは依然として分かっていません。
また、バイデン政権は昨年10月、先端半導体の技術が中国に流れ込み、それが軍事転用(習政権は軍の近代化を目指して軍民融合を進めている)される恐れを警戒し、製造装置など先端半導体関連全般で対中輸出規制を発表しましたが、最近それに日本が加わることは分かりました。
バイデン政権は米国単独で規制しても効果的ではないと判断し、先端半導体に必要な製造装置で世界シェアを持つ日本とオランダに対し、同規制に加わるよう要請しました。
1月に岸田首相とオランダのルッテ首相がホワイトハウスを訪問した際、バイデン大統領はそれで協力を要請したとされています。日本とオランダがバイデン政権主導の対中規制に参加することについて、中国側は既に強い懸念を表明し、両国に対して自制を呼び掛けています。
以上の2つの動きだけでは、今後の日中関係の行方を探ることは簡単ではありません。しかし、この分野の専門家として、筆者なりの考えを説明したいと思います。
筆者のインサイト
まず、「中国もできることなら日本との経済関係は維持したい」と考えているはずです。突然の日本向けビザ発給停止も、中国側は日本の水際対策強化を理由に説明していますが、ゼロコロナによって中国経済は停滞し(経済成長率も鈍化)、中国市民の習政権への経済的、社会的に不満も強まっています。
習政権が何よりも恐れるのは国民の不満・怒りの矛先が自らに向くこと、共産党の政治的基盤が脅かされることであり、一刻も早く経済を再生させる必要に迫られています。よって、いつまでもビザ発給停止という措置を続ければ、日中ビジネスに影響が及ぶだけでなく、中国国民からの不満にも繋がる恐れがあります。
また、対中半導体規制でも同じような思惑があり、先端半導体はハイテク兵器の開発・生産の根幹をなすものであり、軍の近代化を進める習政権としては何としても獲得しなければならない先端技術になります。
よって、米国を戦略的競争相手と位置づける中国としては、先端半導体の獲得競争で米国に負けるわけにはいかず、製造装置で世界シェアを持つ日本やオランダとの関係は何としても維持しなければなりません。中国が両国に米国主導の規制に参加しないよう要請する背景にはそれがあります。
今後、インドに抜かれる予測がありますが、今日依然として日本は世界第3位の経済大国であり、米国が半導体など重要品目で対中デカップリングを進めようとする中、中国としては日米を切り離し、日本とは独自の経済関係を維持したい想いがあります。
対応措置の境界線はどこか?
しかし、同時に、「中国の政策、目標、核心的利益が脅かされ、日本が欧米と足並みを揃え続けるなら、それにも限界がある」とも考えているはずです。この限界という境界線こそが判断が難しく、日本企業が最も警戒している点でしょう。
米中対立が続く中、中国は、日本が政治と経済の両面で如何に米国と足並みを揃えるかを注視しており、必要があれば日本への対応措置を取ると考えているでしょう。
中国政府は2021年6月、外国が中国に経済制裁などを発動した際に報復することを可能にする反外国制裁法を施行しました。
この反外国制裁法は、その外国による制裁に第三国も加担すればその第三国も制裁対象になると定めていますが、実質この外国は米国など欧米陣営を指し、日本がその第三国になることが懸念されます。
今後、この第三国になって中国が日本に制裁を発動することになるのか、もしくは日中関係の冷え込みによって発動することになるのか分からない部分も多いですが、今回の半導体規制のケースは、バイデン政権の要請によって日本が加わったのであり、反外国制裁法が描くシナリオと同一線上にあるのは事実です。
また、日本はコンピューター関連の部品、ノートパソコンやタブレット端末などでの対中依存度が高く、1つにこういった品目で輸出停止など規制が強化される可能性が考えられるでしょう。
以上の2つの想いが中国にはあり、今後も剛と柔を使い分けることで日本に接してくるはずです。しかし、中国は台湾を核心的利益としており、この問題で緊張が一気に高まれば、日中関係も一気に冷え込むリスクがあります。今後も難しい複雑な日収関係が続きそうです。