
山梨県で「規格外」に新たな命を吹き込むKEIPE株式会社。同社が着目したのは、チーズ製造過程で大量に捨てられていた栄養の塊「ホエイ」だ。地域の酪農家と手を取り合い、深刻な社会課題を「おいしさ」という快楽で解決する、鮮やかな逆転劇に迫る。
酪農の窮地を救う一滴の「乳清」が、極上ジェラートに化けるまで
「まさか、これほどまでの栄養が捨てられていたなんて……」
山梨県笛吹市。観光客で賑わう「nouto工場直売所」から、驚きの新商品が産声を上げた。主役は、チーズを作る際に生乳の約9割を占めながら、その多くが産業廃棄物として処理されてきた「ホエイ(乳清)」である。
高タンパクで低脂質、ビタミンやミネラルが凝縮されたこの液体は、いわば「飲む点滴」とも呼べる宝の山だ。この未利用資源に目をつけたのが、山梨県内唯一の生乳処理施設を持つ清里ミルクプラントと、KEIPEが運営する「nouto」である。
両者が手を組み、県産の完熟桃やいちごを贅沢にぶつけたジェラート。4月28日のデビューを前に、早くも関係者の間で「これまでにない爽やかさだ」と話題をさらっている。
「規格外」を武器に変える、遊び心満載の体験型戦略

他社が真似できないのは、同社が掲げる「企画で規格を超えていく」という、執念にも似たプロデュース力だ。単に「エコなリサイクル商品」として売るのではない。消費者が思わず夢中になる「仕掛け」が、店内のあちこちに仕込まれている。
客席の目を引くのは、自分でジェラートを盛り付ける「まきまきマシン」だ。さらには、ド派手なレインボーベーグルにホエイジェラートを乗せるという、思わずスマホを向けたくなるビジュアル戦略も抜かりない。
「おいしい」の直後に「楽しい」がやってくる。この体験を通じて、客は知らず知らずのうちに地域の課題解決に一役買っていることになる。この「消費者を無理やり説得せず、楽しみの中に巻き込む」手法こそ、同社が圧倒的な支持を得ている理由だろう。
消えゆく聖地への危機感と、移住者が持ち込んだ再生の哲学
このプロジェクトの奥底には、日本の酪農が直面する「絶望的な現実」が横たわっている。かつて全国に40万戸以上あった酪農家は、いまや1万戸を割り込んだ。清里の美しい牧歌的風景も、実は風前の灯火なのだ。
「この恵みを、最高の形で届けたい」
神奈川から清里へ移住したミルクプラントの磯部啓介氏は、外からの視点だからこそ、捨てられるホエイの価値に気づくことができた。一方、地元・桃農家の娘として育ったKEIPEの雨宮友美氏は、「形が悪い」だけで弾かれる果実の不条理を誰よりも知っていた。
二人に共通するのは、地域の衰退をただ嘆くのではなく、見捨てられたものに新たな価値を宿らせるポジティブな哲学だ。ホエイに光を当てることは、彼らが掲げる「誰もが居場所を持める社会」という理想そのものなのである。
ビジネスパーソンが震える、既存資源を蘇らせる「編集力」
KEIPEの快進撃から学ぶべきは、ゼロから何かを作るのではなく、今ある「負」を「正」に書き換える圧倒的な編集力だろう。
「廃棄されるホエイ」という課題を、「県産フルーツ」という地元の強み、そして「体験・SNS」という現代の武器で再構成する。この鮮やかなリブランディングの手法は、停滞するあらゆるビジネスシーンにおいて、強烈なカンフル剤となるはずだ。
「まずは味に感動してほしい。背景を知るのは、その次でいい」
重い社会問題を、冷たく甘いジェラートに包んで届ける。この軽やかな身のこなしこそが、閉塞感漂う地方創生を切り開く、唯一の希望なのかもしれない。



