
大阪万博の舞台で輝いた最先端のエネルギー設備を、地方の伝統産業へ継承する。
EUREKA株式会社が小林酒造で始動させた「万博レガシー継承型」システムは、循環型経済の新たな地平を切り拓こうとしている。
万博の「熱」は北の大地で再燃する
国際的な祭典が閉幕した後に残される膨大な設備を、いかに次世代の資産へと転換するか。その難題に対する鮮やかな解が、極寒の地・北海道栗山町で産声を上げた。
EUREKA株式会社は、創業140年を数える北海道最古の酒蔵、小林酒造の「八番蔵」新設にあたり、大阪万博のパビリオンで使用された中規模蓄電池システムを移設・再利用するプロジェクトを始動させた。
日本初となるこの試みは、単なる設備の譲渡ではない。世界が注目した脱炭素の知見を、日本の伝統的な手仕事の現場へと接ぎ木する、壮大な「遺産の継承」である。
砂漠の「志」を宿した蓄電池の再誕
今回のプロジェクトが特異なのは、再利用される蓄電池が、万博において厳格なサステナビリティ基準をクリアした中東大手の国家パビリオンで使用されていた点にある。一般的に大規模イベントの設備は閉幕後に解体・廃棄の運命を辿ることが少なくないが、EUREKAはここに「サーキュラーエコノミー」の可能性を見出した。
約200kWhという十分な容量を持つシステムは、105年ぶりに新築された酒蔵のエネルギー基盤として第二の人生を歩み始めている。雪国特有の課題である積雪に対しては、屋根一体型の太陽光パネルを採用し、酒蔵の美しい意匠を守りつつ、冬の貴重な日射を余さず電力へと変換する。
140年の伝統と先端技術を繋ぐ「哲学」
この野心的な取り組みの背景には、テクノロジーを単なる効率化の道具とせず、物語や志を運ぶ媒体として捉える哲学がある。EUREKAのジョン・ヘラルド・チョング代表は、パビリオンに込められた「資源を次世代へ繋ぐ情熱」を、140年の歴史を持つ小林酒造の精神性と共鳴させた。
小林酒造側も、伝統を守ることと進化することを同義と捉え、ブラックアウトの経験から得た教訓を糧に、災害時でも麹室の温度を維持できるレジリエンスの強化を断行した。「中東の大国が掲げた情熱を、私たちが日々の酒造りへと繋いでいく」
小林米三郎社長が語るその言葉通り、砂漠で練られたサステナビリティの意志が、形を変えて北国の伝統を支える力へと昇華されたのである。
「接続の知恵」が地方産業を救うか
本プロジェクトから我々が学ぶべきは、既存の枠組みを超えた「接続の知恵」だろう。大企業の最新技術と、地域に根ざした伝統産業。
一見すると対極にある両者が、脱炭素という共通言語を通じて手を取り合うことで、唯一無二の付加価値が生まれる。2026年4月、この「万博の残り火」を動力源として醸される日本酒の第一号が誕生する。
それは、国際社会の志が地域の産業を潤し、新たな歴史を紡ぎ出す、美しい循環の象徴となるはずだ。技術の進歩を懐古主義に陥ることなく、かといって伝統を軽んじることもなく融合させるこのモデルは、日本各地の産業が生き残るための福音となるに違いない。



