
ラグジュアリーの本質が精神の豊かさへ移ろう今、UMITOは自然界の不均衡を美しき道具へ昇華させた。廃棄される鹿革を用いた手帳製作から、海の景観を享受する企業の「資源循環」への覚悟と独自の哲学を読み解く。
廃棄される鹿革に新たな命を吹き込むUMITOの挑戦
海の最前列にスモールラグジュアリーホテルを展開するUMITOが、オーナーへのギフトとして「UMITOオリジナル手帳」を製作した。この一見、伝統的な会員制ビジネスのホスピタリティに見える取り組みの核心は、その素材にある。カバーに採用されたのは、国内で害獣として駆除され、その多くが活用されずに廃棄されてきたニホンジカの革、いわゆる「ジビエレザー」だ。監修には、世界最高峰の靴職人と称される菱沼乾氏を迎え、単なる記念品を超えた、資源循環の象徴としての価値を付与している。
野生の傷を個性に変えるジビエレザー活用の独自性
本作の特筆すべき点は、野生動物ゆえの「不完全さ」をあえて肯定し、それをラグジュアリーの文脈で再定義したことにある。一般的に流通する牛革とは異なり、野生のシカの革には、生前に負った傷や皺が刻まれている。これらは大量生産を前提とする工業製品においては「歩留まりを悪くする欠陥」として忌避され、結果として捕獲されるシカの多くが皮のまま廃棄される要因となってきた。
しかし、UMITOはこれを「世界に二つとない個性」と捉え直した。ブランドカラーである深いブルーに染め上げられた鹿革は、手に吸い付くような柔らかな質感と、自然の営みを物語る独特の表情を持つ。不均質な素材を、世界一の技術を持つ職人の手によって調律することで、工業規格品には成し得ない「個としての愛着」をオーナーに提示したのである。
海の美しさを守るために山を見つめる環境哲学
なぜ、海のホテルを運営する企業が、山の問題であるシカの革にこだわるのか。その背景には、生態系を包括的に捉える同社の哲学がある。「自然と向き合い、美しいものを生み出すこと。それは環境配慮を特別なことではなく、日常の選択として取り入れていくことでもある」と同社が説くように、その姿勢は一貫している。
北海道森町でのジビエ解体所の運営支援や、海のエネルギーを利用した海底熟成ワインの展開など、彼らの事業領域は常に自然界の未活用リソースの再発見に根ざしている。山の生態系が崩れれば、巡り巡って川が汚れ、海が痩せる。ジビエレザーの採用は、海の景観を享受する企業の責務として、自然の循環を滞らせないという意思表示に他ならない。
サステナビリティをブランド物語へ昇華させる経営戦略
UMITOの取り組みから学べるのは、サステナビリティを「義務」や「コスト」としてではなく、「ブランドの物語」を深める装置として機能させる知性だ。同社は手帳の中に、各拠点の魅力を伝えるコンテンツを盛り込み、オーナーが日常の中で「また海へ帰りたくなる」仕組みを構築した。そこに、自然の厳しさと恵みを象徴するジビエレザーを添えることで、オーナーは手帳を開くたびに、自身が所有する別邸が守るべき自然環境と地続きであることを再認識する。
単なるノベルティの配布は一時的な消費で終わる。しかし、社会課題の解決プロセスをプロダクトに宿し、顧客の日常に組み込むことができれば、それは顧客とのエンゲージメントを強固にするだけでなく、企業の存在意義を社会に刻む強力な武器となるのである。



