
使い古された小学校の朝顔鉢を、広島の伝統工芸「熊野筆」へと転生させる。PHI株式会社が掲げるのは、単なるリサイクルに留まらない「循環型環境教育」だ。ビジネスと教育、伝統を繋ぐ横浜発の共創が幕を開ける。
横浜発の事業共創「MEBUKU」に採択。PHIが取り組む循環型プロジェクトの全容
横浜の街を起点に新たな価値を育む事業共創プログラム「MEBUKU by Vlag yokohama」の第2期採択プロジェクトが決定した。相鉄アーバンクリエイツ、東急、UDSの3社が運営するこの枠組みにおいて、一際異彩を放つのがPHI株式会社(繁田知延CEO)による提案だ。
同社が掲げるテーマは「朝顔鉢で芽吹く 共創型環境教育」。2027年に開催を控える国際園芸博覧会「GREEN EXPO 2027」を見据え、横浜市内のステークホルダーと連携しながら、教育と資源循環、そして伝統工芸を掛け合わせた野心的な実証実験へと踏み出す。
「プラスチック鉢が高級筆に」独自のアップサイクルと教育還元の仕組み
本プロジェクトの独自性は、資源の回収から製品化、教育現場への還元までを一つの円環として設計している点にある。
対象となるのは、小学校で使い終えたプラスチック製の朝顔鉢だ。これを広島県の伝統的工芸品である「熊野筆」の持ち手(軸)部分へとアップサイクルし、藍色の深い輝きを放つ「JAPAN BLUE 熊野筆 “KACHIIRO”」として再生させる。特筆すべきは、完成した筆を再び、元の持ち主であった子供たちの手に戻すという仕組みだ。
「自分が使っていた道具が、職人の手を経て一生ものの工芸品として戻ってくる」
この成功体験そのものを環境教育の教材とする手法は、既存の「捨てないためのリサイクル」とは一線を画す、付加価値の高い資源循環モデルといえる。
伝統工芸の継承と環境課題を同時解決する「愛着の哲学」
この取り組みの背景には、PHIが重視する「日本の伝統工芸の継承」と「環境課題の解決」を分断させない哲学がある。繁田氏は、単に素材を再利用するだけでな、そこに「物語」を付与することの重要性を説く。
「子供たちが自分の持ち物だったプラスチックが、美しい工芸品に変わる過程を体験することで、資源への眼差しは劇的に変わるはずだ」
日本の美意識を象徴する熊野筆という「本物」に触れる機会を創出しながら、同時にプラスチック問題への当事者意識を育む。伝統工芸の衰退という社会課題と、環境負荷の低減という地球規模の課題を、子供たちの「愛着」を媒介に結びつけたのである。
PHIの事例に学ぶ、次世代サステナブル事業における「体験価値」の設計
PHIの取り組みから学べるのは、サステナビリティ(持続可能性)を語る上で欠かせない「情緒的価値」の設計だ。
多くの企業がESG投資やSDGsを旗印に掲げるが、その多くは数値目標の達成に終始し、消費者の心に響くストーリーを欠いている。対して本プロジェクトは、教育現場という日常の風景を起点に、伝統工芸という異分野を接続し、横浜という地域社会で共感のネットワークを広げている。
「循環」を単なる効率化のプロセスではなく、感動を伴う体験として再定義すること。横浜から芽吹くこの小さな筆の物語は、これからの共創事業が目指すべき、一つの解を示唆しているのではないだろうか。



