
合板製造で生じる端材を精油へと転換する——株式会社ノダが富士川事業所で始めた新事業は、国産材の価値を高めながら地域資源の循環を実現し、SDGsと市場開拓を同時に進める挑戦となっている。
合板端材を価値へ転換する精油生産の開始
株式会社ノダは、富士川事業所に精油抽出プラントを導入し、合板製造工程で生じるヒノキの「剥き芯チップ」から精油を抽出する事業を本格化した。同社は従来、剥き芯をMDF原料への再利用や「ふじのくに森の防潮堤づくり」への無償提供などに充ててきたが、油分を活かす用途は未開拓のままだった。
今回の取り組みでは、剥き芯チップから精油を抽出した後、残渣は従来通りMDF原料として再利用する“二段階利用”を構築。一本の木から引き出せる価値を極限まで引き伸ばす、循環型のアップサイクルモデルが成立した。
富士ヒノキ×地下水が生む「富士発」アロマ
同社が手がける「ヒノキエッセンシャルオイル」は、富士・富士宮地域の「富士ヒノキ」を使用し、富士川事業所に導入した蒸留装置で水蒸気蒸留法により抽出される。蒸留に用いるのは富士の地下水で、原料チップは製造ラインから蒸留設備へと短距離で運ばれるため、油分が劣化しない状態で加工できる点が特徴だ。
香りは、木部由来の落ち着いた奥行きに加え、枝葉のような軽やかさも感じられる独自のバランスを持つ。プロのアロマセラピストからは「重厚さと爽やかさが共存する希少な香り」との評価も寄せられている。
地域と連携したブランド発信の広がり
ノダは、富士ヒノキの価値向上を地域とともに推進する姿勢を示している。同社は同製品と同じ端材から生まれたウッドディフューザーを富士市へ持参し、小長井義正市長を表敬訪問した。小長井市長は「富士ヒノキの認知向上につながる取り組みだ」と期待を述べており、行政と企業が一体となった地域ブランドの醸成が進む。
精油やディフューザーは全国7か所のノダショールームにも展示されており、来場者が“端材から生まれる香り”を体感できる場として活用されている。
EC販売と今後の展望——SDGsと市場開拓を両立
「ヒノキエッセンシャルオイル」は、楽天内の公式ショップ「NODA webshop」で販売されており、単品のほかディフューザーとのセット商品も提供している。合板や建材を軸としてきた同社が、アロマ・ウェルネス市場という生活者に近い新分野に踏み出した点は大きい。
今後は観光、宿泊、ウェルネス産業との協働も視野に入れ、富士ヒノキの新たな可能性を探る方針だ。端材を出発点としながら、地域の森林資源の価値を高め、木材産業の持続性を支える循環モデルを築く試みは、SDGsの実装だけでなく市場創造の観点からも注目度が高まっていく。



