
2025年5月、大阪・関西万博の会場にて、ひときわ目を引くスイーツが注目を集めている。販売するのは、「ブラックモンブラン」で知られる竹下製菓が展開するブース「EARTH SWEETS~Presented by Takeshita Seika~」。その目玉商品が、京都・伏見の老舗酒蔵、玉乃光酒造の酒米の精米時に発生する“糠(ぬか)”をアップサイクルして作られた、もちもちの米粉チュロスだ。
このスイーツには、ただの甘味では終わらない、地球を想う物語が詰まっている。
酒米の“糠”がチュロスに 副産物に価値を見出す挑戦
日本酒は元来、米を原料にし、精米や搾りの過程で多くの副産物を生み出す飲み物である。中でも糠は、こめ油やぬか漬けの原料として利用されることがある一方、供給が需要を上回る現状では、廃棄されるケースも少なくない。
「副産物と呼ばれるものも、大切に育てられたお米の一部。できるだけ多くの人が笑顔になれるかたちで活かしたい」――そう語るのは、玉乃光酒造株式会社(京都市伏見区)の代表取締役社長・羽場洋介氏である。
今回、酒米の糠をチュロスとして再活用するにあたり、同社がタッグを組んだのが「米粉チュロスジャパン株式会社」。国産米粉でグルテンフリーのチュロスを作り続ける同社は、2024年に竹下製菓のグループ企業となり、今回の「EARTH SWEETS」ブースを共同で展開する運びとなった。
サステナブルだけじゃない 驚きの「もっちり感」と遊び心
提供されているチュロスは、酒米の中心部に近い白く粒子の細かい糠を「米粉」としてブレンドし、独自の製法で仕上げたもの。米油で揚げたチュロスは、外はカリッと、中はもっちりとした食感に仕上がり、自然な甘さが口に広がる。米粉ならではの優しい風味に加え、使用素材が地球にやさしいという背景もあり、若年層から高齢者まで幅広い世代の支持を集めている。
さらに注目されているのが、EXPO公式キャラクター「ミャクミャク」のイメージカラーである赤と青を基調にした「文字チュロス」だ。「大阪」や「おおさか」の文字をかたどったユニークな形状で、SNS映えを狙う来場者の人気を呼び、連日長蛇の列ができているという。
味も見た目も多彩で、フレーバーにはオリジナル、ストロベリー、ブルーシュガー、チョコ、きなこ、抹茶の6種が並ぶ。
日本酒とチュロスの“未来的マリアージュ”も実現

このチュロスの背景には、さらに粋な仕掛けがある。「EARTH SWEETS」では、玉乃光酒造の看板商品「純米大吟醸 備前雄町100%」の小瓶も提供されており、日本酒とスイーツという一見異なるジャンルの“マリアージュ”が試されている。
「実は、日本酒とスイーツの相性はとても良い」と語るのは、チュロス開発を主導した米粉チュロスジャパンの代表・長谷川友紀氏。「甘味と酸味、そして旨味の重なりが、これまでにない新たな味覚体験を生んでいる」と語る。
スイーツで伝える、サステナビリティの輪
こうした試みは単なる“エコ”にとどまらず、「おいしい」「楽しい」「やさしい」の三要素を兼ね備えた、新しいサステナビリティ体験を提示している。副産物の活用という重い課題を、親しみやすいチュロスという形で提示することで、多くの人に「もったいない」の先を考えるきっかけを提供している。
酒蔵を模したディスプレイや稲穂の演出が施された店舗空間は、まるで自然と文化を融合させた“和の庭園”のようだ。そんな場で楽しむスイーツには、未来を想うメッセージが込められている。
「おいしさで世界を変える」――その第一歩が、今、大阪万博から始まろうとしている。