共同印刷株式会社 岩崎創太氏(画像左)と、三井物産株式会社 荒川朋也氏(画像右)
カーボンニュートラルの実現が世界的な命題となる中、注目を集めるCFP(カーボンフットプリント)。
原材料調達から廃棄・リサイクルまで、製品の一生を通じた環境負荷を可視化する手法として、多くの可能性を秘めている。だが、その重要性が叫ばれる一方で、普及には課題も多い。
今回は、CFP算定の現場で課題解決に取り組む岩崎創太氏(共同印刷株式会社)と、CFP算定ツールを企業に提供する荒川朋也氏(三井物産株式会社)の二人が、CFPが果たすべき役割と今後の展望について語る。
CFPの普及が抱える課題とは?
CFPの重要性が高まる一方で、その普及にはまだ課題が残っているようです。まずは、岩崎さんと荒川さん、それぞれの視点からCFPが抱える課題について教えてください。
生活・産業資材事業本部 事業企画部 課長 岩崎創太氏。同部署では、生活・産業資材を中心に、プラスチック包装材などの製造を主力として扱う。環境負荷に対する施策は企業の責務だと語る。
岩崎
一つ大きな課題として挙げられるのは、CFPの算定がまだ「複雑でわかりにくい」という点です。
私たちのような現場でCFPを活用しようとすると、データの収集から算定まで多くの工数がかかる上に、場合によっては専門知識が必要になります。
特に、中小企業ではそうしたリソースが不足しているケースが多いと感じています。
三井物産株式会社 LCA Plus事業推進チーム プロジェクトマネージャー 荒川 朋也氏。「LCA Plus」のプロジェクトマネージャーとして、化学品、包装材料、消費財、自動車・自動車部品など、様々な業界のメーカー各社におけるCFP課題に対して算定ツール、コンサルティングを各社へ提案している。
荒川
その点については私も同感です。また、CFPの算定には業界標準や国際規格がある程度整備されてきているものの、まだ全てが統一されているわけではありません。
そのため、企業が自社の算定基準を他社と比較することが難しく、一部では「CFPの算定結果にばらつきがある」という声も聞かれます。
これは特にサプライチェーン全体でデータを統一的に管理する際に、大きな障壁となっています。
岩崎
そうですね。あとは、社内での理解も普及の鍵になると感じています。環境問題への意識が高い企業であっても、CFPの具体的な意義や使い方が十分に浸透していないことも多いです。
「それってお金になるの?」といった声が出ることもあり、まずはCFPを企業文化として定着させる必要があると感じています。
では、こうした課題に対して、どのようなアプローチが有効だと考えますか?
荒川
まずは、CFPの算定をより身近に感じられるようにする必要があると思っています。たとえば私たちが提供しているLCA Plusでは、初心者にも直感的に操作できるUI設計を重視しました。
さらに原単位データベース「IDEA」を実装して、業界標準や国際基準に基づいた正確な算定を実現しています。これにより、工数の削減や算定結果の透明性を高めることが可能です。
岩崎
確かに、ツールの使いやすさは重要ですね。ただ、それだけでは不十分だと思います。
CFPが本当に効果を発揮するためには、データを提供する側、つまりサプライヤーの協力も不可欠です。上流から下流まで、サプライチェーン全体でデータを共有し、連携して取り組むことが求められます。
CFPの普及にはサプライチェーンの連携が必要不可欠
サプライチェーン全体での連携が重要ということですが、具体的には、どのような課題がそこに存在しているのでしょうか?
岩崎
一つ大きな課題は、サプライチェーンに属するすべての企業が同じ基準でCFPデータを共有できる環境がまだ整っていないことです。
各企業がそれぞれ異なるフォーマットや基準でデータを算出しているため、サプライチェーン全体で連携を取ろうとすると、データの統一や整合性を取るのに手間がかかってしまいます。
荒川
加えて、データ提供に対する理解や意識が企業間で異なる点も課題ですね。特にCFP算定の取り組みが浸透していない企業では、「なぜこんな細かいデータが必要なのか」という疑問や抵抗がある場合もあります。
サプライチェーン全体でCFPを機能させるには、データを共有するメリットや意義をしっかりと伝えることが重要です。
岩崎
そうですね。もう一つの課題は、データの精度です。実際にCFPを算定する際、サプライヤーが提供する一次データが不十分な場合もあります。
その場合、標準的なデータベースの業界平均的な値を使うことになりますが、これだと実際に調達している原料の実態を反映しているとは言い切れません。
この点をどうカバーしていくかは、CFPに取り組む企業全体にとっての課題だと思います。
荒川
そうですね。そのため、私たちとしては、システム連携を強化する取り組みを進めています。
たとえば、LCA Plusではサプライヤーからのデータ収集を円滑にするための機能を上市した当初から提供してきました。
更に最近ではこのような要望が高まっていることを受けてデータ連携をシステム面だけでなくコンサルサービスも含めてサポートするご提案を開始しています。
こうしたサポートを活用することで、企業がサプライチェーン全体でCFPを活用できる可能性が広がると考えています。
サプライチェーン全体で見るCFPの価値
CFPをサプライチェーン全体で活用することは、どのような価値をもたらすのでしょうか?具体例なども交えて教えてください。
岩崎
サプライチェーン全体でCFPを活用する最大の価値は、各工程でのGHG削減が可能になる点です。
たとえば、ある製品の製造工程で「どの部分で最も環境負荷が高いのか」を把握できれば、そこに特化した改善策を講じることができます。それにより、メリハリをつけたGHG削減の取り組みが期待できます。
荒川
そうですね。データがサプライチェーン全体で共有されると、企業間での連携もスムーズになります。
たとえば、上流のサプライヤーが提供する原材料のCFPを把握できれば、最終製品の環境負荷を減らすための具体的な選択肢が見えてきます。
これが新しい製品開発や持続可能なビジネスモデルの構築にもつながります。
岩崎
仰る通りですね。CFP算定を通じたサプライチェーン全体のデータ連携は、消費者への透明性の提供にも役立ちます。
たとえば、「この製品はこのようなプロセスで製造され、これだけ環境に配慮されています」という情報を丁寧に伝えることで、消費者からの信頼を得ることができます。
特に現在、環境問題への意識が高い消費者が増えているため、こうした透明性は市場競争力の向上にも寄与します。
荒川
欧州を中心に進む環境規制にも対応しやすくなる点も重要です。これからの時代、環境負荷を数値で示すことが求められる場面はますます増えていくでしょう。
CFPを活用してデータを整備することは、企業がそうした規制に柔軟に対応し、市場での存在感を高めるための必須条件になると考えます。
なるほど。環境負荷の削減だけでなく、競争力の強化や市場での信頼獲得にもつながるわけですね。
CFPがつなぐ未来 2050年カーボンニュートラルに向けて
共同印刷として2050年のカーボンニュートラル実現に向けてCFPの取り組みを通じてどのように貢献するのかについて、お聞かせください。
岩崎
弊社は「TOMOWEL─共にある、未来へ」をコーポレートブランドおよびメッセージとして掲げています。
このメッセージには、社内外のステークホルダー、さらには地球環境と共に、持続可能な未来を築いていきたいという強い思いが込められています。
プラスチックや紙などの素材を扱う企業として、環境に対して高い意識を持ちながら事業を展開することは、私たちの責務だと考えています。
その実現のために欠かせないのがCFPです。2050年カーボンニュートラルの目標を達成するには、CFP算定を通じて製品の環境負荷を正確に把握し、それに基づいて具体的な削減行動を取ることが不可欠です。
特に製造業では、「作る」「運ぶ」「捨てる」という全プロセスにおいて負荷を減らすことが求められます。
CFPは単なるデータ算出の手法ではなく、事業全体を見直し、環境と調和する仕組みを構築するための重要な指標です。
「TOMOWEL」の理念を体現するためにも、私たちはCFPを積極的に活用し、環境負荷を減らすだけでなく、持続可能な未来の実現に向けて歩みを進めていきたいと考えています。
三井物産としては、CFPを通じて2050年のカーボンニュートラル実現に向けてどのように貢献していくのでしょうか?
荒川
共同印刷さんのように明確な理念を持ち、それを具体的な行動に結びつけることは、CFPが持つ価値の本質の一つだと思います。
三井物産としても、CFPの活用を促進し、多くの企業が環境負荷低減の取り組みを進められるよう支援することが重要な役割だと考えています。
そのために、企業がCFPをより簡単に、効果的に活用できる仕組みづくりに注力しています。
たとえば、LCA Plusでの算定やデータ管理の効率化をより深化させ、ツールの開発・提供を通じて、CFP算定のハードルを下げることを目指しています。
また、ISOや国際規格に対応した算定を支援し、企業が取得したデータの信頼性を高める取り組み進めています。
加えて、サプライチェーン全体での環境負荷削減が求められる中、CFPのデータ共有を円滑にすることも重要です。
2050年のカーボンニュートラル実現には、個々の企業の取り組みに加え、素材調達から製造、流通、リサイクルまでを一貫して考える必要があります。
そのため、企業間での情報共有を促進し、サプライチェーン全体の環境負荷を見える化することで、より実効性のある削減施策を支援していきたいと思います。
ありがとうございます。それでは最後に、CFPが2050年カーボンニュートラルに向けて果たす役割について、お二人から読者へのメッセージをお願いします。
岩崎
CFPは、私たち企業が地球環境と共存する未来を作るための重要な指標です。弊社は「TOMOWEL─共にある、未来へ」という理念を軸に、CFPを活用し、社員やステークホルダー、そして社会全体とともに持続可能な未来を築いていきたいと思います。
読者の皆さんも、ぜひCFPという考え方を取り入れて、一歩を踏み出していただければと思います。
荒川
CFPは、環境負荷を減らすための「指標」であると同時に、未来を考える「手がかり」です。
企業だけでなく、一人ひとりが「環境に良い選択」をする時代が来ています。CFPを通じて、より多くの企業や消費者とともに持続可能な社会を実現していきましょう。
◎プロフィール
岩崎 創太
生活・産業資材事業本部 事業企画部 課長
略歴
2011年4月 共同印刷株式会社入社 経理部に配属
2016年4月 同社 経営企画本部 経営企画部に配属
2022年4月 同社 生活・産業資材事業本部 事業企画部に配属、以後現職
入社後、経理部に配属。財務会計業務に従事した後、経営企画部に配属。本社再開発プロジェクト及び管理会計業務に従事。2022年現職に配属、以後事業戦略及び環境対応業務に従事。
荒川 朋也
三井物産株式会社 LCA Plus事業推進チーム プロジェクトマネージャー
略歴
2003年4月 三井物産株式会社入社
2008年7月 インド三井物産株式会社
2010年7月 本店機能材料事業部工業材料事業室
2016年1月 タイ国三井物産株式会社パフォーマンスケミカル部 次長
2020年4月 タイ国三井物産より合弁プラスチック製造事業会社出向
2021年9月 本店機能材料事業部工業材料事業室、以後現職
プラスチックの販売、合弁事業等を中心としたキャリア。現在はカーボンフットプリント算定プラットフォーム「LCA Plus」のプロジェクトマネージャーとして、主にマーケティングを担当。化学品、包装材料、消費財、自動車・自動車部品など、様々な業界のメーカー各社におけるCFP課題に対して算定ツール、コンサルティングをご提案。また各種セミナーにてカーボンフットプリントの普及、業務課題への対応を講演。
◎企業概要
共同印刷株式会社(Kyodo Printing Co., Ltd.)
創業年月:1897(明治30)年6月
設立年月:1925(大正14)年12月
資本金:45億1,000万円
従業員数:1,872名(契約社員含まず。2024年3月31日)
URL:https://www.kyodoprinting.co.jp/
三井物産株式会社(Mitsui & Co., Ltd.)
設立年月日:1947年(昭和22年)7月25日
資本金:342,560,274,484円 (2023年3月31日現在)
従業員数:5,449名 (連結従業員数46,811名) (2023年3月31日現在)
URL: https://www.mitsui.com