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法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

株式会社山梨中央銀行

https://www.yamanashibank.co.jp/

〒400-0031山梨県甲府市丸の内一丁目20番8号

地銀がけん引する企業のSX推進。銀行がここまでやるのか、山梨中央銀行3つの変革

サステナブルな取り組み ESGの取り組み
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山梨中央銀行 代表取締役専務 古屋賀章
山梨中央銀行代表取締役専務古屋賀章さん。同行の設立に尽力した渋沢栄一の書を背景に。

金融機関では「サステナブルファイナンス」の取り組みが活発化している。

気候変動への取り組みと融資条件を連動させる「サステナビリティ・リンク・ローン」の国内融資残高は、2019年の550億円から2021年は3,523億円に拡大。

グリーンプロジェクトに資金を供給する「グリーンローン」は2017年157億円から2021年には1,345億円へと急増した(出所:一般社団法人全国地方銀行協会「地銀協レポートvol.4地方銀行のサステナブルファイナンスへの取り組み」)。

2022年5月に同協会が公表したアンケート結果では、地方銀行62行中32行が「SDGs/ESGを意識した融資方針の策定」を実施、サステナビリティ・リンク・ローンは26行が取り組み済みと回答している。

世界的なSDGs/ESG経営へのパラダイムシフト、政府の「新しい資本主義」の実現に向けた「成長と分配の好循環」を目指す政策の推進など、今後もサステナブルファイナンスは加速度的な増大が予測される。

そのような中、新中期経営計画「TRANS³(トランスキューブ)2025」を公表した山梨中央銀行の動向が注目される。

この中計では、「サステナブルファイナンス」の投融資額について2021年度実績715億円を、2025年には2,500億円以上へと拡大する意欲的な数値目標を打ち出している。同行代表取締役専務の古屋賀章さんに話を聞いた。

古屋さんは「これからの地方銀行は、『ファイナンス機能付き商社』のような存在であるべき。地域企業が社会の変化に適応し続けるために最適なソリューションを提供し、変革に併走していきたい」と語る。

1877年(明治10年)、第十国立銀行として創業して以来、山梨県唯一の地方銀行として地域経済の発展と共に成長し、安定的な財務基盤を誇る同行。

経営の健全性を示す自己資本比率(単体、国内基準)は11.23%(2022年3月末時点)と、地銀平均の9.58%を大きく上回り、コロナ禍においても高水準を堅持する。

さらには東京圏への積極的なエリア拡大など、大胆な成長戦略も展開する。

山梨の豊富な自然や地域資源、大都市圏に隣接する地の利、県人会等の人脈を活かし、ビジネスマッチングのハブ機能を担う同行への期待は、ますます高まるばかりだ。

今回は、古屋さんに、サステナブル社会における地方銀行の在り方と、地域企業の変革を支援する「具体的取り組み」について話を伺い、地方銀行が地域企業のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)推進に果たし得る役割を探った。

地方銀行がSXを先導、顧客のESG経営への変革と挑戦に併走

古屋賀章さん

地方銀行が企業のESGなどサステナブル経営へのシフト、いわゆるSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の推進を支援する取り組みが注目を集めている。

今やSDGs/ESGなどのフレームワークを意識した経営の在り方の再定義は、大企業やグローバル企業のみならず、中小企業にとっても必須のテーマとなった。

当然、地方の中堅・中小企業への主な融資先である地方銀行が果たす役割は大きい。

山梨県に本店を置く唯一の地方銀行である山梨中央銀行も、新中期経営計画「TRANS³2025」の策定を機に「山梨から豊かな未来をきりひらく」をパーパスとして掲げて、ESG経営に取り組んでいる。

  • 環境面(E):豊かな自然環境の維持と将来への継承
  • 社会面(S):さまざまな連携強化と地域経済の活力向上 / DXの実現と地域社会のデジタル化 / 質の高いUI/UXを通じた共通価値の創造 / 多様な人材の成長と活躍を支える組織づくり
  • ガバナンス(G):コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの強化

今後、行内はもとより、日々の行員の渉外活動を通じて地域企業の経営にも多大な影響を与えていくことが期待される。

豊富な地域資源、東京に隣接する地の利と山梨県出身者のエコシステム

山梨中央銀行
山梨中央銀行本店。同行の特長として、山梨県から東京へと進出し、財を成した実業家集団・甲州財閥をはじめ、山梨をルーツにもつ名だたる企業や山梨県出身者とのつながりも深いことがあがる。

山梨中央銀行は、1877年(明治10年)、第十国立銀行として創業した。県内唯一の地方銀行であり、高い自己資本比率(11.23%。2022年3月末時点での地銀平均は9.58%)を誇る。

盤石な事業基盤による健全経営を背景に、140年前から東京圏とのつながりを重視したソリューションを県内外の企業に提供してきた歴史がある。

「山梨には豊富な地域資源と東京に隣接する地の利がある。しかも山梨から進出した志ある方々が東京で結束していることは、我々の強みにもなっている」と同行古屋賀章代表取締役専務は語る。

その強みを活かし、同行は山梨と東京の企業をつなぐ「ハブ」となり、積極的なビジネスマッチング活動を推進している。

山梨産の良質な野菜や果物は東京圏から世界市場へ。中継点としての工場や物流拠点の誘致も活発化している。

さらには自治体と連携し、リモートワーカーの二拠点居住や移住に関する融資や支援も推進するなど、多面的な活動を展開している。

古屋さんは「山梨と東京を一体の経済圏として捉えると、全く違ったビジネスモデルが見えてくる」と未来への青写真を描く。

豊富な地域資源と地の利による圧倒的な競争優位性、時代を超えて紡いできた人脈から生まれるオープンイノベーションの数々、これまで同行が連綿と蓄積してきた「無形資産」を礎に、新たなエコシステムの形成が期待される。

新中期経営計画「TRANS³(トランスキューブ)2025」、3つの変革ドライバーとは?

古屋賀章さん

山梨-東京エリアの盤石な経営基盤を背景に、巡航速度経営を志向する選択肢もある同行だが、古屋さんによれば、行内には「これからの時代は融資という銀行の機能だけでは、将来的に地域に必要とされなくなるのではないか」という未来志向の強い危機感があったという。

前中期経営計画では、長期ビジョンに向けた「構造改革ステージ」と位置づけ、事業構造・組織風土の改革に着手。

2022年4月に始動した新中期経営計画「TRANS³(トランスキューブ)2025」は、「成長軌道ステージ」と位置づけ、成長戦略の柱となる3つのトランスフォーメーションを変革ドライバーと据え、大胆な変革への動きを加速させた。

3つの内容とは、「AX(アライアンス)」「DX(デジタル)」「SX(サステナビリティ)」にあたる。次項から詳しく見ていく。

本中期経営計画の概要
画像提供:山梨中央銀行

静岡・山梨アライアンスの高いシナジー効果

AX(アライアンス)の基軸となるのが、「静岡・山梨アライアンス」だ。山梨中央銀行は、2020年10月に静岡銀行と包括業務提携を締結。

人事交流や相互のノウハウ共有を進め、今後、地方で増加が予想されるM&A、事業承継、証券分野など幅広い分野での連携体制を整備した。

「お互いの良い部分を取り入れて活用する、高いシナジー効果が期待できるアライアンス」と古屋さんはその効果を高く評価する。

プロジェクトファイナンスや証券化といった仕組み金融(資産の証券化などの取引上の複雑な仕組みを利用し、新たに組成された金融商品によって行われる資金調達のスキーム)など、静岡銀行が先行して取り組む分野のナレッジを共有したり、証券子会社・静銀ティーエム証券の店舗を山梨中央銀行本店内に開設してチャネル連携を推進するなど、有形・無形のメリットが双方にあるという。

また、顧客接点となる渉外活動の現場でもAXを推進する。

「旅館業、農業、ワイナリーといった山梨の地場産業を担う企業に行員を一定期間派遣し、現場の課題を肌感覚で理解する。この貴重な体験があるからこそ、企業の経営に踏み込んだ課題解決へのアプローチを提案することができる」(古屋さん)という。

地銀として企業のDXをいかに推進していくか

同行は、地域企業のDX推進も進めていくという。行員が資格を取得し、DXコンサルタントとして地域企業の課題をヒアリングしていくとともに、各社にあわせた最適なDX支援を行なっていく。

国家資格『ITパスポート』を取得した『DXプランナー』、より高度な技能を有する『DXマネージャー』などのDXのエキスパートたちが顧客のDX支援を担う。2024年度末までに600人のDX人材の育成を目指す。

行内のDXも着々と進行している。「業界に先駆け、従来『紙の伝票と印鑑』が必要だった窓口での手続きを、『ペーパーレス』に移行した」(古屋さん)。

同行と沖電気が共同開発したセミセルフ端末「Quick One」により、同行利用者は伝票等を記入することなく、取引が可能になったのだ。

この取り組みで、利用者の利便性はもとより、窓口業務の効率も格段に向上したという。

「人的リソースを他の業務に配分できるようになった。最終的には、窓口に足を運ばずとも各種サービスを利用できるような仕組みを目指している」と古屋さんは述べている。

気候変動、脱炭素、ファイナンス、D&Iなど全方位のSXでESGを推進

同行が掲げる3つの変革ドライバーのなかで、cokiが最もユニークと見るのが、持続可能な社会づくりを推進するSXの取り組みだ。

山梨の自然をしっかりと守り、次世代へ承継していくことや地域企業のSDGs推進支援まで、さまざまな取り組みを積極的に展開している。

同行は、2021年にTCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同を表明している。同年「山梨中銀サステナビリティ・リンク・ローン」の取り扱いを開始。

これは、顧客企業が定めたSDGsやESGの挑戦目標の達成状況に応じて金利を優遇するという内容。第一号案件として、旭陽電気株式会社(山梨・韮崎)にCO2排出量削減目標に連動した5億円の融資を実行した。

旭陽電気は2030年度の二酸化炭素(CO2)排出量を20年度比40%削減する目標を設定している。

同社のコーポレートサイトでは、格付投資情報センター(R&I)よりセカンドオピニオンも取得していることが明記されている。

ほかにも、法人向けコンサルティング機能を発揮し、地域企業のSX支援に注力している。

銀行がここまでやるのか、サステナビリティ経営を支援

支援の内容は多岐にわたる。特に、SDGs宣言の作成支援、企業別のSDGs情報開示資料(ハンドブック)の作成などの広報活動の支援にいたっては、消費者が一般的に思い描く、銀行の支援内容の範疇を大きく超えている。

企業が自社の取り組みを持続可能な社会づくりに寄与するものに、変革させていかなければならないことは、既に多くの方が痛感している通りである。

ただ、そのための具体的なアプローチは、丁寧に明示されているとは言い難い。多くの企業が手探りで進めているというのが現状だ。

そうしたなか、同行では、SDGsに対する情報整理の手伝いから、具体的に各社がどういった取り組みをしていくのか、アウトプットまでを一貫して支援しているという。

ゼネコンの株式会社早野組(山梨・甲府)や金型メーカーの株式会社市村製作所(山梨・上野原)では、同行が各部署との面談を通じ、SDGsに資する取り組みをまとめ、第一歩としてSDGs宣言の作成を支援している。

株式会社早野組のSDGs宣言
https://www.hayano.co.jp/news/2022/32.html

株式会社市村製作所のSDGsの取り組み
https://ichimurass.co.jp/sdgs/ichimurass-sdgs-2

半導体材料や試薬をオーダーメード受注する株式会社トリケミカル研究所(山梨・上野原)の事例は更に先に進んでいる。

同行が、独自のSDGsハンドブックを制作支援しているという。本書は、下記よりリンク先に入って読んでいただきたい。

その内容は非常にわかりやすく、同社のステークホルダーが、同社を理解するにあたって非常に役立つものとなっている。

株式会社トリケミカル研究所のSDGsハンドブック
http://www.trichemical.com/pdf/SDGshandbook2021.pdf

他にも、ワイン事業関連で山梨県が導入を推進する脱炭素に向けた国際的な取り組み「4パーミルイニシアチブ」(図1)の実践、同イニシアチブを実践する企業のHACCP申請支援など、企業の取り組みに具体的に踏み込み幅広い領域でSX支援を強力に推進している。

(図)ワインの原料となるブドウの剪定枝を炭化してブドウ畑に埋没することで、大気中の二酸化炭素濃度を低減し、地球温暖化を抑制する国際的な取り組み。https://www.pref.yamanashi.jp/oishii-mirai/contents/4pa-mirunituite2.html

これらのSX支援を組織一丸となり推進すべく、同行はD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)や女性の活躍推進にも積極的に取り組む。

2017年に厚生労働大臣認定の「えるぼし」認定、2018年には「くるみん」認定も取得。男女共に子育てしやすい雇用環境と多様な労働条件の充実を推し進めるなど、行内外での着実なSX推進に余念がない。

しかし、ここで疑問がでてくる。なぜ、ここまでの支援を行うのか。古屋さんは、「危機意識ゆえ」と語る。

「山梨は東京圏と近く、それでいて自然が豊かであり、可能性に満ちた地域。ただ、そこに甘んじてはいけない。地域の方や企業が、この地域を愛し、ともに発展していけるよう、銀行として従来の役割を大きく超えたサービスを展開していかなければならない。とくに、持続可能な社会づくりはもはやパラダイムであり、地域企業がサステナビリティに適合できるかいなかは、VUCA時代の企業戦略の一丁目一番地。企業戦略の巧拙が個々に問われる局面で、地域のハブである金融機関だからこそ果たすことができる支援がある」(古屋さん)

サステナブル社会における銀行の存在意義、未来への青写真

古屋賀章さん

このように、山梨中央銀行がAX、DX、SXを軸に挑戦を重ね、改革を推し進める先には、「TRANS³(トランスキューブ)2025」策定を機に定義したパーパス「山梨から豊かな未来をきりひらく」という同行の在りたい姿がある。

地域企業の変革に寄り添い併走するコンサルティング機能の発揮、サステナブルファイナンスへの積極的な取り組み、地域経済圏の拡大・深化とエコシステムの形成など、まさに同行が目指す「ファイナンス機能付きの商社」という新たな銀行の在り方を体現するものである。

サステナブル社会の実現には、地域企業の変革に寄り添い、同行のようにSX推進をけん引する地方銀行の存在が欠かせない。

今後、地域ごとのSX推進の事例の蓄積、顧客からのフィードバックを含めた情報公開が進めば、こうした動きは全国各地でさらなる広がりを見せるだろう。地方銀行によるSX推進の動向に、引き続き注目したい。

古屋賀章さん
趣味はテニス。東京支店長時代は取引先とのテニス懇親会も定期的に実施。「山梨はいいですよ。テニスコートも東京に比べたら、借りやすいですし(笑)」

◎企業概要
株式会社山梨中央銀行
HP:https://www.yamanashibank.co.jp/
本店所在地:甲府市丸の内一丁目20番8号
拠点数:国内92店舗(本・支店90(うち、インターネット支店1)、出張所2)
◎プロフィール
古屋賀章(ふるや・よしあき)
株式会社山梨中央銀行代表取締役専務、人財・経営管理担当。
1986年同行に入社。東京支店に配属され、国際部でキャリアをスタート。本社営業企画部にて商品開発、マーケティング推進、中期経営計画立案などに携わる。2019年執行役員東京支店長、取締役東京支店長に就任、2020年常務取締役東京支店長に就任し、21年6月より現職。

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ライター:

1985年生まれ。米国の大学で政治哲学を学び、帰国後大学院で法律を学ぶ。裁判所勤務を経て酒類担当記者に転身。酒蔵や醸造機器メーカーの現場取材、トップインタビューの機会に恵まれる。老舗企業の取り組みや地域貢献、製造業における女性活躍の現状について知り、気候危機、ジェンダー、地方の活力創出といった分野への関心を深める。企業の「想い」と人の「語り」の発信が、よりよい社会の推進力になると信じて、執筆を続けている。

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