メンズシャンプーシェア12年連続No.1の「スカルプD」シャンプーで知られるアンファー株式会社が、犬用シャンプー「HUG ONE」を発売した。コンセプトは「愛犬と飼い主の距離をもっと近づける」。
動物福祉思想、アニマルウェルフェアにも繋がるこの新商品の開発には、大切な家族である犬たちを愛する同社社員たちの情熱と社会貢献への想いが込められている。
医学的知見に基づくスキンケア技術とペットケアの専門家の知見を融合させて試行錯誤を繰り返したペットファーストの新商品開発、その中で得たサステナブル意識の目覚め、そして事業活動そのものでSDGs推進と社会貢献を成し遂げるビジネスモデル構築へのプロセスを開発プロジェクトメンバーから伺った。
医学的知見で培ってきたスキンケア技術をペットと人の接点に応用
頭皮を洗うシャンプー「スカルプD」をはじめ、各分野の医師・専門家と共に最先端の医療技術に注目し、予防医学の観点から化粧品や健康食品などのヘルスケア商品の研究開発・製造・販売事業を展開するアンファー株式会社。
同社は2019年のグループ経営体制への移行後、大企業が短期的に収益を上げるのが難しく参入しにくい、普遍性が低く難易度が高い社会課題を独自の「医療×プロダクト・サービス」により解決していく取り組みを強化している。
常に時代のニーズに寄り添い、最先端の医学的知見に基づき新領域を開拓し続けてきた同社の次なる展開の1つがペットケア分野である。
その新ブランドが「愛犬とのココロ・カラダを、もっと近くに」をコンセプトとする『HUG ONE』だ。
「『HUG ONE』はペットケア商品のシリーズ。(https://www.angfa-store.jp/product/SDHOS00XS)弊社がこれまで培ってきたスキンケアの技術をペットたちにも広げ、愛犬家の皆さまとペットたちがもっと触れ合えるようにしたい」と同社代表取締役叶屋宏一氏は話す。
PET-SPAとの出会いからペットケア事業に
医学的な知見からこれまで様々な人用のヘルスケア商品を世に送り出してきた同社が、なぜペットケア業界へ乗り出すことになったのだろうか。
「以前より社内外からペット用シャンプーを販売してほしいという声はありました。しかし、弊社にはペットケア分野の知見もなければ販売方法も分からない。専門外の新商品開発には準備期間が必要だった」(叶屋さん)
しかし、その後、ある出会いから状況が一変する。ペットケアやカウンセリングサービスを行う「PET-SPA」を首都圏を中心に約30店舗展開する株式会社西武ペットケアの田中健司代表取締役社長との出会いだ。
叶屋氏は語る。
「弊社のグループ会社である株式会社ブレインスリープは、最高の睡眠を提供する“睡眠事業”を行っています。2020年末、ブレインスリープ社の看板商品である、睡眠の質を上げる枕『ブレインスリープピロー』をプリンスホテルに導入する宿泊プランを企画した際、同じ西武グループの株式会社西武ペットケア田中社長と知り合った。彼と協力すればペットケア事業に進出できるのではと思い立ったのです」
新製品開発プロジェクトに集った愛犬家たち
叶屋氏は新しく始めるペットケア事業への参加者を社内から募った。すると自分たちも愛犬家というメンバーたちが名乗りを上げた。
川端さんは2018年入社。スカルプDネクストやスカルプDオーガニックなどの商品を担当しているが、自身のペットへの熱い想いに突き動かされ、立候補。プロジェクトではプロモーション、プロダクトデザイン、そして商品開発を担っている。
「私はミニチュアシュナウザー1匹とミニチュアシュナウザーとマルチーズのミックス犬1匹を飼っています。名前はコカとボノ。自分の愛する家族が喜ぶ製品を生み出せたらと思い、プロジェクトに参加しました」。
そして2014年入社の田仲さん。女性向けブランド・スカルプDボーテやナチュラスターといった商品を担当していた彼も、犬を愛する1人だ。
「私は今回、デジタル部門の担当としてウェブ販売やページのディレクションを行っています。私も「ふらん」「ティマ」「むぅーあ」という名のトイプードルを3匹飼っています。犬のため、そして自分で新事業の立ち上げに関わってみたいと考えて手を挙げました」
田口さんは2016年に化粧品メーカーから転職し、その後、商品開発を主に担ってきた。
「私自身はペットを飼ったことはないのですが、ペットを愛する人々に共感し、彼らの役に立つことがしたいと思い、プロジェクトに参加しました」。
彼らの他にも大好きな犬たちの喜ぶ姿が見たいという想いからメンバーが続々と集まり、スカルプDの技術を活用した犬用シャンプーの開発プロジェクトが始動した。
試行錯誤の連続だった犬用シャンプー開発
ところが、開発は簡単には進まなかった。
「スカルプDの技術を用いれば、汚れをすっきり落とすことができます。しかし犬の肌は人間と違い中性(人間は弱酸性)で、皮膚の厚さも人間と比べて3分の1程度と敏感です。
人用のシャンプーの成分をそのまま応用することはできませんでした」(田口さん)
さらに犬は全身のアポクリン腺から分泌される汗の酸化によって人間より菌が繁殖しやすく、清潔にしておかないとすぐに臭いが発生してしまう。肌の汚れを落として清潔に保ちながら、肌の潤いも守る。この二律背反する命題を解決しなければならなかった。
実際に試作品をトリマーに使ってもらって気がついたこともあった。
「人はシャンプーを直接手に取って使いますが、犬の場合は一度水に溶き、泡立ててからその泡で洗う。使い方の違いにも対処しなければなりませんでした」(川端さん)
試作品で得た問題点を改善し、再度使ってもらうトライ&エラーを繰り返し、徐々に理想とする製品の形が見えてきた。
最後までプロジェクトメンバーの頭を特に悩ませたのがシャンプーの「匂い」。それまで自分たちが提供してきた人用のシャンプーとは考え方が根本から違っていた。
「トリマーから、弊社商品で使用していた香りではダメ、犬が嫌がるとの厳しいご意見。それで犬に詳しい大学教授から、犬がリラックスする香りを教えていただき、配合していきました。試作品を何十も作り、トリマーや獣医から犬たちの反応など現場の意見を伺いました。犬のプロである彼らになんとしても認めてもらえる商品を作りたかったのです」(田口さん)
当初予定していた発売日は2021年11月。すでに間に合わせることはできなくなっていた。
「OKが出るまでとことんやろう。このままでは製品をリリースする意味がない」。
叶屋社長のこの言葉にチーム一同一致団結して、メンバーとも協議を繰り返し、納得のいくまで試作を繰り返した。
かくして遂に、気になる匂いを中和し、心地よい香りを残すことができる特許技術を応用した機能性香料配合の開発に成功した。
犬と人の距離を縮める、愛のあるブランドを作りたい
ブランド戦略を担う川端さんには、製品に懸けるある想いがあった。
「ブランドのコンセプトは『老犬や体の弱い犬も安心して使える製品』。犬がお風呂に入った時にストレスにならないものにしたかった」。
ブランド名として決定した「HUG ONE」にも川端さんの想いが込められている。
「犬を綺麗に洗ってあげることで嫌な臭いが取れ、犬のストレスも飼い主のストレスもなくなり、今まで以上に気持ちよく愛犬を抱きしめられる。大好きな愛犬をもっとHUGする!から『HUG ONE』と命名しました」。
「HUG ONE」のブランドロゴは人間と犬とが寄り添ったシルエットだ。シルエットの犬種をあえて特定しにくいようにしたのも「多くの人が自分と愛犬の姿を重ね合わせられるようにしたかったから」と川端さんは話す。
試行錯誤を繰り返し、やっと満足できる製品が完成したのが同年12月。そして2022年1月、遂にアンファー株式会社による初の犬用シャンプー、そしてシャンプー後に使用するクイックドライトリートメントミストが発表された。(川端さん)
◎cokiの視点
「HUG ONE」は、動物たちに「ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な生活を」というアニマルウェアフェアの観点でも意義がある。
またSDGs目標「15.陸の豊かさを守ろう」における生物多様性の保護にも繋がる取り組み事例でもある。
1人ひとりがSDGsについて考え、事業活動に繋げることが大事
◎cokiの視点
同社の犬用シャンプー『HUG ONE』開発プロジェクトは、社員1人ひとりの大切な家族・ペットへの純粋な想い、ペットと人の共生を育む科学的知見に基づく技術開発、保護犬をめぐる深刻な社会問題解決に向けた新製品開発の取り組み、事業利益が社会に還元されるビジネスモデルなど、サステナブル社会実現に向けて多くの視点で参考になる。
また、SDGs目標「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」におけるイノベーションの促進の視点では、社会問題解決の糸口となる異分野連携による技術革新の可能性にも期待したい。
◎企業概要
アンファー株式会社
https://www.angfa.jp/
〒100-7026東京都千代田区丸の内2-7-2 JPタワー26F(東京オフィス)
代表取締役 叶屋 宏一