
キャッシュレス決済が普及し、現金を見かける機会が減りつつある現代。しかし、その裏側で、想像を絶するほどの大量の貨幣が廃棄されているのをご存じだろうか。今回は、韓国で実際に起こっている驚くべき貨幣廃棄の実態とその背景に迫る。
キャッシュレス化が進む韓国で、貨幣が大量に廃棄されている?
スマートフォン決済やクレジットカードの普及が目覚ましい韓国。街中では、現金を使わずに買い物を済ませる人々を多く見かける。そんな「キャッシュレス大国」として知られる韓国で、実は毎年、途方もない量の紙幣や硬貨が廃棄されているという事実をご存じだろうか。
韓国銀行が発表した驚くべきデータによると、過去4年6カ月の間に廃棄された貨幣の総額は、なんと約13兆5636億ウォン(日本円で約1兆4207億円)にものぼるとのこと。この金額は、日本の年間国家予算の約1.5%に相当する規模だ。現金離れが進む中で、なぜこれほどまでに多くの貨幣が廃棄されているのか。その背景には、私たちの身近な生活習慣や、貨幣の意外な使われ方が関係していることがわかってきた。
エベレスト77個分!?驚異的な貨幣廃棄の規模
廃棄された貨幣の総額もさることながら、その量もまた衝撃的だ。WoW!Koreaの報道によると、2021年から2024年6月までに廃棄された貨幣の総枚数は、約19億6400万枚。これは、国民一人あたりに換算すると、およそ38枚の貨幣が廃棄された計算になる。
さらに、これらの貨幣をすべて横に並べると、その長さは24万4737キロメートルに達するという。これはソウルから釜山までを結ぶ京釜高速道路をなんと295回も往復できる距離に相当する。また、積み重ねると高さは約67万9292メートルにもなり、世界最高峰であるエベレスト(8849メートル)の77倍、ソウルにあるロッテワールドタワー(555メートル)の1244倍という、想像を絶する高さになる。
このように、天文学的な数字で表される貨幣の廃棄は、経済的な損失だけでなく、環境的な側面からも大きな問題として捉えられている。
なぜ貨幣は「ゴミ」になってしまうのか?その原因と種類
では、なぜこれほどまでに大量の貨幣が廃棄されているのだろうか。韓国銀行の調査によると、その原因は多岐にわたる。最も多いのは、日常的な流通の中で汚れたり、破れたりして使用できなくなった紙幣や硬貨だ。しかし、中には私たちの想像を超えるようなユニークな事例も含まれている。
1. 紙幣の損傷事例
- 燃焼による損傷:火災で焼けてしまったり、故意に燃やされたりして使用不能になった紙幣。
- 湿気による損傷:甕(かめ)の中などに長期間保管された結果、湿気でふやけてボロボロになったもの。
2. 硬貨の損傷・廃棄事例
- 池に投げ込まれた硬貨:観光地や寺院などの池に投げ込まれたものが、回収されて廃棄されるケース。
- 廃車からの回収:廃車となった自動車の中から、シートの下や隙間から見つかった硬貨。
これらの事例は、貨幣が単なる決済手段としてだけでなく、貯金箱代わりや、時には信仰の対象として扱われることで、思わぬ形で損傷・廃棄されてしまう現状を物語っている。特に、池に投げ込まれた硬貨のように、人々の行為が直接的な廃棄につながっているケースは、貨幣の取り扱いに対する意識の低さが浮き彫りとなっている。
貨幣廃棄にかかる費用と、新たな収入源
このように大量に廃棄される貨幣だが、その処理には大きなコストがかかっている。韓国銀行は、廃棄された紙幣を焼却する専門業者に費用を支払って処理している。過去5年間で、この焼却費用に約4億2000万ウォン(約4402万円)が投入された。
一方、廃棄される貨幣の中には、意外な経済的価値を生み出すものもある。それは、硬貨だ。硬貨は非鉄金属を生産する専門業者に売却され、新たな資源として再利用される。この売却代金は、韓国銀行の収益となり、過去5年間で約199億1000万ウォン(約20億8700万円)という莫大な金額を稼ぎ出している。
これは、貨幣の種類によってその処理方法と経済的価値が大きく異なることを示している。紙幣は燃やされて費用を発生させる一方、硬貨は金属資源として再利用され、収益をもたらすという、興味深い二極化が見て取れる。
深刻な浪費と今後の課題:国民への広報活動が鍵に
現金決済が減少しているにもかかわらず、毎年これほど多くの貨幣が廃棄されている現状について、韓国の国会企画財政委員会所属のパク・ソンフン議員は、「深刻な浪費」と指摘している。また、損傷した貨幣を交換する際や、廃棄する際に発生する無駄な費用を削減するため、韓国銀行が国民に対して広報活動を強化する必要があると訴えている。
この指摘は、単に経済的な損失を問題視するだけでなく、現金そのものの価値や、その循環に対する国民の意識を高めることの重要性を示唆している。貨幣を大切に扱うこと、そして、損傷した場合には速やかに交換することで、不必要な廃棄を減らすことができる。これは、私たちが日頃からできる、身近な社会貢献と言えるだろう。
おわりに:現金と賢く付き合うために
キャッシュレス化がさらに進むであろう未来においても、現金が完全に消えることはない。災害時や、システム障害が発生した際には、現金が最後の砦となる可能性もあるからだ。今回の韓国の事例は、現金とどう向き合っていくべきか、改めて考えるきっかけを与えてくれる。
貨幣の廃棄は、単なる経済的な問題ではない。それは、私たちの文化や習慣、そして貨幣に対する意識そのものを映し出す鏡だ。今後、韓国銀行の広報活動が功を奏し、不必要な貨幣の廃棄が減少していくのか、その動向が注目される。そして、私たち自身も、身近な貨幣を大切に扱うことで、この「深刻な浪費」に終止符を打つことができるのかもしれない。