
認可外保育施設に対する全国の自治体による行政指導が、年間600件を超えていることが毎日新聞の調査で明らかになった。背景には、深刻な保育士不足がある。特に保育士の有資格者が確保できないことが、保育の安全性や質の確保に直結する課題として浮上している。
認可外と認可の違いとは
日本の保育施設は、大きく「認可保育施設」と「認可外保育施設」に分かれる。認可保育施設は、児童福祉法に基づく設置基準を満たし、各自治体の認可を受けた施設である。自治体からの運営費補助が受けられる一方、保育士の人数や保育室の広さ、衛生・安全基準などが厳しく定められている。
一方、認可外保育施設は、一定の届け出をすれば設置可能であり、比較的自由な運営が可能とされる。対象にはベビーホテル、企業主導型保育施設、無認可の託児所などが含まれる。国の定めた「指導監督基準」により、保育者の配置や資格者の割合など最低限の要件は存在するが、違反した場合の罰則はなく、実効性に課題がある。
認可外施設が直面する人材確保の壁
毎日新聞が全国の自治体129カ所を対象に実施した調査によれば、2021年度から2023年度の3年間で、保育者の人員配置に関する行政指導は合計1000件以上にのぼった。保育士などの有資格者が不足していたとの指導も900件超に達した。
特に、配置すべき保育士を確保できず、「1人保育」が常態化していた施設では、乳児が急死するという重大事故も発生している。2023年、和歌山県田辺市の認可外施設で生後5カ月の女児が亡くなった事故では、施設代表が1人で複数の乳幼児を保育しており、国の配置基準に違反していた。
保育士不足の主な要因として、各施設が訴えるのは「人が集まらない」ことに尽きる。求人を出しても応募がなく、やむを得ず資格を持たない人材での対応に頼らざるを得ない実情がある。さらに、認可施設に比べて自治体からの財政的支援が少ない認可外施設では、人件費を抑えなければ施設の維持が困難となる。こうした経済的制約が、十分な人員確保を阻んでいる。
認可外保育施設を支援する制度とは
認可外保育施設に対する公的支援は限定的ではあるが、以下のような制度が存在する。
- 自治体独自の助成
都道府県に届出をし、「指導監督基準」を満たす施設には、一部自治体で人件費・防災設備・感染症対策等の補助金が交付されることがある。 - 企業主導型保育事業(内閣府)
法人格を有する団体が設置する場合、整備費・運営費に対し国からの手厚い補助があり、認可外であっても準認可水準の支援が受けられる。 - 幼児教育・保育の無償化
保護者への補助金制度として、3~5歳児には月額3万7千円、0~2歳児(住民税非課税世帯)には月額4万2千円が上限で支給される。ただし、施設が指導監督基準に適合していることが条件となる。 - 潜在保育士支援制度との連携
厚生労働省による「保育士就職準備金貸付制度」や「再就職支援研修」などを活用することで、無認可施設でも人材確保の糸口となりうる。
これらの制度を活用するには、施設側が法制度への理解を深め、適切な手続きや届け出を行っていることが前提となる。
制度の限界と今後の課題
認可外保育施設は、都市部を中心に保育の受け皿として一定の役割を果たしているが、支援制度の格差や情報不足により、十分に制度を活用できていない現状がある。また、制度の内容は自治体により大きく異なり、地域間格差も課題とされる。
保育学を専門とする鶴見大学短期大学部の天野珠路教授は、「安全と事故防止はすべての施設で等しく保障されるべき」と指摘した上で、「潜在保育士の掘り起こしや、国が認可外施設への人的・財政的支援を講じることが必要だ」と提言する。
国が認可外保育施設を地域保育の重要なインフラとして捉え、基準を守りながら持続可能な運営が可能となるような支援のあり方が、今後ますます問われる。