
東京メトロが新たな一手を打ち出した。2025年度から2027年度にかけて、30億円の投資枠を設け、スタートアップ企業との共創を加速させる「Tokyo Metro Ventures」を始動する。この取り組みは、鉄道事業の強化だけでなく、沿線価値の向上や社会課題の解決にも寄与することが期待されている。東京の未来を見据えたこのプロジェクトの詳細を見ていく。
東京メトロが「Tokyo Metro Ventures」を始動
東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は、スタートアップ企業との協業や出資を行うコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)活動として「Tokyo Metro Ventures」を開始する。東京メトロは2016年度から「Tokyo Metro ACCELERATOR」というオープンイノベーションプログラムを実施してきた実績があり、今回のCVC設立はその延長線上にある。
2025年度から2027年度の3年間で、30億円の投資枠を設け、スタートアップ企業やベンチャーキャピタルファンドへの出資を進める。目標は、革新的なサービスの創出と社会実装の推進だ。
「Tokyo Metro Ventures」設立の背景
東京メトロは、これまでの「Tokyo Metro ACCELERATOR」で、駅構内や車両内を新規サービスの検証の場として活用してきた。さらに、広告枠の活用により、スタートアップ企業のサービス認知拡大や売上向上を支援してきた実績がある。
こうした取り組みを一歩進め、出資という手段を加えることで、スタートアップ企業との協業をさらに強化し、新たな価値を生み出す狙いがある。鉄道事業で培った事業アセットとスタートアップ企業の先進技術や独自アイデアを組み合わせ、沿線価値の向上や人の流れの創出、鉄道課題の解決に貢献する方針だ。
Tokyo Metro Venturesの具体的な取り組み
「Tokyo Metro Ventures」は、以下の4つの取り組みを軸に進められる。
【Go To Market】事業検証の場としての活用
駅構内や車両内など、東京メトロが持つ施設を新規サービスの検証の場として提供する。これにより、スタートアップ企業は実際のユーザー環境でサービスの効果を確認できる。事業検証の実施には各種確認が必要となるが、東京メトロの社員がノウハウ提供を行い、検証の成功をサポートする。
【Value Up】認知拡大と売上向上の支援
東京メトロが持つ車両や駅構内の広告枠を活用し、協業内容の認知拡大を図る。広告枠の規模や展開時期は販売状況に応じるが、スタートアップ企業のサービス認知度向上に効果が期待される。
【Touch Point】豊富な顧客接点の活用
東京メトロの1日あたりの乗降客数は652万人(2023年度平均)。さらに、メトロポイントクラブ(メトポ)会員は90万人(2024年11月時点)と、豊富な顧客接点を有している。これらのネットワークを活用し、スタートアップ企業が開発するサービスの提供機会を広げる。
【Finance】出資の実行
東京メトロと協業し、共に成長を目指すスタートアップ企業に対し、事前審査のうえ出資を行う。これにより、スタートアップ企業の成長を後押しし、事業の発展に貢献する狙いがある。
東京メトロが目指す「未来の東京」

東京メトロは、「東京を走らせる力」というグループ理念のもと、東京の発展に貢献する事業を展開してきた。今後は「Tokyo Metro Ventures」を通じ、以下の3つの領域において新たな価値を提供することを目指している。
・沿線価値の向上:駅構内や沿線地域の魅力を高めるサービスの創出
・人の流れの創出:東京を訪れる人々に向けた新たな観光・移動サービスの提供
・鉄道課題の解決:DX(デジタル変革)やGX(グリーントランスフォーメーション)に対応した革新的なサービスの導入
今後の展望
東京メトロは、これまでに複数のスタートアップ企業に出資し、具体的な成果を上げてきた。たとえば、公共施設予約管理システム「Spacepad」の提供、家庭料理のテイクアウトステーションの設置、ゲーム性を取り入れた教育事業との連携などがその一例だ。
今後は、東京メトロ沿線の利便性をさらに向上させる新サービスの創出や、訪日外国人向けの新たな商品開発にも注力する。また、鉄道事業におけるDXやGXの推進を見据え、国内外のスタートアップ企業と連携を深めていく考えだ。
まとめ
「Tokyo Metro Ventures」は、東京メトロが持つ豊富な事業アセットとスタートアップ企業の技術やアイデアを掛け合わせることで、新たな価値の創出と社会課題の解決に取り組む注目のプロジェクトだ。2025年度から2027年度までの3年間で30億円を投資し、より多くの企業との連携を目指している。
鉄道事業にとどまらず、東京の未来に向けたイノベーション創出に挑む東京メトロの今後の動向に注目したい。