
FNNによると、日本政府はイラン情勢の悪化を受けた原油高騰に対応するため、国の備蓄石油を国内消費約1カ月分にあたる量で放出した。経済産業省も3月24日、約850万キロリットルを3月26日以降に順次放出すると公表しており、放出先はENEOS、出光興産、コスモ石油、太陽石油としている。
迫る生活不安
依然として流動的な中東情勢を受けて、日本でも暮らしの不安が表面化し始めている。
ロイターは、ホルムズ海峡をめぐる混乱が長引けば、世界の原油供給に1日1300万〜1400万バレル規模の影響が出る可能性があると伝えた。
資源エネルギー庁の資料では、日本の原油輸入に占める中東依存度は2023年度で94.7%に達している。
遠い海の緊張が、そのまま日本のガソリン代や物価不安に直結する構造が、改めてむき出しになっている。
備蓄放出は効いているが「安心宣言」にはまだ早い
足元では、備蓄放出と補助策が一定の効果を示し始めている。
資源エネルギー庁の石油製品価格調査では、3月23日時点のレギュラーガソリン全国平均は177.7円で、前週の190.8円から13.1円下がった。FNNも、政府補助の効果で全国平均が177円70銭まで下がったと伝えている。
少なくとも、店頭価格がこのまま一気に200円台へ定着する流れはいったん押し戻されたと言っていい。
ただ、ここで気を緩められないのは、今回の値下がりが需給の正常化というより、政府の介入で何とか抑え込んでいるに過ぎないからだ。
経産省の放出量は約850万キロリットル、放出予定総額は約5400億円にのぼる。危機対応としては大きいが、危機が長引けば、価格を抑えるための公的負担もまた重くなる。
ガソリンだけでなく生活コスト全体を押し上げる
実感として最も早いのは、やはり給油時の痛みだろう。
だが本当に厄介なのは、ガソリン高が単独では終わらない点にある。
配送会社の燃料費が上がれば、食品、日用品、宅配、引っ越し、建材までじわじわ値上げ圧力が広がる。原油高は「車に乗る人だけの話」ではなく、運ぶコストを通じて、国民の生活費に広く染み込んでいく。
経済産業省もエネルギー価格支援を続けているが、支援はあくまで急激な変動を和らげるもので、物流コストの基調そのものを消すわけではない。
物流の次に警戒したいのは医療資材
見落とされがちだが、医療分野への波及も軽く見られない。
全日本病院協会は3月18日付の提言で、中東情勢の緊迫化による原油価格の急上昇が起きた場合、医療材料価格、物流費、光熱費の上昇で診療報酬改定の効果が相当程度打ち消される可能性があると指摘した。
病院は一般企業のように価格転嫁しにくく、コスト増がそのまま経営圧迫になる。
さらに厚生労働省の薬価専門部会資料や日本製薬団体連合会の意見陳述資料でも、過去の原油高と円安が、添加剤や有機溶剤、PTPシート、アンプルなど包装材料の調達コストを押し上げ、医薬品製造コストに大きな影響を与えると示されている。
医療資材は「足りなくなるかどうか」だけでなく、「高くなることで現場が疲弊するかどうか」が次の焦点になる。
石油だけでなく、プラスチック高も日本を直撃しかねない
ロイターは3月26日、イランを含む中東情勢の悪化でホルムズ海峡経由の石油化学製品の流れが細り、ポリエチレンやポリプロピレンなどプラスチック価格が4年ぶり高水準に上昇していると報じた。
これは包装材、容器、医療用ディスポ製品、工業部材に広く関わる。
原油高は燃料費の話にとどまらず、モノの材料費まで押し上げる局面に入りつつある。
どうなる暮らしへの連鎖
中東の軍事・外交の細部は、この先もめまぐるしく動く。
日本で暮らす我々にも、ガソリン価格が再び跳ねるのか、物流費がどこまで価格転嫁されるのか、そして医療や生活必需品のコストがどこで耐えきれなくなるのかという不安が目の前に迫る。
備蓄放出は確かに効き目を見せたが、それは噴き出しかけた危機を一度押し戻したにすぎない。いま我々は、日本の生活インフラがどれだけ中東の海峡に依存しているかを、家計レベルで突きつけられている。



