
北海道旭川市で2025年に開かれた講演会「誰のせいでもない『旭川14歳少女いじめ凍死事件』」が、激しい批判にさらされている。事件では、当時中学2年生の広瀬爽彩(さあや)さん(当時14歳)が凍死体で発見され、旭川市の再調査委員会は2024年、「いじめが自殺の主原因」と公式に認定した。それにもかかわらず、責任を否定するかのような表現が用いられたことに、「事実を踏みにじる」「被害者にあまりに残酷だ」との声が広がっている。
真冬の公園で命を落とした爽彩さん いじめの存在と、追い詰められていった日常
2021年3月、北海道旭川市内の公園で、当時中学2年生だった広瀬爽彩さん(当時14歳)が凍死した状態で発見された。
発見場所は市街地に近い公園だったが、冬の旭川は夜間になると氷点下10度を下回ることも珍しくない。14歳の少女が、その環境下で屋外に身を置いた末に命を落としたという事実は、それ自体が異常な状況だった。
爽彩さんはその前から行方不明となっており、家族は警察や周囲の協力を得ながら必死の捜索を続けていた。結果として伝えられたのは、「公園で凍死体が見つかった」という、あまりにも過酷で、受け止め難い現実だった。
その後の第三者委員会および旭川市いじめ問題再調査委員会の調査により、爽彩さんが死亡に至るまで、学校内外で継続的ないじめを受けていたことが明らかにされた。
いじめの内容は、旭川市立北星中学校の生徒達であるいじめグループ数人から人格を否定する言動、恐怖や性的な屈辱を与える行為が重なり、精神的に追い詰める性質を持っていたと認定されている。
爽彩さんは、周囲に苦しさを訴え、助けを求めていた。しかし、その訴えは十分に受け止められず、学校の対応は断片的かつ後手に回った。再調査報告書では、いじめの深刻さを早期に把握し、命の危険が及ぶ段階として認識する視点が欠けていたことが指摘されている。
学校という本来、子どもを守るべき空間で孤立を深め、逃げ場を失っていった日常。その延長線上に、爽彩さんが厳冬の屋外に身を置き、命を落とすという結末があった。
再調査委は、この一連の経過を踏まえ、
爽彩さんが受けていたいじめが自殺の主原因であったと結論づけている。
14歳という年齢で、なぜここまで追い詰められなければならなかったのか。
真冬の公園で命を落としたという事実は、爽彩さんの苦悩が、もはや日常の延長ではなく、生存そのものを脅かす段階に達していたことを、重く突きつけている。
再調査委が示した公式認定 「いじめが自殺の主原因」という重い結論
旭川市は、事件を重大事態として再調査委員会を設置し、2024年に再調査報告書を公表した。
報告書は、広瀬爽彩さんが受けていたいじめについて、断片的・偶発的な出来事ではなく、精神的苦痛を継続的に与える行為の積み重ねであったと評価。そのうえで、いじめが自殺の主原因であったと明確に認定した。
また、学校および市教育委員会の対応についても、危機の兆候を十分に把握できていなかった点や、いじめ防止対策推進法の理念に照らして不十分だった点を指摘した。
報告書は、結果論ではなく、「防げた可能性があった事案」であることを示唆する内容となっている。
この認定は、事件の評価を「不幸な事故」や「個人の問題」に押し戻すことを許さない。
爽彩さんの死は、具体的な行為と判断の積み重ねの末に生じたものであり、社会として責任を直視すべき出来事だと、公的に位置づけられた。
「誰のせいでもない」講演会が示した認識の断絶
そうした公式認定が公表された後の2025年、旭川市内で開催されたのが、講演会「誰のせいでもない『旭川14歳少女いじめ凍死事件』」だった。
このタイトルは、再調査報告書の結論と正面から衝突する。
Xでは、「いじめが主原因と認定されているのに、なぜ誰のせいでもないのか」「責任を曖昧にする言葉が、被害者を再び傷つける」といった批判が相次いだ。
問題視されたのは、講演内容そのもの以上に、事件の評価を社会的に後退させかねない言葉の選び方だった。
言葉は中立を装いながら、現実の力関係を上書きすることがある。
「誰のせいでもない」という表現は、結果として、いじめ行為、対応の遅れ、制度の欠陥といった具体的問題から視線を逸らさせる危険性をはらんでいる。
市議の協賛が突きつけた政治の責任
講演会には、旭川市議会議員の上野和幸氏らが協賛・後援として名を連ねていた。
市政を担う立場の議員が、市の再調査報告書と明確な緊張関係にある講演会を支援したことは、単なる個人判断では済まされない問題を含んでいる。
市が公費と時間をかけて導いた公式認定と、政治家個人の行動が矛盾する場合、市民はどちらを信じればよいのか。
この点で、今回の協賛は「表現の自由」の問題ではなく、行政と政治の整合性という根本的な問いを突きつけた。
遺族や支援者からは、「市の責任を問う立場にあるはずの議員が、事実認定を相対化する側に立っている」との批判も出ている。
遺族はいまも市を提訴 再捜査を求める声がやまない、終わっていない事件
広瀬爽彩さんの遺族は現在も、旭川市を相手取り、損害賠償を求める訴訟を続けている。
訴えでは、市や教育委員会がいじめの兆候を把握しながら十分な対応を取らなかった点や、命の危険が及ぶ段階として適切に認識できていなかった点などが争点となっている。
旭川市が2024年に公表した再調査報告書は、「いじめが自殺の主原因であった」と認定した一方で、刑事責任の有無や、関係者個々の法的責任までを断定するものではなかった。
このため、「事実認定と責任追及の間に空白が残っている」と受け止める声が根強い。
XをはじめとするSNSでは、講演会をきっかけに「再捜査を行うべきだ」「なぜ刑事責任が問われないのか」「真相はまだ明らかになっていない」といった投稿が相次いでいる。
これらの声は、単なる感情的反発ではなく、再調査報告書を読んだうえでなお残る疑問を反映したものだ。
遺族が司法の場での検証を求め続けていること、そして社会が再捜査を求める声を上げ続けていることは、この事件が「整理された過去」ではなく、検証の途上にある現実を示している。
14歳の少女が真冬の公園で命を落とした理由は、まだ十分に語り尽くされていない。
責任の所在が明確にされ、同様の悲劇を防ぐ具体的な教訓が示されるまで、旭川14歳少女いじめ凍死事件は終わらない。



