
プロゴルファーの時松源蔵(32)、三ヶ島かな(29)、北田瑠衣(43)らを輩出し、2018年には野球部が甲子園出場を果たすなど、スポーツ名門として全国にその名を知られる沖学園高等学校(福岡市)。
その校内で、信じ難い事件が発覚した。生徒たちが生活を共にする男子寮で、寮長を務めていた30代男性X氏が、複数の生徒に対し暴行を繰り返していた疑いで、福岡県警は9月12日までにX氏を書類送検した。第二の家であるはずの寮が、恐怖と暴力に支配されていた衝撃の実態が、FRIDAYの取材で浮かび上がった。
「今日中に殺す」LINEが暴行の引き金に
事件の引き金は6月16日。野球部のA君とB君がエアコンを切り忘れたことを理由に、X氏は寮生たちのグループLINEに〈お前ら今日中に殺すからな〉と書き込んだ。生徒にとって、逃げ場のない寮生活の中でのこの言葉は、死刑宣告に等しい。恐怖に震えながら練習を終えた2人は、帰寮後にすぐ謝罪に向かった。
だが、謝罪は受け入れられず、待っていたのは頭を掴まれ互いにぶつけられた後、殴打と蹴りの暴行だった。A君は暴行直後、保護者にテレビ電話で傷口を見せており、その額には深い裂傷が残っていた。
B君もまた「首を絞められたようで、翌日は声が出なかった」と証言。医師の診断書には「頭部打撲傷、胴部打撲挫傷、擦過傷、顔面打撲傷」と記され、激しい暴行の痕跡を裏付けている。
酒に酔った豹変――C君にも襲いかかる暴力
恐怖の対象は野球部員だけではなかった。ゴルフ部のC君も犠牲となっている。6月3日、練習後に寮へ戻ると、酒に酔ったX氏に呼び止められ、「なぜ怒られているか分かるか」と詰問された。正直に「分かりません」と答えた瞬間、氷入りのタンブラーが顔面に投げつけられた。衝撃で右目の横に深い傷を負い、縫合治療が必要となった。数ミリずれていれば失明していた可能性もある。
にもかかわらず、C君は「机にぶつけた」と嘘をつき続けた。恐怖で口を閉ざさざるを得なかったのだ。C君の保護者は「『クズ』『殺してやる』などの暴言を浴びせられていた」と振り返り、寮が完全に恐怖で支配されていた状況を証言する。
暴力支配の兆候と学校の認識
X氏が寮長に就任したのは2024年7月。当初は温厚に見えたが、わずか半年後には豹変した。保護者によれば、食堂で突然イスを投げつけるなど、突発的な暴力行為が見られるようになったという。
一方で学校側は「生徒から悪い話は聞かなかった。誕生会をしてもらったという声もあり、慕われていると認識していた」とFRIDAYの取材に回答している。
さらに、その後の学校の聞き取りに対し、X氏本人も暴力行為を認め、「言って分からなかったので、指導の一環としてやった」と釈明していたことが明らかになった。沖学園高校は6月下旬にX氏を解雇し、生徒や保護者に謝罪。「再発防止に取り組む」とのコメントを出している。
名門校を揺るがす暴力事件
B君は暴行を受けた夜、「本当に殺されるかもしれない」と恐怖で一睡もできなかったと保護者に明かした。A君、B君、C君はいずれも被害届を提出し、X氏は即座に解雇されたが、わずか1年の在任で生徒に与えた傷は深い。
沖学園はこれまで、全国レベルの実績を誇り、地域の期待を背負ってきた。だが、名門の誇りの裏側で、生徒たちは日常的に命の危険を感じる暮らしを強いられていた。司法の判断が待たれる中、学校の管理体制や再発防止策も厳しく問われている。勝利至上主義の名の下に、子どもたちの安全や人権が軽視される構造的問題は、沖学園に限らず全国のスポーツ寮に潜んでいる。今回の事件は、その危うさを浮き彫りにした。
「第二の家」をどう取り戻すのか
寮とは、本来なら家族から離れた生徒を守り、仲間と成長する場であるはずだ。しかし、X氏の暴力によって、沖学園の寮は“監獄”に変貌していた。保護者の一人は「子どもたちは笑顔を失い、常に緊張していた。安心できるはずの場所で、心を壊されていった」と声を震わせる。
生徒の心身を守る体制をどう再構築するのか。今回の事件は、名門の看板に隠された課題を突きつけた。学校が「第二の家」を取り戻せるのか、そして司法はX氏にどのような判断を下すのか、社会全体が注視している。