
北陸の日本海側に位置する石川県は、旧繊維産地の技術転化で生まれた高機能素材メーカーと半導体関連企業、さらに北陸独特の食品・医薬卸やドラッグストアまでが混在する多層的な産業地帯だ。本稿は決算短信・有価証券報告書など一次資料のみを突合し、連結売上高(金融は経常収益)を基準に“県内に本社(登記本店)を置く企業”20社で作成した最新ランキングだ。
20 位 コマニー〈小松市〉 売上 336億2,300万円〈2024/12 連結〉
名門ポイント:可動間仕切りパーティションの専門メーカーである。オフィスや公共施設、病院など、多様な空間に柔軟性と機能性をもたらす製品を手がけ、国内市場で高いシェアを誇る。製品の多様化によって新たな市場を開拓している。近年は、医療・福祉施設向けの需要増加に対応するため、木製ドアのラインナップを強化した。病院や高齢者施設では、温かみのある空間づくりが求められており、木製のドアは患者や利用者に安心感を与える効果がある。この製品が、施設の増改築や改修の際に採用され、新たな収益源となっている。この取り組みは、単に仕切りを提供するだけでなく、快適な空間を創造するソリューション提案へと事業領域を広げる姿勢を示している。今後も時代のニーズを捉えた製品開発と提案力を強化し、多様な空間づくりを通じて社会に貢献していくだろう。
19 位 キョーリンリメディオ〈金沢市〉 売上 342億8,500万円〈2024/3〉
名門ポイント:後発医薬品(ジェネリック医薬品)の開発・販売を専門とする企業である。医療用医薬品市場において、先発医薬品と同等の効果を持ちながら安価なジェネリック医薬品を供給することで、医療費の削減に貢献している。呼吸器系や循環器系をはじめとする幅広い治療領域にわたる。高品質な医薬品を安定的に提供するため、徹底した品質管理体制を敷いているのが強みだ。ジェネリック医薬品の普及は国の医療政策でも推進されており、高齢化が進む社会において、持続可能な医療制度を支える上で重要な役割を担っている。今後も社会的なニーズに応える高品質なジェネリック医薬品を提供し続けることで、人々の健康と医療の発展に貢献していくだろう。
18 位 津田駒工業〈金沢市〉 売上 364億4,500万円〈2024/11 連結〉
名門ポイント:織機と工作機械を主力とする専門メーカーである。繊維機械事業では、高機能繊維向けのエアジェット織機やウォータージェット織機で高い技術力を誇り、世界中の繊維産業を支えている。一方、工作機械事業では、自動車や航空機部品の製造に不可欠な精密加工機械を手がけるなど、幅広い産業分野に貢献し、ニッチな市場で独自の存在感を発揮している。特に、高機能・高付加価値な繊維製品の需要が高まる中、織機は炭素繊維などの特殊な素材にも対応できる高い性能を持つ。今後も時代の変化に対応した技術革新を進め、繊維と工作機械という2つの柱で、国内外の「ものづくり」を支え続けるだろう。
17 位 石川サンケン〈羽咋郡志賀町〉 売上 373億円〈2025/3〉
名門ポイント: サンケン電気グループの連結子会社であり、パワー半導体の製造を手がける専門メーカーである。親会社であるサンケン電気の主要な生産拠点として、電力を効率的に制御するパワー半導体の後工程(パッケージングや検査)を一手に担っている。パワー半導体は、電気自動車(EV)や産業機器、家電製品など、現代社会に不可欠な様々な機器に搭載されており、その需要は世界的に拡大している。今後もパワー半導体技術の進化に対応し、ものづくりの基盤を支える企業として、その役割を果たし続けるだろう。
16 位 小松マテーレ〈能美市〉 売上 395億2,600万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:高機能繊維素材の開発・製造を手がける専門メーカーである。独自の染色加工技術を核に、ファッションからスポーツ、産業資材まで幅広い分野に革新的な素材を提供している。技術力の象徴ともいえるのが、高機能素材「KONBU(コンブ)」だ。これは、昆布のようなドライ感と締まり感を特徴とし、軽量性と耐久性を兼ね備えた特殊な生地で、世界中の著名ブランドやデザイナーから高く評価されている。この素材は、長年にわたる研究開発と独自の加工技術の結晶であり、グローバル市場での競争力の源泉となっている。事業活動における環境負荷低減にも積極的に取り組む。今後も独自の素材技術を追求し、環境に配慮したものづくりを通じて、世界の繊維産業をリードしていくだろう。
15 位 トランテックス〈白山市〉 売上 410億5,800万円〈2025/3〉
名門ポイント: 日野自動車を主要な顧客とするトラックボデーの専業メーカーである。日本の物流を支える基盤として、大型から小型まで、幅広い車種や用途に対応した荷台部分を製造する。長年にわたり培ってきた高い技術力と品質管理体制は、国内トラックメーカーから厚い信頼を得ている。製品開発においては、市場の変化と顧客のニーズに常に耳を傾け、技術革新を追求している。近年、地球温暖化対策やカーボンニュートラルへの関心の高まりを受け、物流業界でも電動車(EV)へのシフトが加速している。これに伴い、EVトラックの課題である航続距離の短さを克服するため、独自の軽量化技術を駆使したドライバンを開発した。時代の要請に応える革新的な技術と製品を提供し続けることで、物流業界の変革を牽引し、持続可能な社会の実現に貢献していくだろう。
14 位 小松ウオール工業〈小松市〉 売上 446億1,600万円〈2025/3〉
名門ポイント: オフィスや公共施設などで利用される可動間仕切りで国内トップクラスのシェアを誇る専門メーカーである。空間を自在に変化させることで、多様な働き方や用途に対応するフレキシブルな空間づくりを支えている。環境性能を高めた製品開発にも注力している。そうした中、吸音パネルの新たな工法を開発し、音響性能と意匠性を両立させながら、環境配慮型のZEB案件を獲得している。この技術は、快適な室内環境を実現すると同時に、建物の脱炭素化にも貢献するもので、高い評価を得ている。今後も空間づくりのプロフェッショナルとして、快適性と環境性能を両立させた製品を通じて、より良い社会空間の創造に貢献していくだろう。
13 位 アイ・オー・データ機器〈金沢市〉 売上 446億5,700万円〈2024/6〉
名門ポイント: パソコン周辺機器を専門に手がける老舗メーカーである。データストレージやネットワーク機器、ディスプレイといった製品群は、長年にわたり多くの企業や個人ユーザーに利用され、日本のデジタル環境の発展を支えてきた。時代の変化に合わせた新たなサービス開発にも注力している。近年、クラウドストレージの普及が進む中、NAS(ネットワークアタッチトストレージ)の新たな価値を創造するため、クラウド連携の定額サービス「LAN DISK」を開始した。これは、NASのプライベートクラウド機能に加えて、外部のクラウドストレージとデータを自動で同期させるサービスであり、データの安全性と利便性を両立させるものだ。これにより、NASを単なるデータ保存機器から、より高度なデータ活用ツールへと進化させている。今後もデジタル化の進展に対応した製品とサービスを提供し続け、快適なデジタルライフの実現に貢献していくだろう。
12 位 大同工業〈加賀市〉 売上 575億1,500万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント: 二輪車用チェーンで世界的なシェアを誇る老舗メーカーである。オートバイや自転車用のチェーンのほか、自動車や産業機械向けの伝動・搬送用チェーンも手がけ、国内外の製造業を技術力で支えている。事業活動における環境負荷低減を経営の重要課題と位置付けている。特に脱炭素化への取り組みは積極的だ。インドネシアの生産拠点では、自社工場で消費する電力を再生可能エネルギーで賄うため、第三者所有モデル(PPA)による太陽光発電システムを導入した。これは、国際的な環境会計基準である「Scope2」(エネルギー起源の間接排出)の大幅な削減に繋がるものだ。高品質な製品と環境対応への取り組みが、安定的な業績を支えている。今後も独自の技術開発と環境経営を両立させ、持続可能な社会の実現に貢献していくだろう。
11 位 歯愛メディカル〈白山市〉 売上 674億9,000万円〈2024/12 連結〉
名門ポイント: 歯科医院向けの消耗品や医療機器の通信販売を主軸に、歯科業界のサプライチェーンを支える重要な役割を担っている。事業領域の拡大と物流体制の強化を積極的に進めている。2024年には、総合通販大手であるニッセンホールディングスを買収した。この買収は、主に企業間取引(BtoB)で培った通信販売のノウハウを、一般消費者向けの事業(BtoC)にも展開し、新たな成長機会を追求する戦略の一環である。また、物流能力の増強にも注力しており、新設されたロジスティクス拠点の稼働により、発送能力を高め、顧客への迅速かつ効率的な配送体制を確立し、サービス品質の向上を図っている。歯科通販における強固な基盤と、事業拡大および物流強化への投資が、この業績を支えている。今後も歯科業界のニーズに応えながら、新たな事業領域への挑戦と物流インフラの強化を通じて、持続的な成長を目指すだろう。
10 位 加賀東芝エレクトロニクス〈能美市〉 売上 709億3,300万円〈2025/3〉
名門ポイント: パワー半導体の製造を専門とするディスクリート半導体メーカーだ。特に、MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスター)やIGBT(絶縁ゲートバイポーラートランジスター)といった電力制御に不可欠な部品の製造に特化し、日本の産業を技術で支える。電力効率化の需要が高まる中、注力するのは、高電圧に対応する製品群である。電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)といった電動車両の普及に伴い、搭載されるモーターやインバーターには高耐圧で高性能なパワー半導体が不可欠だ。HV車向けに1,200V(ボルト)対応のパワー半導体を量産し、電動車両の性能向上と省エネルギー化に貢献している。高度な製造技術と品質管理体制で、厳しい車載規格にも対応した製品を安定供給しているのが強みだ。今後も電動化や再生可能エネルギーといった分野の発展を支えるキーデバイスを提供し続け、持続可能な社会の実現に貢献していくだろう。
9 位 EIZO〈白山市〉 売上 804億9,300万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント: 医療や映像制作、航空管制といった専門市場に特化した高精細モニターメーカーである。一般消費者向けのPCモニター市場とは一線を画し、高度な信頼性と品質が求められる分野で確固たる地位を築いている。強みは、高い技術力を背景にした研究開発力だ。2025年3月期には、連結売上高804億9,300万円に対し、売上比率で8.3%に相当する研究開発費を投じている。これは、業界でも高い水準にあり、先進的な技術開発への強い姿勢を示している。特に、航空管制や手術室で使用されるモニターは、わずかな表示の乱れも許されないため、EIZOの培ってきた高精細・高信頼性の技術が不可欠である。事業の約8割がこれらの専門市場で占められており、収益基盤の安定に貢献している。今後も独自の技術開発を推し進め、新たな付加価値を創造することで、専門市場におけるリーディングカンパニーとしての地位をさらに盤石なものとしていくだろう。
8 位 ジェイ・バス〈小松市〉 売上 831億5,300万円〈2025/3〉
名門ポイント:日野自動車といすゞ自動車が共同出資するバス車体の専門メーカーだ。両社のバス事業を統合する形で設立され、路線バスから観光バスまで、日本の公共交通機関を支える車両の製造を担っている。次世代のバス技術開発にも積極的に貢献している。特に注目されるのは、自動運転技術への取り組みである。国土交通省などが推進する次世代観光バス向け自動運転レベル4対応の実証実験に参画。これは、高速道路での車線維持支援や車間距離制御など、高度な運転支援機能の実用化を目指すもので、バスドライバーの負担軽減や安全性の向上に寄与すると期待されている。共同出資による安定した事業基盤と、次世代技術開発への積極的な投資が、今後の成長を支えるだろう。これからも日本の公共交通の進化を支えるため、環境性能と安全性を兼ね備えたバス車体の開発を推進し、持続可能な社会の実現に貢献し続ける。
7 位 北國フィナンシャルホールディングス〈金沢市〉 経常収益 895億7,600万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント:北國銀行を中核とする地域金融グループである。北陸地方を主な営業基盤とし、金融サービスを通じて地域経済の発展を支えている。同グループは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて地域社会の課題解決を積極的に推進している。新たな成長機会の創出を目指し、スタートアップ企業への投資を積極的に行うなど、金融サービスにとどまらない取り組みを展開している。今後も時代の変化に対応した金融サービスと、地域経済の活性化に貢献する多様な事業を通じて、持続可能な地域づくりを目指していくだろう。
6 位 三谷産業〈金沢市〉 売上 1,030億7,200万円〈2025/3 連結〉
名門ポイント: 化学品、情報システム、空調設備工事など6つの事業セグメントからなる複合商社である。各分野において調達から設計、施工、保守まで一貫して対応できる体制を整えており、異なる事業領域の技術やノウハウを組み合わせた総合的なソリューション提案を強みとしている。情報システム分野ではクラウドやAIを活用した企業のデジタル化支援を進め、空調設備分野では省エネルギーやBCP対応を意識した高付加価値案件を展開。化学品分野では工業用薬品やプラスチック原料の安定供給を通じ、幅広い製造業の基盤を支えている。こうした事業間のシナジーにより、多様化する顧客ニーズや社会課題、市場の変化に柔軟に対応できる強みを持っている。今後も複合的な事業の強みを最大限に活かし、社会の変化に対応した新たなソリューションを創出していくことで、持続的な成長を目指すだろう。
5 位 澁谷工業〈金沢市〉 売上 1,154億3,400万円〈2024/6 連結〉
名門ポイント: 飲料や医薬品、食品などの分野で利用される充填・包装ラインの総合メーカーである。世界各国に事業を展開し、特に液体充填機においては高い技術力と実績を誇る。製品開発は、常に最先端技術を取り入れることで知られている。近年では、AIを活用した画像検査システムや、医薬品・再生医療分野での新たなプラント技術など、多岐にわたる研究開発を推進している。これにより、製造ラインの高速化や品質管理の強化を実現し、顧客企業の生産性向上に貢献している。また、国内外での設備投資需要の拡大を背景に、堅調な業績を維持している。これからも革新的な技術とグローバルな視点をもって、世界の製造現場における「ものづくり」を支え、高品質な製品の安定供給に貢献し続けるだろう。
4 位 明祥〈金沢市〉 売上 1,182億3,500万円〈2025/3〉
名門ポイント:北陸を中心に広範な医療機関を取引先とし、医薬品や医療機器の安定供給を通じて地域医療を支える医薬品・医療機器の専門商社だ。強みは、迅速かつ正確な物流システムにある。近年、本社物流センターの増築棟に自動倉庫システムを導入し、稼働を開始した。これにより、医薬品や医療機器の在庫を効率的に管理できるようになっただけでなく、在庫回転日数を大幅に短縮することに成功した。また、医療分野におけるデジタル化や地域包括ケアシステムの進展に対応したサービス提供が、業績を牽引している。今後も最先端の物流技術を積極的に取り入れ、地域医療の発展に貢献するパートナーとして、その役割を果たし続けるだろう。
3 位 PFU〈かほく市〉 売上 1,220億円〈2024/3 連結〉
名門ポイント:ドキュメントスキャナーの世界的なリーディングカンパニーである。長年にわたり培ってきた画像処理技術は、高速かつ高精度なデータ化を実現し、「ScanSnap」ブランドはパーソナルから業務用まで幅広い分野で高い評価を得ている。PFUは、単なるハードウェアメーカーにとどまらず、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するソリューションプロバイダーへと事業領域を拡大している。特に2022年にリコーの完全子会社となって以降は、AI(人工知能)技術の展開を加速させている。これにより、現場でリアルタイムにデータを分析・処理するシステムを提供し、企業の業務効率化や新たな価値創造を支援している。今後も独自の画像処理技術とAIを融合させ、多様なビジネスシーンにおけるDXを強力に推進し、社会のデジタル化に貢献していくだろう。
2 位 カナカン〈金沢市〉 売上 1,769億800万円〈2025/3〉
名門ポイント:北陸地方を拠点とする大手食品卸売業だ。外食産業やスーパーマーケット、給食事業者など多岐にわたる顧客に対し、食料品全般の安定供給を支えている。カナカンは、物流機能の強化と効率化に注力してきた。特に、AIを活用した需要予測システムと自社で構築した低温物流網は、食品ロスの削減に大きく貢献している。これにより、新鮮な食材を必要な場所にタイムリーに届けるだけでなく、流通過程における食品廃棄を抑制し、環境負荷の低減にも寄与している。食の多様化や外食産業の回復を背景に、堅調な業績を維持している。今後も食品流通のインフラを担う企業として、最新技術と強固な物流網を融合させ、社会の食を豊かにする役割を果たし続ける。
1 位 クスリのアオキホールディングス〈白山市〉 売上 5,014億7,000万円〈2025/5 連結〉
名門ポイント: 北信越地方を中心に全国へ展開するドラッグストアチェーンである。積極的なM&Aと新規出店を加速させ、全国1,000店舗体制を築き上げた。成長の要因は、生鮮食品の取り扱いを強化した「スーパー・ドラッグストア」業態の拡大と、経営効率化への取り組みにある。商品の需要予測に生成AIを活用することで、欠品率を低減し、在庫コストの削減を実現した。今後も生活インフラとしての役割を担いつつ、最新技術の導入を通じて持続的な成長を目指す。
総評
石川県の産業構造は「医薬・流通+半導体・電子部品+機械・輸送+高機能繊維」が四本柱。能登半島地震の復旧需要と、北陸新幹線延伸に伴う物流インフラ強化が地域経済を底上げする。上位企業は共通してScope 3削減とAI/DX投資を加速させており、2025年度もサプライチェーン強靭化とカーボンニュートラルが経営テーマとなる。