
8月3日に山梨県で開催された「富士北麓ワールドトライアル」の男子100m予選で、桐生祥秀(日本生命)が9秒99(+1.5m)をマーク。自身2度目となる9秒台を8年ぶりに記録し、世界陸上東京大会の参加標準記録(10秒00)を突破。代表入りが確実となった。会場では記録ラッシュが相次ぎ、日本の男子短距離界が再び活気を帯びている。
桐生、29歳での復活劇 再び「9秒台」へ
この日、スタジアムの注目を一身に集めた桐生は、スタートから安定した加速を見せ、力強くフィニッシュラインを駆け抜けた。タイムは9秒99。8年前、日本陸上界の歴史を塗り替えた自身の「9秒98」以来の快記録となった。
7月の日本選手権で5年ぶりの優勝を果たし、その後の海外遠征でも10秒0台を連続して記録。復調の手応えを得たうえで迎えたこの大会で、ついに「9秒台」に戻ってきた。
挑戦を重ね続けた10年の軌跡
桐生祥秀が注目を集め始めたのは、まだ高校生だった2013年。10秒01という当時の高校記録を叩き出し、「9秒台に最も近い男」として脚光を浴びた。
その後、大学進学後も記録を伸ばし、2017年には日本人初の100m9秒台(9秒98)を達成。一気に日本スプリント界の象徴的存在となった。
しかし、栄光の裏には幾度となく訪れた故障の壁もあった。ハムストリングや腰の痛みに悩まされ、フォーム修正にも試行錯誤を重ねた。大舞台での失速や代表落ちも経験したが、そのたびに「もう一度、世界へ」という想いを胸に立ち上がり続けた。
2025年、29歳で再び9秒台へ。記録の更新だけでなく、挑み続けるその姿勢が、多くのファンの心を揺さぶっている。
若手の台頭も刺激に 代表争いは激化へ
桐生の記録に続くかのように、この日の大会ではほかの選手も自己ベストを更新し、参加標準記録を突破する快走が相次いだ。特に、今季頭角を現した大学生や高校生の選手たちが、記録で桐生に迫る場面も見られた。
世界陸上男子100mの代表枠は最大3人。すでに今季9秒台を記録している選手が複数おり、代表選考は混戦の様相を呈している。
ベテランの意地と未来への継承
記録という結果を突きつけながらも、桐生の走りには、単なる数字を超えた価値がある。長年第一線を走ってきた選手が再び復活を遂げることで、若手選手たちにとっても大きな刺激となるだろう。
日本の男子短距離界は今、過去と未来が交差する地点にある。29歳のベテランが見せた再起のスプリントが、新たな時代の扉を押し開いた。