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日本株式会社と世界経済|過去・現在・未来 -日本社会の新たな役割を考える-

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日本株式会社と世界経済 日本社会の新たな役割を考える サムネイル
PhotoTadaoOnaka200303

大中忠夫(おおなか・ただお)
株式会社グローバル・マネジメント・ネットワークス代表取締役 (2004~)
CoachSource LLP Executive Coach (2004~)
三菱商事株式会社 (1975-91)、GE メディカルシステムズ (1991-94)、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタントLLPディレクター (1994-2001)、ヒューイットアソシエイツLLP日本法人代表取締役 (2001-03)、名古屋商科大学大学院教授 (2009-21)
主な著書:「日本株式会社 新生記 第1~13巻」2024.05.17
     「持続進化経営力構築法」2023.4.7
     「人的資本経営 調査統計」2022.12.17
     「持続的進化を実現する企業経営戦略体系」2014.10.23
     「持続的な進化を実践するマネジメント技術体系(上・中・下) 」2014.8.8 

「日本株式会社 新生記」 全13巻 発刊

筆者は、2024年5月17日に、「日本株式会社 新生記」 全13巻を上梓しました。上場日本企業2,920社の持続的な進化・成長力を2013-22年の10年間の有価証券報告書情報から数値計測したデータブックです。

過去20年以上にわたり経営評価の習慣となっているROE(株主資本利益率)などの利益のみに着目した短期業績評価指標では、その逆の、企業の持続可能性、サステナビリティは測定できませんそこでこれを本書では、当期利益にさらに人件費と法人税を加えた合計額、すなわち企業が産出した正味の「付加価値」額、の長期的な(10年間)増減傾向値で測定しています。

日本企業群の持続的な進化成長の底力

 企業が産出した正味の付加価値合計の長期的な増減傾向値を測定すると、日本企業社会、さらにはそれを基盤とする日本経済の、外観だけからではみえない、全く新たな本質が現われます。それが過去10年間の上場2,920社の、さらには1960年以来60余年間の290万余社の日本企業の持続的な進化成長の「底力(そこじから)」です。本書はこの底力を数値で検証しています。

その1.まず全体の69%の2020社が同期間に、正味の付加価値、本書で呼称する「企業総生産(GCP:Gross Corporate Product)」をプラス成長させています。(図1&表1)

その2.またこの10年間に、2,920社の純資産合計は270兆円から480兆円へとほぼ2倍の規模に成長しています。(図2&表2) そして、実に全体の85%の2,491社が、一般的に米国型の物言う株主が最も嫌う「企業内の資産蓄積」を増加させているのです。(図3)

その3.さらに、財務省・財務総合政策研究所の法人企業統計データでは、金融保険を除く日本企業294万社の2022年純資産合計857兆円が、日本の経済バブル絶頂期1990年の243万社の純資産合計219兆円の、4倍近くにもなっていることが示されています。(図4&図5)

その4.2,920社のうち創業70年以上(1952以前創業)の長寿企業は1,285社。全体の44%ですが、その企業総生産の2013-22年10年間の合計額は562兆円で、全体2,920社合計867兆円の65%を占めています。また同1,285社の企業総生産の年率増加額も2.2兆円余りで、全体2,920社の3.4兆円の67%を占めています。これらが、長寿企業ほど持続進化経営力を豊かに備えている事実を示しています。(図6、表3&4)

その5.そして最後に付け加えれば、2019年に米国ビジネスラウンドテーブルが提起したものの米企業社会では一向に実現しない「脱株主偏重経営(Scrapping Shareholder Primacy)」を、日本の上場企業2,920社の70%の2,051社が過去10年間に既に実践しています。これら70%、2,051社では2013-22年の10年間の純資産増加率がROE増加率を上回っているのです。また71%の2,086社でも、企業総生産(GCP)増減率がROE増減率を上回っています。 (図7、表5&6)

 これらの事実は、現代日本企業社会、いわば日本株式会社が、過去半世紀近くの株主偏重経営、あるいは短期業績重視経営、で自己消耗し続けてきた欧米企業とはまったく異なる、先進企業社会の唯一の存在となっていることを示しています。グローバル社会唯一のサステナビリティ経営を、既に実現しつつあるのです。

 そして、同時に、この事実が、日本企業社会のみになぜ持続的な進化成長を追求する経営が実現したのか?その進化の原点が何であったかをも示唆しています。

図1.企業総生産(2013-22) 年率増減額別の企業数分布

企業総生産(2013-22) 年率増減額別の企業数分布1

表1.2013-22企業総生産の年率成長額上位100社

2013-22企業総生産の年率成長額上位100社

図2.上場2,920社の純資産合計2013-22推移

上場2920社の純資産合計2013-22推移

表2.2013-22純資産の年率成長額上位100社

2013-22純資産の年率成長額上位100社

図3.純資産(2013-22) 年率増減額別の企業数分布

純資産(2013-22) 年率増減額別の企業数分布

図4.日本企業294万社(2022年度)の1960-2022純資産推移(その1)

日本企業294万社(2022年度)の1960-2022純資産推移(その1)

図5.日本企業294万社(2022年度)の1960-2022純資産推移(その2)

日本企業294万社(2022年度)の1960-2022純資産推移(その2)

図6.上場2,920社の創業年数別2013-22企業総生産合計と年率増加額合計

上場2920社の創業年数別2013-22企業総生産合計と年率増加額合計
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表3.上場2,920社の企業総生産・成長年輪巾上位100社

上場2920社の企業総生産・成長年輪巾上位100社

表4.上場2,920社の企業年齢上位100社

上場2920社の企業年齢上位100社

図7. 上場2,920社の「企業総生産と純資産の増減率>=ROE増減率」の企業数

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表5.2,920社で「純資産成長率>=ROE成長率」の上位100社

2920社で「純資産成長率>=ROE成長率」の上位100社

表6.上場2,920社で「企業総生産成長率>=ROE成長率」の上位100社

上場2,920社で「企業総生産成長率>=ROE成長率」の上位100社

日本株式会社の持続的な進化成長の原点

 本書の計測事実のみから、日本企業社会の持続進化経営力の原因を総合的に分析することはできませんが、その原点が、1960年に起動した池田内閣による高度経済成長政策にあったであろうことは、同首相の1952年の著書「均衡財政」(1999年中公新書)からも読み取れます。その原点を要約すれば、「企業は社会経済の絶対基盤であり、企業には経済成長の原動力としての役目を果たすべき使命がある」との提起です。

 企業は社会的な存在であり、社会全体に尽くすことを本分とする存在であることが提起されているのです。これはまさに2020年にダボス会議の別名で知られる世界経済フォーラムが宣言した「ステークホルダー資本主義」そのものです。同じ内容の宣言が、ダボス会議に先立つこと70年前にすでに日本社会で提起されているのです。その結果、日本企業には社会に尽くすことで社会変化とともに進化成長する経営力が出現しました。

 しかしながら、その日本企業社会の持続的な成長力は、それに対する1980年代の日本社会の過剰熱狂と少なからぬ社会的奢り、さらには外部からの規制、日米貿易規制あるいはBIS規制といった金融機関行動規制により、1990年代前半から衰退し始めしました。さらには、それに追い打ちをかけるように、90年代後半からは外資導入自由化とともに流入した株主重視経営要求によって日本型経営はほぼ骨抜き状態となり、消滅したかにもみえました。

 しかし、その20世紀中盤に確立された日本企業の底力は生き残っていた。そしてそれが2024年現在新たに進化した日本株式会社を出現させつつある。本書は、この事実を過去10年間の上場2920社の経営実績データから明らかにしています。

現代世界における日本企業社会の新たな役割を考える

 では、2024年現在の日本企業社会は今後新たに何をめざすべきか?日本株式会社の新たな進路をどうさだめるか?これに関する貴重なヒントも、池田首相の「均衡財政」に記されています。

 「われわれは、心から世界平和の実現を念願する。だから、日本経済の運営にあたってもまた、この念願を実現するために、必要な経済条件を造り出すことが根本の目標とならなければならない。」「均衡財政」池田勇人1952 

 さらに同書には現代グローバル社会にまさに緊急不可欠なメッセージが記されています。

 国民的な貧困を、戦争に訴えて、領土や勢力圏の拡大によって克服しようと考え、その戦争準備のために、逆に国民生活が圧迫されるという矛盾、そしてとどのつまりは、戦敗国はもちろん、戦勝国も戦争の被害とその影響のために、長い間苦しむといった矛盾を、人類は歴史のうちに繰り返してきた。第二次大戦は、このような矛盾に終止符を打つものとしたい。歴史は必ず繰り返すものだ、という考え方は、人間が人間たる資格を放棄するものである。私は人類が、自らの不幸を避けなければならないと「考える叡智」と、これがために自らを律する「自由な意思」を有することを信じる。

 この池田首相の願いにもかかわらず、人間社会は2024年現在でも、国民的な貧困、国家的な経済の低迷あるいは停滞を他社会への武力侵攻による経済価値の取得、エネルギー源や生産機能の取り込み、で解決しようとする行動を止めていません。有史以来の原始的発想から進化できていない国家と政府が依然として出現し続け、グローバル社会に多大な不安を与え続けているのです。そしてそれらの国家・政府レベルの歴史的トラウマ行動の数々が、人間社会の存続を脅かす状況をも生み出し続けています。

現代グローバル経済が直面しつつあるもう一つの深刻な危機

 このような世界各地で生じている武力衝突、さらにはその予兆、とは別に、さらにそれらを加速させかねない深刻な危機にも現代グローバル経済と社会は直面しつつあります。その予兆としては以下の5つの事象があります。

 1.米国ビジネスラウンドテーブルによる「脱」株主重視経営提言:これを提言したのは米国金融経済の統率リーダー、JPモルガンチェース銀行J.ダイモンCEOです。すなわち、この提言が、米国金融経済のトップですら、その基盤となっている米国実体経済の衰退が見逃せないレベルになっていると認識していることを示しています。

 2.パウエルFRB(連邦準備制度)は、2008年にノーベル経済学賞受賞者バーナンキ元議長が導入したゼロ金利政策の2016年の停止以来、2024年現在にいたるまで8年間にわたる高金利政策を実施しています。しかし、いまだにこの高金利政策を取り下げる気配はありません。表向きはインフレ沈静のためとされていますが、その鎮静が実現できている気配もありません。これは単なる一般的なインフレなのでしょうか?

 3.2024年5月に、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価もナスダック株価も歴史上の最高値を更新しつづけています。

 4.2024年4月に訪中したイエレン米財務長官は、中国の過剰生産などに注文をつけながらも、同米中協議の目的の一つに世界的な金融危機への対処準備を掲げています。

 5.停戦の兆しも見えないロシアのウクライナ侵攻に続いて、ガザやイラン・イスラエル紛争、といった武力衝突が勃発し続けています。 新興諸国でも、経済閉塞打開のために、民主主義を犠牲にした独裁的政府を支持する動きも始まりつつあるようです。これらの紛争の原因をたどればそこにはすべて社会経済の行き詰まりがあります。経済的に豊かである社会が自らそれを破壊する武力紛争を起こすことはあり得ないからです。紛争の火種の数だけ社会経済が危機に瀕しているといってよいでしょう。(注)

 それでは、これらの5つの事象は一体何を示唆しているでしょうか?一部には1929年の米国発世界大恐慌の前夜にも似た状況だなどという見方もあるようですが、さすがに百年の歴史を経験した現代グローバル社会が同じ事を繰り返すことはないでしょう。とはいえ、しかしながら、現代グローバル経済がこれまでにない深刻な閉塞状況にあることは、これら5つの事象からあきらかです。

 注:なお、池田首相が70年前に宣言したように、自国経済の行き詰まりを独裁政治や他国への武力侵攻で打開しようとすることは、完全な矛盾であり、誤りです。なぜなら人間社会の自由と平和の存在しない環境では、持続的な経済成長の絶対基盤である、創造力と勤勉意欲に溢れる企業社会は、「絶対に」出現しないからです。21世紀には、独裁政治が自国経済を進化成長させることをめざすこと自体が完全な自己矛盾なのです。そしてその矛盾に直面するとあとは独裁政治に幕を下ろすか、他社会への武力侵攻を開始するかの、いずれかの選択肢を取らざるをえなくなります。その後者の選択肢の繰り返しが、人間社会全体の持続可能性を脅かし続けています。

日本株式会社の新たな進路と未来

 どうやら、60年前に池田勇人首相の「世界平和のための高度経済成長」宣言に起動されて実現した日本株式会社の新たな役割がみえてきたのではないでしょうか?「日本株式会社 新生記」は、日本企業社会が、このグローバル社会経済閉塞の時代に担うべき新たな役割を担う十分な底力を蓄積している事実のみでなく、その事実認識に基づいて現代グローバル社会の平和共存を可能にするために何をすべきかを考える事を目的としています。

 それは一言でいえば、新生日本株式会社の持続進化経営モデルを広くグローバル社会に拡散させることといってもよいでしょう。日本製鉄によるUSスチール買収はその試みの第一歩でもあるでしょう。また今後は中国経済の再生支援を目的とする対等合弁事業も新たに多種多様に拡大していくのではないでしょうか?

 グローバル社会全体に対して、社会経済の基盤となりこれを持続的に進化成長させ続ける社会的存在(Social Entity)としての会社モデルを提起し続ける。それは人間社会を含む地球上の全ての生命の平和共存を実現する経済モデルの提起でもあるでしょう。

 最後に、日本株式会社 新生記 第1巻の目次をご紹介します。

「日本株式会社 新生記」 第1巻 目次 抜粋

 本第1巻の冒頭扉頁には二つのメッセージを掲げています。池田勇人首相の「経済進化と成長によって世界平和を実現する」(「均衡財政」1952)提唱と、第二次大戦終結後、実質的に日本占領軍総司令官であったダグラス・マッカーサー元帥の、「日本は未来世界に最も貢献する可能性を秘めた社会である」との声明を含む米国議会での退任演説(1951.04.19)抜粋です。これらのあとに以下の目次が続いています。


                      目次
まえがき
序章 なぜいま持続進化経営力が求められるのか?
現代社会の最大資本家は年金基金

第1部 持続進化経営 基盤力測定

第1章 上場2920社 持続進化経営・基盤力 測定統計
1707社(58%)が持続進化経営の基盤力を保有
1.基盤力の4領域分類判定
2.基盤力の4領域分類統計

第2章 上場2920社 企業総生産 (GCP) 測定統計
2020社(69%) が企業総生産プラス成長
1.企業総生産の2013-22進化成長記録
2.人件費の2013-22進化成長記録
3.純利益の2013-22進化成長記録
4.法人税の2013-22進化成長記録

第3章 上場2920社 企業総投資 (GCI) 測定統計
2107社(72%)が企業総投資を持続的に増大
1.企業総投資の2013-22進化成長記録
2.研究開発費の2013-22進化成長記録
3.設備投資の2013-22進化成長記録

第2部 持続進化経営 総合力測定

第4章 上場2920社の持続進化経営・総合力 測定統計
上位1036社(33%) 持続進化経営力・診断データ
1.総合力の数値計測
2.総合力の数値統計:全産業上位1036社診断データ

第5章 上場2920社 持続進化指数 (CSI) 測定統計
1554社(53%)が持続進化経営力を向上
1.持続進化指数の2013-22進化成長記録
2.持続進化指数・成長率と持続進化経営・基盤力
3.持続進化指数・成長率と持続進化経営・総合力

第6章 上場2920社 純資産&利益剰余金 測定統計
2491社(85%)が純資産を持続的に増大
1.純資産の2013-22進化成長記録
2.利益剰余金の2013-22進化成長記録 

第3部 日本株式会社新生記

第7章 ROE短期業績経営からGCP持続進化経営へ
2051社(70%)が「脱」短期業績偏重経営

第8章 創業70年超長寿企業の持続進化経営力
1285社(4割)が2920社企業総生産の3分の2

第9章 1960-2022 日本経済4段階進化60年史
バブル最盛期の4倍:日本株式会社2022年純資産

第10章1985-2022日米経済と中央銀行の均衡37年史
フリードマンの夢を実現する資本主義と自由主義の両立条件

あとがき
日本社会経済の未来進路:
世界平和と全生物共存の経済モデル探求

付録1.日米国内総生産(GDP)要素分解
付録2.日独GDP実質検証
付録3.持続進化経営・基盤力4領域 事例企業データベース

日本株式会社 新生記 全13巻 紹介 


(参考図) 「日本株式会社 新生記」 第1巻 付録2. 日独GDP実質検証 抜粋

「日本株式会社 新生記」 第1巻 付録2. 日独GDP実質検証 抜粋1
「日本株式会社 新生記」 第1巻 付録2. 日独GDP実質検証 抜粋2

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ライター:

株式会社グローバル・マネジメント・ネットワークス代表取締役 (2004~) CoachSource LLP Executive Coach (2004~)三菱商事株式会社 (1975-91)、GE メディカルシステムズ (1991-94)、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタントLLPディレクター (1994-2001)、ヒューイットアソシエイツLLP日本法人代表取締役 (2001-03)、名古屋商科大学大学院教授 (2009-21) 最新著書:『持続進化経営力構築法』2023 

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