2020年3月24日の「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫ ~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~が金融庁から発表されました。この中で機関投資家はより企業のサステナビリティ(ESG要素)を注視し、投資をすべきというスタンスがより強調されることになりました。本稿では、主にマザーズ等新興市場の上場企業や今後上場を検討するベンチャー企業が意識すべきポイントについてまとめてみたいと思います。
個人投資家が中心となっているマザーズ等新興市場の企業にとって、株価の激しい変動はできるだけ避けたいところです。そこで、上場後に中長期に株を保有してもらえる安定株主対策が非常に重要なテーマとなっています。そこで、この機関投資家の行動を方向付けるスチュワードシップコードを注視しておかねばなりません。
最初にスチュワードシップコードが設定されたのは2014年のこと。これと対になっているのが企業にはより広く知られているコーポレートガバナンス・コードです。コーポレートガバナンスコードは投資家に向けて上場企業が守るべきガイドラインであり、各基本原則の項目を遵守する場合に投資家に報告することは当然のこととして、遵守しない場合はなぜなのか理由を説明する義務があります。
時間的な関係で言うと、まず、スチュワードシップコードが改訂され、これより1年後にコーポレートガバナンスコードが改訂されるという手順を踏みます。したがい、2021年のコーポレートガバナンスコード改訂においてもサステナビリティを意識した企業活動がより要求されるようになってくることがはっきりしたことを意味しています。
一部上場企業であれば、統合報告書や、機関投資家への説明会等、サステナビリティを説明するための機関投資家との対話のツールを整えていますが、新興市場の企業においては対応にばらつきがあるようです。しかし、今後は上場後成長をめざす上場企業や、IPOを目指す企業(上場後の準備が必要になるという意味で)はサステナビリティを意識した、機関投資家との対話戦略を考える必要がより高まってきました。
【改訂ポイント】
以下赤字が追加項目となります。
「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫ について
本コードにおいて、「スチュワードシップ責任」とは、機関投資家が、投資先企業や その事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG 要素 を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲ ージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことによ り、 「顧客・受益者」(最終受益者を含む。以下同じ。)の中長期的な投資リターンの拡 大を図る責任を意味する。
■原則1 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定 し、これを公表すべきである。
・指針
1-1. 機関投資家は、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦 略に応じたサステナビリティ(ESG 要素5を含む中長期的な持続可能性)6の考 慮に基づく建設的な「目的を持った対話」 7 (エンゲージメント)などを通じて、 当該企業の企業価値の向上やその持続的成長を促すことにより、顧客・受益者 の中長期的な投資リターンの拡大を図るべきである。
1-2. 機関投資家は、こうした認識の下、スチュワードシップ責任を果たすための 方針、すなわち、スチュワードシップ責任をどのように考え、その考えに則っ て当該責任をどのように果たしていくのか、また、顧客・受益者から投資先企 業へと向かう投資資金の流れ(インベストメント・チェーン)の中での自らの 置かれた位置を踏まえ、どのような役割を果たすのかについての明確な方針を 策定し、これを公表すべきである。 その際、運用戦略に応じて、サステナビリティに関する課題をどのように考 慮するかについて、検討を行った上で当該方針において明確に示すべきである。