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絆ホールディングス傘下の150億円不正受給問題 障害者就労支援で何が起きたのか?制度の抜け穴と手口を解説

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絆ホールディングス傘下の150億円不正受給問題

障害者の就労支援を行う「絆ホールディングス」傘下の事業所が、約150億円もの給付金を不正受給していた問題が発覚した。福祉ビジネスの裏側で何が起きていたのか。制度の抜け穴を突いた巧妙な手口や、当事者の生々しい証言、今後の業界への影響まで、事件の全貌をわかりやすく解説する。

 

前代未聞の巨額不正:大阪市が下した最も重い行政処分

障害者の就労を支援する福祉ビジネスの現場で、前代未聞の巨額な不正受給問題が明らかとなった。

大阪市は2026年3月27日、同市内に本社を置く福祉関連会社「絆ホールディングス」のグループ法人が運営する4つの「就労継続支援A型事業所」に対し、障害者総合支援法に基づく行政処分を下したと発表した。処分の内容は、事業者にとって最も重い「指定取り消し」であり、同年5月1日からその効力が発生する。

この問題の異常性は、何よりもその被害規模の大きさにある。各社報道、および大阪市の発表によると、処分対象となった4事業所は2024年度から2025年度の約2年間にわたり、障害者の就労支援の実績に応じて支払われる給付金の「加算金」を不正に受け取っていたと認定された。

その受給額は途方もない。

大阪市に対する不正請求分だけでも約79億円に上り、その他にも大阪府内や京都府、奈良県、埼玉県など2府5県の計75市町村に対して約71億円が支払われている。全国での不正受給総額は、およそ150億円にのぼると算定されているのだ。

大阪市は、同市が支払った約79億円に対して、法律で定められたルール違反に対するペナルティ(4割の加算金)を上乗せし、総額約110億円の返還を請求する方針を固めた。さらに、極めて悪質な不正であるとして、刑事告訴や告発についても弁護士と協議を進めている状況だ。

社会貢献性が高いはずの福祉業界において、これほど短期間に国家予算レベルの巨額な不正がなぜ可能だったのか。本記事では、複雑な障害福祉サービスの仕組みを紐解きながら、制度の死角を突いた巧妙な手口の実態に迫る。

「就労継続支援A型」とは?:福祉ビジネスの基本構造を知る

 

今回の問題を深く理解するためには、舞台となった「就労継続支援A型」という制度の根本的な仕組みを知る必要がある。

就労継続支援A型とは、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つである。通常の民間企業などで雇用されることが困難な障害者に対して、働く場を提供するとともに、知識や能力の向上に必要な訓練を行うことを目的としている。

この制度の最大の特徴は、事業所と利用者の間で直接「雇用契約」を結ぶ点にある。利用者は労働基準法などの適用を受ける労働者となり、最低賃金以上の給与(工賃)を受け取ることができる。主な業務内容は、パソコンでのデータ入力やウェブ制作、商品の梱包、軽作業など、事業所によって多岐にわたる。

では、事業所側はどのようにして利益を出しているのか。その収益構造は、大きく二つの柱から成り立っている。一つ目は、利用者が従事する業務そのものから得られる「事業収益」である。そして二つ目が、障害者に対して福祉サービス(就労支援や訓練)を提供した対価として、国や自治体から支払われる「訓練等給付費(給付金)」である。

この給付金は、サービスを提供した日数や人数に応じて事業所に支払われる。利用者が事業所に通い、支援を受けることで、事業所には安定した報酬が入る仕組みとなっている。

本来、就労継続支援A型は、利用期間に上限がなく、利用者の希望や能力に応じて、できる限り一般企業への就労(一般就労)への移行と、その後の定着を目指すためのステップアップの場である。しかし、この給付金の仕組みを熟知している事業者ほど、制度を利用して大きな利益を出しやすい構造になっていることも事実であり、それが今回の不正の温床となった。

巨額の利益を生む「就労移行支援体制加算」のカラクリ

 

就労継続支援A型の事業所が受け取る給付金には、基本報酬に加えて、事業所の努力や支援実績を評価して上乗せされるさまざまな「加算金」が設定されている。今回の150億円という巨額の不正受給を生み出す最大の原動力となったのが、「就労移行支援体制加算」という制度である。

就労移行支援体制加算とは、事業所を利用していた障害者が一般企業へ就職し、その後6か月以上継続して働くことができた場合に、その実績を評価して事業所に支払われる報酬である。ハードルの高い「一般就労への移行」と「定着」を促進するため、国が成功報酬のような形で事業所に手厚いインセンティブを与えているのだ。

問題は、この加算金の計算方法と影響範囲にある。

実はこの加算金は、就職した本人の給付金だけが増えるわけではない。過去の一定期間に一般就労へ移行し定着した人数に応じて、翌年度の事業所に在籍する「全利用者分」の1日あたりの基本報酬に上乗せして支払われるのである。

例えば、定員「40人」のA型事業所があったとする。この事業所が熱心な支援を行い、年間で10人の利用者を一般企業へ送り出し、半年間定着させたと行政に報告したと仮定する。
この就労実績が行政に認められると、翌年度からその事業所に通う「40人全員」に対して給付金の単価が上乗せされる。仮に、この実績によって利用者1人あたり1日につき約800円の加算を獲得できたとしよう。

月に20日間事業所が稼働した場合、1人あたりの加算額は月1万6,000円となる。これが利用者40人分となると、事業所には毎月64万円、年間にして約768万円もの「基本報酬とは別の追加ボーナス」が転がり込む計算になる。

もしこのスキームを定員100人規模の大型事業所で行い、複数の施設で同時に展開したとしたらどうだろうか。さらに、就職実績の数を20人、30人と水増しできれば、加算単価は最高ランクに跳ね上がり、年間数千万円から数億円の利益を自動的に生み出す「打ち出の小づち」と化すのである。

一般就労への移行実績を多く作れば作るほど、事業所の利益が雪だるま式に膨れ上がるという極端な「成果主義」の報酬体系。この構造こそが、本来の支援目的を忘れさせ、不正な実績作りに走らせる強力な動機となってしまった。

「36ヶ月プロジェクト」の実態:制度の抜け穴を突いた手口

 

では、絆ホールディングスグループは具体的にどのような手口で莫大な加算金を生み出していたのか。大阪市の監査や報道機関各社の取材によって明らかになったのは、制度の仕様を逆手に取った、グループ内で完結する「就職ローテーション」とも呼ぶべき手法だった。

読売新聞の報道によると、同グループの事業所では「36ヶ月プロジェクト」という独自の仕組みを導入し、利用者にアピールしていた。パンフレット等では「何度でもチャレンジできる」「段階的な支援や再チャレンジの機会を提供する」と美化されていたが、その実態は加算金を不正に引き出すための巧妙なシステムであった。

【不正を生み出すサイクルの流れ】

  1. A型就労(利用者として雇用)
    まず、障害のある人をA型事業所の「利用者」として受け入れ、支援や配慮を受けながら働かせる。

  2. 一般就労(スタッフへの切り替え)
    一定期間後、その利用者を同じ事業所内、あるいはグループ内の別会社で「スタッフ(生活指導員や職業指導員など、運営側の職員)」として雇用形態を切り替える。同社はこれを「一般企業への就職(一般就労)」として行政に届け出る。

  3. 加算要件の達成
    スタッフとしての雇用が6か月続いた時点で、制度上の「一般就労に6か月定着した」という加算条件を満たしたことになり、事業所に巨額の「就労移行支援体制加算」が発生する。

  4. 再び利用者へ逆戻り
    加算の要件を満たした後、再びその人をスタッフからA型事業所の「利用者」へと戻す。

  5. ループの反復
    再び期間を空けて、同じ利用者をスタッフとして雇用し、再度「就職実績」として報告し、加算金を請求する。

このサイクルを繰り返すことで、実際のところは外部の一般企業への就職支援を行っていないにもかかわらず、書類上は「次々と一般就労の成功者を輩出している優良事業所」を作り上げることができる。外形的には仕様を満たしているように見えても、実態は利用者という「資源」を自社グループ内で回転させ、国や自治体から莫大な税金を引き出しているに過ぎない。

大阪市の担当者はMBSニュースなどの取材に対し、「制度の抜け穴を突かれたと認識している」と語っている。市は、かかる自社雇用は事業所の計画の一部にすぎず、「定着に向けた継続的な支援体制が構築されているとは評価できない」と断じ、不正請求にあたると認定した。

当事者が語る実態「仕事内容は同じ」「動画を見るだけ」

 

事業所側は、この「36ヶ月プロジェクト」をステップアップのための合理的な制度であると主張していた。しかし、実際にこの事業所を利用し、制度の対象となった当事者の声を聞くと、その実態が福祉の本来の目的から大きく逸脱していたことが生々しく浮かび上がってくる。

以下、読売新聞の取材に応じた複数の元利用者の証言を参照させてもらうが、「A型就労」から「一般就労」に切り替わったと言われても、実際の仕事の内容や環境は全く変わらなかったという。

発達障害のある30代の女性は、コロナ禍のため大半が在宅勤務であったが、職員からは「自習してください」とだけ指示され、一人でパソコンの勉強などに取り組んでいた。ある日、突然「来月から一般就労に変わります」と告げられたものの、仕事の中身は何も変わらなかった。「能力を高めたかったが、日に日に無力感が強くなっていった」と彼女は振り返っているようだ。

また、精神疾患を抱える別の30代女性の証言はさらに深刻だった。彼女は「事務所内のパソコンで好きな動画を見るように言われ、何の指示も受けなかった」と語っている。利用者の中には、アニメ動画をずっと見ているだけの人もいたという。約半年後、「一般就労になったから時給が50円上がった」と告げられ、不信感を抱いた彼女が退職を申し出ると、職員から「(加算の要件を満たすまで)もう少しでいいからいてくれ」と引き留められたというのだ。

これらの証言から見えてくるのは、障害者のキャリアアップや自立を支援するという本来の目的が完全に形骸化している実態だ。利用者は、手厚い支援を受けるどころか、事業所が加算金を発生させるための「単なるコマ」として扱われていた可能性が高い。

なぜ150億円まで膨れ上がったのか?発覚の経緯と全国への波及

 

この巧妙な不正は、なぜこれほど長期間にわたって見過ごされ、150億円という途方もない金額にまで膨れ上がってしまったのだろうか。

そもそもの発覚のきっかけは、行政への「異常な数字の報告」だった。

大阪市の監査によって、グループの各事業所から「年間それぞれ100人から250人ほどが一般就職した」という申請が続いていることが判明したのだ。福祉の現場感覚からすれば、1つのA型事業所から年間数十人から数百人単位で一般就労への移行が成功し続けるというのは、極めて不自然であり非現実的な数字である。この実績を不審に思った大阪市が2025年8月から本格的な監査に乗り出したことで、ついに実態が明るみに出た。

被害額が150億円にまで達した理由は、大きく分けて二つある。

第一に、第3章で解説した加算金の「掛け算」の構造である。就労移行支援体制加算は、就職実績の人数と在籍する全利用者の人数の掛け算で算出される。同社グループは障害者を多数雇用しながら事業を急拡大させていたため、一人あたりの実績を作り出すことで得られる加算金が、乗数効果によって莫大な金額に跳ね上がったのである。

第二に、「居住地主義」による被害の全国波及である。この給付金は、事業所の所在地ではなく、利用者が居住している基礎自治体(市町村)が支払う仕組みになっている。同社グループはリモートワークなどを積極的に活用し、近畿圏だけでなく、関東や中四国など全国に住む利用者を抱えていた。

読売新聞の報道によれば、大阪市内の居住者は半数に満たず、全国14都府県、あわせて104の市町村に請求が行われていたという。結果として、大阪市だけでなく全国の自治体から継続的に税金が引き出され、総額が150億円という国家予算規模に達してしまったのである。

絆ホールディングス側の反論と「3年ルール」を巡る見解の相違

 

大阪市からの厳しい行政処分に対し、絆ホールディングス側も公式ホームページ上でコメントを発表している。

同社は「処分を非常に重く受け止めている」「多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを、心より深くお詫び申し上げます」と謝罪し、指定取り消しを受けた4事業所を2026年4月末で閉鎖することを決定した。

一方で、不正と認定された行為そのものについては、行政と真っ向から対立する姿勢も見せている。同社は、問題視された「36ヶ月プロジェクト」について、「最終的には一般企業への就職による自立を目指し、利用者一人ひとりの状況に応じた段階的な支援や再チャレンジの機会を提供するもの」であり、プロジェクト自体が不正と評価されたことに対しては「見解を異にする部分がある」と主張。今後、代理人弁護士を通じて法的手続きの中で考えを述べていくとしている。

さらに、争点となっているのが、厚生労働省が設けた「3年ルール」の解釈である。厚労省は2024年4月の報酬改定において、加算目当ての過度な就職と退職の繰り返しを防ぐため、ルールを厳格化した。「一度就職し加算対象になった障害者については、その後3年間は就職しても事業所に加算金を支給しない」というものである。

厚労省や大阪市は、このルールは過去の加算歴にも適用されるとの見解を示している。しかし、絆ホールディングス側は「改正前の加算歴には遡って適用されない」と解釈し、2024年度以降も同様の請求を継続していた。同社は「行政とのやり取りも行ったが、解釈および内容の確認が十分ではなかった」と説明しているが、行政側はこれを明白なルール違反とみなしている。この両者の見解の相違が、過大請求の規模をさらに押し上げる要因となった。

波紋を呼ぶ余波:利用者の大量解雇危機と行政の対応

 

この問題が社会に与える余波は計り知れない。最も深刻な影響を受けるのは、指定取り消しとなる事業所で現在働いている大勢の障害者たちである。

事業所が指定を取り消され、4月末で閉鎖されるということは、そこで働く利用者が一斉に職場を失う、事実上の「大量解雇」を意味する。企業のビジネスモデル崩壊の代償を、最も弱い立場にある当事者が払わされる構図となっているのだ。

事態を重く見た厚生労働省は、異例の対応に乗り出した。

厚労省は「解雇が発生する場合には、再就職支援や他の事業所への移行支援等が必要となるが、その数が相当数に上る可能性がある」との見解を発表。大阪労働局に対して、事業所に雇用されている障害者向けの「出張相談・説明会」を速やかに実施するよう指示した。また、大阪府内のすべてのハローワークに障害者本人や家族向けの「特別相談窓口」を設置し、個人の希望を踏まえた相談支援を進めるなど、影響を受ける障害者の救済に奔走している。

影響は絆ホールディングスだけにとどまらない。

共同通信などの報道によると、大阪市は今回の事件を受け、同様の過大受給が疑われるケースがないか、市内のすべての福祉関連事業所(計1649事業所)を対象に実態調査を実施した。その結果、令和6〜7年度に加算の届け出を行っていた事業所のうち、なんと34事業所で規定に抵触している可能性があることが明らかになったという。市はこれらの事業所に対しても、聞き取り調査や運営指導を引き続き行うとしており、業界全体に対する監査の目はかつてないほど厳しくなっている。

まとめ:福祉のビジネス化が孕むリスクと今後の課題

 

150億円という巨額の給付金不正受給問題は、単なる一企業によるモラルハザードにとどまらず、日本の障害福祉制度が抱える構造的な脆弱性を白日の下に晒した。

税金や保険料を原資とする福祉の給付金が、本来届くべき支援の現場ではなく、制度の隙間を巧妙に計算したビジネススキームの利益として吸い上げられていた事実は極めて重い。就労継続支援A型だけでなく、近年急増している就労継続支援B型においても同様の加算構造が存在しており、不正が横行するリスクは依然として残されている。

福祉サービスへの民間企業の参入は、雇用の創出増や多様なサービスの提供という側面で間違いなくプラスの機能も果たしている。しかし、制度が「事業者は正しい支援を行う」という性善説に基づいて設計されている以上、今回のようにルールをハックして暴利をむさぼる「制度ビジネス」が入り込む余地は常にある。

行政側には、制度の趣旨に反する抜け道を速やかに塞ぐための精緻な法整備と、書類上の数字だけでなく、利用者の実態や声に耳を傾ける多角的で実効性のある監査体制の構築が急務となる。

同時に、福祉事業者には、企業の利益追求と「利用者の自立支援」という本来の目的のバランスをどう取るか、高い倫理観と運営の透明性が求められる。

一般消費者やビジネスパーソンである我々も、社会保障費がどのような構造で使われているのかに関心を持ち、制度の恩恵を受けるべき弱者がビジネスの「材料」として搾取されていないか、厳しい監視の目を向けていく必要があるだろう。

今回の事件が、障害のある人々が真に望む働き方を選択できる、健全な福祉制度再構築の契機となることを願ってやまない。

【参考】
株式会社絆(きずな)ホールディングス傘下法人の指定取消への対応について(厚生労働省)
報道発表資料 障がい福祉サービス事業者の指定の取消し及び訓練等給付費の返還請求について(大阪府)
弊社グループ会社が運営するA型事業所の閉鎖に関するお知らせ(絆ホールディングス)

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ライター:

新聞社で記者としてのキャリアをスタートし、政治、経済、社会問題を中心に取材・執筆を担当。その後、フリーランスとして独立し、政治、経済、社会に加え、トレンドやカルチャーなど多岐にわたるテーマで記事を執筆

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